142話 下層へ
ここダンジョンでは様々な魅力が人々を惹き付ける。
それは無限に生成される食料や素材。魔物も倒すことが出来れば食料になり、素材にもなる。
そして地下深くまでいけば、魔物も強くなるが、より貴重な物が得ることが出来るようになる。
それを阻む大きな理由の1つが10階層を除き、一定階層毎に出現する階層主だ。
他の魔物達とは違い、現在確認されている60階層までの階層主は全て巨大な魔物だ。
巨大な魔物は、身体が大きいということだけで冒険者には脅威となる。
だが見返りも大きく、階層主が落とす魔石はその巨体に見合うだけの大きさであり、巨万の富をもたらせてくれる。
しかし不思議なことに、階層主は息絶えると魔石だけを残し、死体は光となって消え、また一定時間が経つと復活する。その巨体から素材を得ることは出来ないのだ。
そして階層主が同種、同じ階層に出現することはない。
そして20階層に降り立ったアクセル達はそんな階層主と対峙する。
「うわぁ……大っきな亀だねぇ」
階層主を見上げ、ステラが感想をこぼす。
目の前の階層主である巨大な亀はドラゴン化したソニアよりも1回り大きい程だ。
「私がいきます」
そう言って前に出たソニアは、即座に半竜化し、全身に炎を纏う。
それだけではなく、ソニアの腕には風が巻き付いていく。
ソニアが宙に浮き腕を軽く振るうと、腕に巻き付いていた風が消え、代わりに亀の足元から荒れ狂う強風が渦を巻き、階層主のその巨大を空に舞いあげた。
そして階層主を舞いあげた風は次第に鋭さを増していき、刃となって巨体を切り裂き、そんな風の刃が荒れ狂う竜巻に炎が混ざり合い、階層主を焼き焦がしていく。
身体を切り刻まれ、焼き焦がされながらも、宙に舞い、何も出来ない階層主は奇妙な叫び声を上げながら、その巨体を反転させられ、甲羅から地面に叩きつけられる。
そして無防備に晒された柔らかい腹が、瞬時にドラゴン化し風と炎が纏われた前足の爪より引き裂かれる。
こうして20階層主を守護する巨体な亀はあっさりソニア1人に討ち取られた。
そそくさとソニアは魔石を回収するが、かなり大きくソニアのチュチュ袋には入らず、アクセルの創り出した空間へと収まることになった。
そしてここで一旦足を止めることになった。
「本当に階層主がいる階層には他の魔物がいないんだな…」
「階層主を討伐した後か、階段でみんな休憩するってあのアマゾネスの人も言ってたもんね」
「まぁ大人数で階段に並んで飯食ったり寝たりすることも出来ないだろうしな」
本来ならこの20階層ですら到達するにはそれなりに時間がかかる。
深層を目指すなら資材の運搬や戦力を考えるとその人数は増え、さらに足は遅くなる。
そんな者達にとって階層主を討伐した階層は安全地帯となり得るのだ。
「よし!まぁ大体あのアマゾネスから聞いた情報は確認し終わった。魔石とか素材は帰りに集めるとして、さっさと先を目指そうか」
さらに下層へと踏み入るアクセル達。
―21階層―
今まで開けた空間だったダンジョンは雰囲気を変え、高さも人が飛び跳ねることが辛うじて可能な程度、幅も2人が並んで歩くのがやっとであり狭く迷路のように入り組んだ洞窟のような場所になっている。
こういった場所ではアクセル達の戦闘力は一気に落ちる。
アクセルの持つ武器は広範囲に対応でき威力がある分、洞窟その物を崩れさせる危険もある。
ミラやステラも同様に武器はほぼ使えず、ソニアに至っては炎で酸素を燃やして酸欠になりかねない。
しかし長年旅と冒険者をし、さらには未知を求め頻繁に洞窟に入っていたアクセル達も無策のままではない。
アクセルは市販の短剣を2本腰に装備する。
「お前ら、随分と応用効く力を身につけたよなぁ」
「えへへ、僕もこういう場所を想定して投擲武器が欲しかったんだ」
「私も今は風を刃とすることが出来る。対応できる距離が広がったはずです……」
ステラとソニアの言葉通り、この階層はまさに2人の独断場だった。
アクセル、ソニアを前衛に、ステラ、ミラと続く隊列で進んでいくのだが、相変わらずアクセルの探索能力で道には迷わず、敵も即座に把握する。
