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159話 アクセルの恐怖

数日気落ちしたアクセル達だったが、人はいずれ死を必ず迎えることになる。


気持ちを切り替える為にも、湧き上がる理不尽な怒りを抑える為にも、襲い来る理不尽を跳ね返す為にも、アクセル達はエディオンに身を置き、一心に武器を振るっていた。


そして数ヶ月が経ったある日のこと。


皆で揃い、街に繰り出していたアクセル達。

食事をしたり、買い物をしたりと、穏やかな日々を送っていたのだが、突然アクセルが明後日の方向を向き、立ち止まる。


しかも様子が普通ではない。

僅かだが、体が震えているようだった。


「ど、どうした?」


「ふぅ、ふぅ、………何かくるっ」


突然のことではあったが、あのアクセルがここまで取り乱すことに、事態の異常性を感じ取る。


「ミラ、お前はギルドに行って避難させるように伝えろ。ステラ、ソニア、できる限り物資を集めてくれ。俺は…俺は確かめてくる」


そう言ってアクセルは飛び出して行った。

皆もそれぞれが動き出す。


「はぁ、はぁ、なんだ………なんだこの異様な力は……」


道中そんな言葉がついつい出てしまうほどアクセルは取り乱す。


そして……


「うっ………………ダメだ、この力、普通じゃない…でも確かめねぇと……」


近付くにつれ、感じる力は益々鮮明に感じ取れ、アクセルを恐怖が飲み込んでいく。


そして騒音が聞こえてくる距離まで近付いた。


「なっ!?……………喰って、やがるのか」


そこで目にしたのは、異形の者だった。


すでに原型は分からないが、4足の獣のような姿でありながら、喰らったものを取り込んだのか前足の付け根から翼のような物が生え、本来頭部がある場所には人の上半身が伸びている。

その人の上半身の腹部が大きく裂け、さながら大きな口となり目に映る全てを捕食していた。


その化け物が通ったきたであろう道には何一つ残っていない。


そんな化け物が突然動きを止める。


そして人の姿をしている上半身の頭部が、ゆっくりとアクセルに視線を向ける。


「ぐっ!!」


それを見たアクセルは即座に時空間を使い、ミラの魔力を辿り転がり込むように逃げ込んだ。


「うぐっ………はぁ、はぁ」


「マスターっ!?だ、大丈夫か?」


「はぁ、はぁ」


冷や汗を拭うこともせず、アクセルは周囲は見渡す。


そこにはアリスと、数人のオラクルと思わしき人物が会議室のような場所に集まっていた。


「無理だ……すぐに逃げるぞミラ。あれはダメだ」


「ま、待て。どうしたと言うのだ!」


「ステラ達とすぐ合流して、遠くへ逃げよう!……どこか、どこかいい場所は……」


「落ち着け!!」


「落ち着いてるよ!!!ちゃんと考えてる!あれはダメだ、関わるべきじゃない!絶対だ!」


「一体なにを見た?分かるように説明してくれ」


「時間がねぇんだ!!早くしないとアイツが来る。アイツは真っ直ぐにここを目指してる。間違いない!」


他のオラクルは兎も角、ミラとアリスはアクセルの様子から只事ではないことはすぐに理解する。


ミラもここまでアクセルが取り乱したのは初めて目にし、困惑する。


そんな時ステラとソニアが帰ってくる。


「良かった!すぐに逃げるぞ。…………ミラ、早く!!」


状況をいまいち理解していないステラ達に構わず、肩に手を置き、ミラに手を差し出しながらアクセルが叫ぶ。


「ふぅ…………分かった。君は行け」


「はぁっ!?冗談言ってるっ………ってぇな!!!!遊んでる暇はねぇんだよ!!!!」


「だから行けと言っている」


ミラが落ち着かないアクセルを殴り飛ばした手を振りながら、そう告げる。


「なんでっ、なぁ時間がねぇんだよ。アイツはすぐにここに来る!」


「君がそこまで取り乱す化け物がここに迫っていることは理解した。だからこそ……………何処に逃げる?」


「あぁっ!?そんなの………」


「君が敵わないとすら思わせる化け物から何処に逃げるかと聞いている!」


「そ、それは………っ!ランタンの世界とか!」


「その化け物がこの地に留まる保証があるか?世界全てを飲み込む程の力があるだろう化け物から、一時的に避難した先に何がある?化け物に全てを奪われ、何もなくなった世界で君は笑えるか?」


「でも………それでもっ!!」


「だからこそ行けと言っている。私が残り、少しでも時間を稼ごう」


「ふざけるなよ!!!そんなこと見過ごすわけねぇだろ!」


「ならばどうする?」


「そ、それは」


「ふっ…………まったく、君の魔力を感じ取る力も考え物だな。しかし、君を臆病などと言うつもりはない。君は常に困難に立ち向かってきた。私が誰にも責めさせはしない」


「………………」


「そういう訳だ。ステラ、ソニア、マスターを頼む」


「ううん、ミラさん。僕も残るよ」


「私もです」


「おいっ!!!」


「ごめん、マスター。僕はいつもマスターの味方として傍に居たかったけど、ミラさんを1人置いていくことも出来ない」


「待てよ…………そんなこと許せるはずないだろ………頼むから………」


そう言って涙を流し崩れ落ちるアクセル。


「アリス、聞いた通りだ。君なら彼の事を信じれるだろう。問題の先延ばしにしかならないが、早く逃げた方が良い」


「いや、無理だよ。私達はすぐ海から抜け出す術がないからね。しかし彼がそこまで怯える相手とは………」


そんな会話を聞いたからか、他のオラクルがボソッと呟いた。


「まさか"神喰い"」


「バカな!!あれは大昔に当代の英雄が討ち取ったはずだ」


そんな会話が届いたのか、アクセルが力ない声で会話に割り込む。


「あれは、色々と喰っていた。そして真っ直ぐにここを、ここにいる、アンタらを目指してる。感、だがな」


「ま、まさか本当に………」


「その神喰いというのは?」


ミラの問いかけにアリスが答える。

神喰いとは古の魔王が生み出したとされる化け物であり、神話時代の化け物だ。

名前の由来の通り、あらゆるものを喰らい、自らの糧とすることでいずれ神すら喰らうとされていることからこのながあついた。


過去、1度復活しており、その際には、英雄と呼ばれる1人の人間が、神より賜った一振の剣と共に討ち滅ぼしたとされている。


「それが本当なのだとして、その剣は?」


「事を成した後、そんな物が残っていると争いをうむとして、英雄自らが2つに分け、世界に散ったとされている」


「つまり存在しないわけか…さて、どうしたものか」


「ほ、本当に神喰いが復活したのか!」


「し、しかしこの地の子らは随分と力を付けた。今なら…」


「無駄だ。俺らに手も足も出ない奴らがアイツに立ち向かったとしても餌になるだけだ。お前らに出来ることは喰われないように何もしないことだけだ………」


アクセルは諦めたかのように力なくそう告げる。


「なら、私達でやるしかないか………」


「だからっ!!逃げよう!さっきの話が本当なら、お前らが喰われたら、本当に手の付けられない化け物になるんだぞ?」


「ならばこそ、ここで叩いておくべきだろう……ロア、ロイ、ネロ。マスターを頼むぞ。ステラ、ソニア、迎え撃つ準備に入る。手を貸してくれ」


「分かった」「はい」


「待てよ…………待ってくれ………」


こうしてエディオンの街が慌ただしく動き出す。

読んで頂きありがとうございます。

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