144話 動き出す世界
アーサーを加えてアートランへの旅が始まった。
ソニアに乗って向かえば数時間もかからないが、あえて徒歩での旅だ。
そして徒歩であってもアクセル達なら10数日あれば辿り着き、一般の者達でも1月あれば辿り着くところ、その倍の2ヶ月近くかけてアートランに辿り着いた。
その際、アーサーはアクセル達から何も教えて貰いはしなかったが、確実にアクセル達の考え方や技術を盗んでいった。
「遂に辿り着きましたね。師匠!」
「師匠じゃねぇ!何回言わせる気だ。全く………」
この旅の間にアーサーはアクセルのことを師匠と呼び、アーサーは皆ともかなり打ち解けている。
「では私も何度も言わせて頂きますが、勝手にそう呼ばせて頂きます!」
「はぁ………もういいや。それより街に入るぞ」
そんなアクセルとアーサーを後ろから追いかける3人は、そんな様子を微笑ましく見ていた。
「ふふ、マスターも遂に折れたな」
「アーサーもなかなか頑固だもんねぇ」
「随分と旅を長引かせた甲斐が有りましたね!」
アクセル自身も突き放すような態度をとっているが、アーサーには何かしらの好感を感じ取っているのだろう。
そしてそれを感じ取ったミラ達が旅を長引かせていたのだ。
「まずは冒険者ギルドにでも顔出すかな…」
すでにこの街に関してアクセル達は素通り出来るほどに顔が知られている。
アーサーを連れていてもそれは変わらず、すんなりと街へ入ることができた。
そして冒険者ギルドへと赴き、扉を開いた。
「よう!」
「……っアクセル様!皆さんも」
アクセルの声を聞くまで、淡々と受付業務をこなしていた獣人の女性ペコは、アクセルを見るなり花を咲かせたような笑顔になり、業務を投げ出し駆け寄ってくる。
「おいおい、仕事は良いのか?」
アクセルの問いかけにペコは頭を下げた後、突然雰囲気をかえ、さらに声を落とし話しかけてくる。
「失礼致しました。お時間があるようでしたらギルド長と話をして頂きたいのですが……あのお連れの方もご一緒で構いません」
「ん?まぁ、良いけど…」
ペコもアーサーは初めて見るがアクセル達の仲間なのだろうと同行を促す。
ペコに案内され、ギルド長室へと踏み入れる。
「少々お待ち下さい。すぐにギルド長を呼んできます」
ペコはそう告げると部屋を出ていった。
そして少しするとパタパタと足音をたてながら扉が開かれ、アリーとペコが姿を見せる。
「おう、アリー久しぶりだな」
「うん、久しぶり。丁度良いところに来てくれて私も助かっちゃった」
「うん?ところでギルド長は?一緒じゃないのか?」
「ふふん……私がこの街アートランの冒険者ギルド、そのギルド長のアリーだよ」
「へぇ!!出世か?やったなぁ」
「えへへーありがとう、ありがとう」
口々にお祝いを述べていたが、ペコが割り込む。
「ギルド長、そろそろ……」
「あ、うん………オホン。アクセル君、今日来たのは偶然かな?」
「……まぁ、そうだな」
「そうか……実はね___」
アートランの南東、かつてアクセルが震砕石を見つけた荒野の先に聳える山をさらに越えとピーサリア王国という国がある。
険しい山々に周囲を囲まれ、深い森と、さらには海に面した孤立した土地であったが、このピーサリア王国は防衛力すら持たない完全平和主義を唱える国でもあった。
それなりの歴史を紡いできたのだが、完全平和主義を実現出来たのはこの土地に旨味が無かったからだ。
険しい山は交通を阻み、深い森には魔物が数多く、海は複雑で危険なほど速い海流。
そして特にめぼしい特産品もなく、土地も広大というわけではない。人々は農業と狩りで慎ましく暮らしてきたことから戦乱の時代でも相手にされることなく存続することができ、存在そのものを知らない者もいるような国なのだ。
「その国がある者達に滅ぼされたんだ……その日の内にね」
酷い怪我をしながらも森を抜け、山を越え、荒野を抜けた先の村に辿り着いた者は息を引き取る前に"魔物のような人間"が突然攻め込んできたと言い残したそうだ。
それをその村の住人がここ、アートランに伝えたのが、アクセル達が到着する2日前のこと。
「魔物のような人間………」
「まさか魔族……」
ギリッと歯を鳴らしミラが呟く。
「分からない…だけど放置するわけにもいかない。高位の冒険者に調査を頼む為、声をかけていたところだったんだ」
「分かった…俺らが行く。魔族が相手となると他の奴らは邪魔だ。俺らが戻るまで動かさないでくれ」
「分かった。ありがとう…」
「アーサー、お前はここに残れ。お前じゃ足でまといだ」
「……分かりました。では私は独自に向かいます」
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇ!!」
「私は騎士だ!!そこに助けるべき者がいるのなら私は行く。行かなければならない!でなければ国を捨ててまで飛び出した意味がない!!」
アーサーはアクセル達と出会い、確実に力をつけている。
しかしそれでも国を1日で滅ぼすような相手がいる所に連れて行ける程ではない。
それはアーサーも重々承知している。
しかし、それでもアーサーは意志の篭った目でアクセルを見つめる。
「………分かった。但し俺達の指示には従え」
「はっ!ありがとうございます、師匠」
こうしてアクセル達はソニアの背に乗りピーサリアへ向けて出発する。
この事件を境に世界は動き出す。
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