114話 時空扉
現在は正午を少し過ぎた頃。
無事チュチュ袋を手にしたステラとソニアは高速で西大陸を目指していた。
そんな帰り道、ステラはふと頭をよぎった疑問を口にする。
「ねぇ、ソニア…ドラゴンの姿になった時、チュチュ袋って大丈夫なの?」
ソニアが人間の姿の時、身に付けている衣類は見た目だけの物であり、実際はソニアの鱗を変化させた物。
その為巨大なドラゴン姿になった時、衣類が破けるといった心配は無いのだが、実際身に付けているチュチュ袋は違う。
「保管については鱗の内側にしまっているから問題ない…この姿では使用することはできないが……」
出発した時とは違い、チュチュ袋を手に入れ心が軽くなったのか、雑談を交え口数多い帰り道となった。
そしてやや暗くなってきた頃、ダンジョンの街にある拠点に辿り着いた。
「たっだいまーーーー」
元気よく扉を開いた2人だが、拠点内は誰も居ないのか、静まり返っている。
「あれー?遠くから物音は聞こえてたけどなぁ……」
そんなことを呟きながら拠点内を見回すと、見慣れない真新しい扉があった。
元々この拠点は廃屋同然の状態。
自分達がいない間に修理したのかと思っていた矢先、その扉が開き、ミラが顔を出した。
「ん??おかえり!今帰ったのか?」
「ミラさん!!!ただいま……あれ?扉の向こうに、森???」
ミラが出てきた扉の向こうには見慣れた景色が広がっている。
「ふふ、マスターの成果だ。拠点に通じているぞ」
そう言いつつミラはその扉を閉め、ステラに扉を開くように促す。
ステラが扉を開くが、先程の景色はなく、ただの部屋に通じていた。
「あれ?」
「ふふ、少しコツがあるのだ」
微笑みながらそう言ってミラは拠点同士を繋ぐ開け方を説明する。
「と、言っても簡単だ。出口……今だと浮島の拠点の景色を頭に思い浮かべながら魔力を込め扉を開く」
それを聞きつつステラが実践し、扉の開いた先は浮島拠点に通じていた。
凄い、凄いとはしゃぎながらステラは浮島拠点に走っていき、ソニアもその後に続く。
「マスター!!!ただいまぁー」
「おぉ!おかえり!どうだった?」
アクセルのその問いかけに腰に提げた袋を自慢げに見せる2人。
「お?やるなぁ……まぁとりあえず先に風呂でも入って体、休めな。俺達からも色々と話すこともあるし……俺は先にあっちに戻っとくぞ」
その後ステラとソニアは浮島拠点にある天然の魔力風呂に2人で仲良く入った後、今度は浮島拠点にポツンとある扉をソニアが開き、ダンジョン拠点に戻ってきた。
戻ると食事が用意されており、全員で食卓を囲む。
「おーいしいーー!!!やっぱり出来たてが1番!!」
出かけていた間は質素な食事だった為、暖かい料理が身に染みたようで、ソニアは涙を流しながら無言で食べていた。
そんな騒がしく食事をしながら、ステラが色々と報告も兼ねて語り出す。
モヒカンモモチューや白モモチューに会ったこと、モモチュー達が住処を変えたこと、それに伴い村の様子も変わったこと、老人が亡くなっていたこと。
「そうか……あの爺さんにはもう一度会いたかったなぁ…」
アクセルの寂しそうな呟きと共に騒がしかった場も静かになった。
「っと…悪い。まぁ、人はいずれ死ぬもんだ!お前らもよく頑張ったな!よし、じゃあ今度は俺らが話そうか。ステラに頼まれてた事にも繋がるんだけど…」
そう言うと、アクセルは魔法陣ではなく、扉を使っての移動になった経緯を話し始める。
アクセルも当初は、魔法陣の上に立つと転移するといった物を想定していたのだが、その魔法陣を書き上げる魔力が尋常でないほど必要であり、アクセルでも全く足りない状態だった。
魔法陣に色々と条件を付け加えるなどして必要魔力の緩和を試みたが、成果を得られずにいた。
そもそもアクセルの力は転移ではなく、空間同士を繋ぐ力。根本的に無理だったときっぱり諦め、別の方法を模索する。
そして扉という物も本来は空間同士を繋ぐ物。
これに可能性を見出し、転移の魔法陣ではなく、空間を繋ぐ魔法陣を扉に刻むことで、この時空扉は完成となった。
しかし、ここでも条件を絞り込むことで、必要魔力の緩和を図り、その際【アクセルが仲間として認めた証を持つ者】という条件を付け加えることで魔法陣は完成。
これによってこの時空扉を使い移動出来るのは、ミラ、ステラ、ソニアだけとなっている。
アクセルはそもそも使う必要もないが、当然この魔法陣作成に使われている魔力はアクセルの物。
アクセルと魔力を共有するロア達も使用が可能だ。
さらにアクセルは、自身やステラの武器の整備、ソニアは調理器具を買ったりと、何かと赴く機会の多いフォルジュにも時空扉を設置しようと思い立ちドランに相談すると、弟子であるナズナが以前使っていた小屋なら良いと許可を貰い、その小屋の扉に魔法陣を作成した。
「この時、じっちゃんにもステラが言ってた投擲武器のことを聞いたんだ」
確かにフォルジュは新しい物が次々に産み出されているが、その中で実用性のある物はないとドランが言っていた。
そんな話をしているとドランの弟子であるナズナが話に混ざってくる。
「珍しい投擲武器ならありますよ…東大陸の隠密行動をする者達が使っている物なのですが…」
詳しく話を聞くと、隠密行動をする者達が使用するため、一般には出回らないが、ナズナも東大陸の出身であり、実家は鍛冶屋。現物を見たことはあるそうだ。
「その時、思い出したんだけどシンとアヤメ覚えてるか?シンは兎も角、アヤメはシンの付き人で、丸腰ってことはないだろ。何かを懐に隠してたのは分かってたし……多分ナズナのいう投擲武器じゃないかなって思うんだよ!」
「ということは……」
「東大陸行ってみようぜ!どうせダンジョンは今以上先に行けないんだし…当面はシンとアヤメに会うことを目標にさ」
「うん!!………ありがとうマスター、ミラさん」
「おっと!まだ気が早い!!東大陸の前に、明日は全員で海に行くぞ!!」
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