出てきた敵はソニアが放つ風の刃とステラが放つ氷で出来た無数の手裏剣で姿を見せた瞬間、肉の塊となっていく。
そんな肉の塊をミラが雷で灰へと変えていく。
こうして階層主がいる階層まで一気に降っていく。
30階、階層主であるオーガと呼ばれるオークよりも人に近い容姿の魔物もミラの雷で灰となり突破。
―31階層―
景色は砂漠となるが、それ以外特に変わったこともなく、順調に進む。
40階、階層主は砂に潜るアリジゴクとムカデが合わさったような魔物だ。
アクセルの衝撃弾を受け、地上に飛び出た所を一斉に狙い突破。
―41階層―
深い谷となっており、飛行する魔物が多数生息している。
足場も細い道ばかりで、飛行する魔物が谷底に落とすように襲いかかってくるが、ドラゴン化したソニアが一蹴。そのまま皆を背に乗せ一気に進んだ。
50階、階層主は炎と氷を操る巨大な鳥型の魔物だが、ソニアが丸焼きにし突破。
―51階層―
草原、湿地、洞窟、砂漠、深い谷ときて、この階層は高温の溶岩地帯となった。
「ふぅ……」
「随分と駆け足で来たもんだ」
「それがここにきて溶岩地帯かぁ……」
「故郷を思い出します……」
この階層まで辿り着くにはアリスファミリーでさえ数週間はかかる。
しかしアクセル達は進む事を重視し、2日とかからず辿り着いていた。
「しかしまた随分と雰囲気が変わったな…」
それは景色だけの話ではない。
ここに至るまでの階層もダンジョンである為、危険なのは勿論なのだが、49階層まではまだ"人々にとって都合が良い"という印象だった。
しかし51階層からは魔物もより強く、さらに落とす魔石は強さに比例し大きくなり、手持ちを圧迫。
厄介な能力を用いる者も増え、さらに周囲には溶岩が吹き上がり、危険度も跳ね上がった。
「あぁ、まるで侵入者を拒絶しているかのようだ」
「だな……より慎重にいこう」
少し速度は落ちたものの、それでも驚異的な速度で階層を突破していき、階層主まで辿り着く。
そしてその階層主を見た瞬間、アクセル、ミラ、ステラが口を揃える。
「「「ソニアに似てる…」」」
60階層を守護するのは真っ赤な鱗をもつドラゴンだった。
勿論ドラゴンにも多数の種族が存在しているのだが、目の前にいるドラゴンはソニアの種族であるアグレクトルドラゴンに非常に似ているのだ。
「似てはいるけど、でもアグレクトルドラゴンの偽物って感じだな」
そんな会話をしながら階段を降り、ドラゴンと対峙する。
「グオォォォオオオオ」
アクセル達を視認したドラゴンは耳をつんざくような咆哮を上げ、その直後口に炎が漏れでる。
そして勢いよく炎を吐き出した。
3人は瞬時に飛び退き距離をとるが、ソニアだけは吐き出された炎の中に突っ込んでいく。
「うるさいトカゲが!」
どこか怒気を孕んだ言葉を吐きながら、ソニアは炎と風を纏った腕でドラゴンの顔面を横殴りにする。
それと同時にドラゴンの顔面は一瞬で炎に包まれ、程なく首から上を灰へと変えていった。
首から上が無くなったドラゴンはそのまま地面に倒れ、巨大な魔石を残し、すぐに光となって消えていく。
「全く…容姿が似ているなどいい迷惑だ」
ソニアはぷりぷり怒りながら巨大な魔石を頭上に抱え、アクセル達の元へと帰ってくる。
「お疲れさん…ソニアがドラゴンであることもあまり知られない方が良いかもな」
「もとよりあまり言いふらすつもりもないですが…それより……」
「あぁ……見たところ、この階層主は今までの魔物とは桁違いの強さだな」
「はい。身体全て灰にするくらいの力は込めたのですが…」
「こんな奴が相手じゃ冒険者達が足止めくらうのも納得ではあるな…」
ドラゴンを討ち取りはしたが、ダンジョンへの認識を改めなければならない程の相手ではあった。
「ついでにもっと奥までなんて考えてたけど、認識が甘かったな。予定通りここで引き返そう」
アクセルの言葉に全員が頷く。
「その前にちょっとだけ先見ていくか」
こうして人知れずダンジョンの攻略階層を更新したアクセル達だった。
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