11話 親切
中から出てきたのはずんぐりむっくりな体型に髭を蓄えた男、ドワーフだ。
元々ドワーフはおろか他の種族を見たことがないアクセルは一瞬、目を丸くする。
「なんの用だ」
「…ッ!これを買ってくれ」
そう言われドワーフの男は、背負われたミラに視線をやったあと、差し出された石を手に取り…
「その背中のは怪我か?病気か?」
「…怪我はない。朝からこんな感じで調子が悪い」
「…とりあえず中に入りな」
「…食う気か…」
「食うか!良いからさっさと入れ」
男に言われるまま中に入ると簡素な寝床と机、椅子が一つ。
「そこに寝かせな。あとこれを飲ませろ」
男は小さな瓶に入った薄緑色の液体をアクセルに手渡す。
ドワーフの男を警戒しながら受け取ったアクセルは、匂いを嗅ぎ、一滴指に垂らし舐める。
「…毒じゃなさそうだな」
「やけに疑うじゃねぇか、ボウズ。そりゃ薬だ。良いから飲ませろ」
そう言われ渋々といった様子でミラに薬を飲ませる。
少しすると荒かった呼吸も落ち着き、眠ってしまった。
眠るまでミラのそばを離れず、男を警戒し続けていたアクセルもホッと胸を撫で下ろす。
「…おっちゃん、ありがとう。薬が効いたみたいだ」
「ワシは薬師じゃねえが、あれくらいなら誰でも分かることだ。ボウズは知らなかったのか?」
「俺はあんな風になったことがない」
以前集落で暮らしていた時、住人達も病気にはかかっていたがわざわざアクセルと接触する者もおらず、アクセルは知る機会がなかったのだ。
「それはもう良いとしてだ、ボウズ。これはどこで手にいれた?」
「山の中で拾った」
「……ぶわっはっはっはっはっは。そうか、拾ったか」
「なんだよ…」
「これは風晶石という宝石の原石だ。しかもこれだけの大きさ」
「それで金は足りるか?」
「足りるどころか、しばらく贅沢な暮らしが出来るぞ」
「そうか」
「しかしこれはボウズに返そう」
「は?なんで?」
「ワシには贅沢な暮らしも宝石も無用だ。そのかわり娘が良くなるまでワシの手伝いをせい」
「………本当にそんなことで良いのか?」
こうしてミラの体調が良くなるまで住み込みで手伝いをすることになった。
そのなかで旅をする理由も、破壊の魔法やミラが魔族であることを隠しながら話した。
「こんなボウズと小娘が復讐ねぇ……」
「………」
「その手伝いってわけじゃねぇが、剣見せてみな。ワシが見てやろう」
「手入れなら自分でやってる…」
そう言いながらも師のロングソードとショートソードを差し出す。
「…たしかに手入れはしてある。手入れはな。だがな、それだけじゃ敵は斬れねぇのよ」
「………」
「研ぎ方やらなにやら一通り教えてやる。覚えるかどうかはボウズ次第だがな」
「わかった。やる」
こうして最初の条件である手伝いをそっちのけで技術を教わることになった。
ミラもその日の内に目覚め、体調も良くなってきている。
久しぶりの穏やかな時間だ。
こうした時間のなかアクセルの持っている他の石のことも教わった。
価値のない石だと言われた物もあるがそれでもアクセルは気に入っていると大事にしている。
こうして数日を過ごした二人。ミラもすっかり元気になった。
「おっちゃん、世話になった。ありがとう」
「お世話になりました」
「おう、気いつけていけ。それとだ、何かあれば風晶石でも売って金にしろよ」
こうして別れを告げ、街を後にし北西に進む二人。
北に進めばまた街があるとのことだが、街を目指しているわけではないと告げると、北西に魔物が良く目撃される山があると教えてもらった。
「良い人だったな…」
「ああ、また会いたいものだ」
「……そうだな」
こうしてまた旅を再開した二人。
▽▽▽▽▽▽▽
あれから四年の月日が経つが復讐の旅に進展はない。
それでも旅を通じ成長した二人。
偶然立ち寄った街で奴隷を見かけ、不当な扱いをする者をアクセルが殴りかかり、捕まったあとその街の領主すら殴り飛ばし、街を追われるといった事件もあったが住民達のおかげで事なきを得ている。
しかしこれ以降アクセルは人嫌いにもなっている。正確には権力をふりかざし好き勝手する者達だ。
世界の在り方に理解はしつつも納得できず、相変わらず人は避けている。
ある日の朝
「…また調子悪いか?」
「少し…すまないな。迷惑をかける」
たまにミラの調子が悪くなるのだ。
本人は自身の魔力が暴れていると言っていたが、いずれもその日の内に治っていた。
しかしこの日は治るどころかだんだん悪くなっていき、寝込むまでになってしまった。
しっかり休める場所を探そうということになり、ミラを背負い森を彷徨うアクセル。
そしてカン、カンと金属を叩く音に導かれ小屋を発見したのだった。
次話からいろいろと楽しくなってくると思います。お楽しみに。
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