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158話 恩人の死

この日、アクセル達は全員で職人の街、フォルジュを訪れていた。


目的は各々あり、武器の整備、調理器具の新調だ。


そして何事もなく目的を果たし、皆で食事をとっていた時のことだ。


「おい、聞いたか?やっぱりリーレストの噂、本当のようだぜ?」


「あぁ、しばらくは薬の流通も止まるだろうな……」


そんなことを話している客の話が聞こえてくる。


さらに………


「しかし随分と賑わいだした今、王と王妃揃って死んじまうとはなぁ……」


ダンっ!!!!


机が反動で浮くほどミラが叩き付け、立ち上がる。


「おいっ!!今の話、詳しく聞かせろ」


すでに胸ぐらを掴み、男を持ち上げるアクセル。


「うぐっ……ま、まって……」


「………………す、すまん。あの人達は俺達の恩人なんだ。頼む、話を聞かせてくれ」


「ゲホッ、ゲホッ、はぁ、はぁ、全くなんだお前ら……」


「お、おい、止めとけ!コイツ、あの金狼だ」


「さっきの事は謝る。ここの金も俺達が出す。だから……」


2人から話を聞くと、2、3年ほど前からこのような噂が立っていたらしいが、その頃から王たちが表舞台から姿を消し、さらに最近になって王子レスターが表舞台にたったことから商人達が探りを入れ、判明したそうだ。


「………………」


「行こう」


「あぁ」


アクセル達はその足でリーレストへと向かう。


だが、街に入る際も、入った後もそんなことを感じさせる雰囲気はなく、いつもと変わらぬ日常がそこにはあった。


だが、アクセル達にはそれがかえって不安を煽る。


王宮へと急ぎ向かうが、城内も落ち着きを保っている。

そんな城内で1人の人物を見つけ、声をかける。


「隊長っ!!!」


「っ!?おおう、アクセル殿……………その様子だと…」


「ほ、本当なのか………」


「……………こちらへ」


アクセルが隊長と呼ぶ、バンギに皆がついていき、辿り着いたのはリーレスト国、歴代の王達が眠る墓所。


そこに真新しい墓石を見つける。

その墓石には王と王妃の名が刻まれている。


事はアクセル達がピーサリアの復興に着手し始めた頃、王妃であるミレリアが体調を崩したことから始まる。


当然人ならばそういう事もある。

しかしバンギだからこそ知っている事があった。


「忘れもしないあの日、とあるエルフの女が王達と謁見をしておったのだ」


そのエルフは薬師として新薬の製法をリーレストへ伝え、役に立てて欲しいと兼ねてより謁見を申し出ており、それがついに叶った日でもあった。


今までそうやって暗殺を目論んだ国は数しれず、この日も蟻一匹通さない程の警戒網をしき、警備は万全。さらには隠れて人魚達も警備に加わり、万が一は有り得ないという徹底ぶりを見せていた。


しかしその日を境にミレリアはみるみる衰弱し、1年と経たず命を落とす。

同じくリーレスト王も同じ病を患っていたようだが、それを一切表に出さず、ミレリアの看病の傍ら、国を支えていた。


だが王も、ミレリアを追うように命を落とすことになるが、レスターが勤めを果たす覚悟が決まるまで一切の公表を控えよとの言葉を遺し、現在に至る。


「そのエルフの行方は?」


「不甲斐ないことだが、何も………」


墓石を前に拳を握る手から血が滴り落ちる。

間違いなくただの病などではない。

そして自身の無力さに苛立ちが治まらなかった。


「英雄達、この老いぼれ最後の願いだ。どうか手を合わせてやってくれ…」


バンギに言われ、皆で墓石の前に膝をつく。


「あなた達は立派な指導者だった…………感謝致します。どうか、ゆっくりとお休みください」


ミラの言葉と共に皆が黙祷を捧げる。


その様子を駆けつけたレスターが黙って見守っていた。






―▽▽▽―


「悪いな、何もしてやれなくて……」


「いえ、こうして父と母に会いにきてくれただけでも、嬉しく思います。父や母も同じ想いでしょう」


「お前もすっかり一人前の顔になったな……」


好青年となったレスターの肩に手を置き、そんな言葉が自然と零れる。


「父と母が守り抜いた場所です。これからは私がその想いを受け継ぎ、守り抜いてみせますとも!」


レスターはすでに気持ちに折り合いがついているのか、力強くそう答える。


「そうか……分かった。お前や、この国に理不尽が襲う時、俺達が必ず力になる。必ずだ!!」


アクセル達はどんなに親しい国や街であっても、戦争やそれにまつわる事柄には一切関与しないことを決めている。


手を貸せば、貸した方に必ず成果をもたらすからだ。


しかし国が決断し争いを起こしたのではなく、理不尽が襲った場合はその限りではない。


レスターに必ず力になる約束し、リーレストを後にした。


「まさかこんな事になっていようとは……」


「準精霊もそこまでは把握出来ないし………」


「………すまん、ちょっと出てくる………」


これが何処かの国の企てだったなら、アクセル達も想いは同じでも手を貸す約束はしなかった。


しかし現在、リーレストの要人を暗殺する利点も理由も、どの国においても無いはずなのだ。


それを仕掛けた人物、またその人物を抱える国、または組織がとても普通とは思えない。


やりきれない想いでアクセルは1人、何も無い荒野へと時空間へやってきた。


「あ"あ"あ"ぁぁぁぁぁ!!!!!!」


デタラメに魔力を放出し、その場に倒れ込み、天を仰ぐ。

アクセルのやるせない想いとなった声が周囲に木霊する。


そしてこの時、時を同じくして1つの生物が目を覚ます。


再び世界が動き始めた。

読んで頂きありがとうございます。

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