表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/167

12話 竜人

小屋を発見した二人。


「俺が見てくる。お前はここにいろ」


何も言わずアクセルの腕を掴み首を振るミラ。


「お前から目は離さない。安心しろ」


そう言ってアクセルは自身の周りに魔力を薄く拡散させていく。アクセル自身にしか感じ取れないほど薄く。


これは魔力を感知する力を、自身の魔力を通して状況を把握するまでに進化させたものだ。

アクセルが持つ規格外の魔力量、そして今まで熱心に魔力操作の訓練をして得た成果でもあった。


アクセルはミラを茂みで覆い隠し、小屋に向かう。


「誰かいないか?」


何度か呼んでいるうちに不機嫌そうな顔をした老人が現れた。


「うるさいぞ小僧」


「仲間が倒れたんだ。寝床を貸して欲しい」


アクセルをマジマジと見つめる老人。


「………好きにせい」


「良いのか!ありがとう。すぐに連れてくる」


ミラの元に戻りまた小屋に向かうがすでに老人の姿はない。

小屋の中に入りミラを寝床に寝かせる。


「ゆっくり休め」


アクセルはそういい、ミラが寝付くまで側で控え、寝付たのを確認すると老人を探して小屋の裏に回った。

そして何やら作業している老人を見つけ礼をいう


「じっちゃん、ありがとう。金はないけど何か手伝うよ」


「ふん、金も手伝いも不要じゃ」


「まぁそう言うなよ。俺はアクセル。仲間はミラだ」


ここ数年で名乗ることを覚えたアクセルだった。


「………小僧、お主ワシの剣を求めてきたわけではないのか?」


「ん?剣は持ってるし、さっき言った通り仲間に寝床を貸して欲しかっただけだ」


「…ふん」


改めて老人を見てみると、人族ではないようだ。

人に似た体型ではあるが腕は異様に太く、目は爬虫類のような目だ


「じっちゃんはなんて種族なんだ?俺初めて見たぞ」


「…竜人族じゃ」


「へえ、どんな種族なんだ?他にもいるのか?ここで一人で住んでんのか?剣打ってんのか?鍛治屋か?」


「ええい!静かにせんか」


捲したてるようなアクセルの質問攻めに、根負けしたのか渋々答えていく竜人の老人。


竜人とはドワーフの始祖と言われる種族であり、鍛治を生業にするものがほとんどである。

しかし長命であるが故に鍛治以外のことに関心が薄く、子孫を残そうとする者もあまりおらず、数を減らしていっている種族なのだ。


「なるほどなぁ。でもここで店開いてるようには見えないけど…」


「ここには材料の仕入れと、ワシに群がる者どもから離れるためじゃ」


そう告げると老人は立て掛けてあった剣を一振り、アクセルに手渡す


「これがワシの剣じゃ。素晴らしいじゃろう」


剣を受け取り眺めるアクセル。


「……………何もない」


「なんじゃと?」


「この剣には何もない。ただ剣の形をしてるだけだ」


率直な感想だ。


「………んがっはっはっはっはっは」


豪快に笑い出す老人にアクセルは唖然とする


「そうじゃ。小僧の言う通りその剣は駄作も駄作。剣の形をしておるだけじゃ。ワシに群がってきおる者達にはその違いを分からん者が多い。駄作のこの剣でも世に出せばそれなりの値になるだろうが、ワシにそんなものは必要ない」


アクセルの返答に気を良くしたのか、さらに続ける老人


「ワシが求めるものは打ちたいと思える相手に打つ究極の一振りじゃ。どれ小僧、お主の剣をワシに見せてみい」


返事をする間も無くアクセルの背中から引ったくるように剣を奪い見やる。


「これは…」


「分かってる。その剣はもうダメだ」


「分かっとるならええわい」


度重なる戦闘ですでに師から受け継いだ剣は折れる一歩手前まできていた。

アクセルもそれを理解し、ショートソードで主に戦っていたが、そちらもダメになり、現在は素材を切り分ける短剣に加工し使用している。


そして今使用している拾った剣だ。

世界は今、戦争が多発し、戦争跡地には武器がそのまま残されていることも少なくないのだ。


「本当はこれで敵討ちしたいけどな…」


そんなアクセルの言葉を聞きながら老人は剣を見ている。


「…………小僧よ、ワシがこの剣を生き返らせてやろう」


「本当か!?直せるのか?」


「ただし、あの娘をワシに差し出せ」


「は!?そんなの嫌に決まってるだろ。突然なんなんだよ…」


唐突な老人の問いにアクセルを困惑に表情を浮かべる。


「ワシが剣を打ち直せば、そこらの名剣に劣らん物に仕上がるぞ?それでも良いのか?」


「じっちゃん意外としつこいな。…なら俺がその名剣ってやつになるよ。俺が名剣になればどんな剣使っても名剣だろ」


「ぐわっはっはっはっはっは。気に入ったぞ小僧。最後じゃ。お主にとって武器とはなんだ?」


「なんなんだよ…」


「ええから答えんか」


「ただの道具だ。相手を殺す為の…でも、同時に俺の…俺と仲間を守ってもくれる」


奪われる者の痛み、悲しみ、怒り、様々な感情を過去経験した。

そして旅の途中、戦争傭兵を経験し、なんの恨みもない人も殺めた。

そして気づく。自分もただ奪うだけの魔物と一緒だと。


既にアクセル、ミラ双方が魔獣を一人で複数相手に出来る程の実力だ。並の人間など何百いようが、大差ない。

アクセル達が加担した国は劣勢から見事勝利を納め、国に取り立てられる程の武勲を挙げたが、ただ奪うだけの行為に嫌気が差し、傭兵は二度としないと決め、同時に奪われない為に戦おうと二人で誓い合いその国を去った。


そんな想いを込めた言葉を受け、老人は。


「ますます気に入ったぞ。お主の剣、ワシに打たせてはもらえんか?もちろん娘も金もいらん」


「訳がわかんねぇよ、じっちゃん…」


こうして世界屈指の鍛治の腕を持つ、竜人ドランに気に入られたアクセルであった。

よろしければ評価、感想等よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なんというテンポの速さ…サクサク読めて続きが気になる。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