110話 情報共有
宿に戻ったアクセル達は、万が一に備えロアとロイを宿に残し、浮島の拠点に戻ってきていた。魔力で繋がったロア達とは離れていてもアクセルは情報を共有できる。
「あぁ、疲れた……本当に人目を気にするのは疲れる…」
大の字に寝転がりながら、アクセルからそんな言葉が零れる。
「でもあの女の人、最後にアイツらダメだって言ってたから、もしかしたら諦めてくれるかも…」
「だと良いけどなぁ……問題もまた増えちまったし…」
アクセルはそう言いながら、手に持った1枚の紙をピラピラさせる。
「ふむ………拠点か……」
それは魔石を換金しに行った際、受付嬢から説明と共に渡された1枚の用紙。ダンジョンで活動するにあたり、あの街に拠点が必要だと言われたのだ。
「よく考えられた仕組みだな…」
「そうなのか?」
「考えてもみろ…1部の者以外はダンジョンで金を稼いでいる。管理されているとはいえ、魔石を他大陸に流す者も居るだろう。しかしその行為も金を得る為だろう?多少なりとも安い金で永久的に土地を得たならば、後は気楽にあのイノシシでも狩っていれば、生きることは容易いだろう?」
「なるほど!!拠点は冒険者を縛り付ける楔か…」
「その通りだ。日々の食事と、多少だが金も手に入る。危険を侵して海を渡り、割高で魔石を売って金を得たとしても労力に見合わない……」
そんな説明を聞きながら用紙に目を通すアクセル。
「ふむふむ………確かに料理の値段とかを参考にしても、かなり安いんだろうな…………どうせだし買うか!!せっかくダンジョンに入れるようにもなったんだしな!!」
拠点は明日にでも受付嬢に相談するとして、問題の1つは片付いた。
しかし本題はこれから。こうしてわざわざ拠点にまで戻ってきたのは人目を気にせず情報を共有する為だ。
「じゃあ、まず俺から……うーん、いざ言葉にすると難しいんだけど、肉屋のあった場所からダンジョンに続く階段…俺の魔力を使った探索が出来なかった。で、階段に体の半分以上進んだ位から肉屋のあった場所の状況が分からなくなった……」
「ふむ……つまり隔離された空間ということか?」
「多分………あと草原に降りた後も、階段から上の情報が分からなかったな………時空間も試してみたけど、階段にも、別の階層にも行けそうになかったな」
アクセルの報告を聞きながら、受付嬢に貰った情報と合わせ
分かっている情報を整理していく。
・ダンジョンの魔物達には魔石と呼ばれる、通常の魔物に極めて稀に生成される核に似た物が体の何処かに必ずある。そして魔物が息絶えると、その魔石は自然と剥がれ落ちる。また魔物が生きたまま魔石を砕いても、魔物は息絶える。体内に魔石がある者もいる為、取り出さず肉屋に卸しても魔石を得ることは出来ない。
・魔石を放置すると魔物達が集まってくるため、必ず処理しなければならない。魔石自体を砕くのは容易。死体も腐敗し疫病を発生させない為に処理は必須。
・魔物は互いに干渉せず、侵入者を敵対視している。
・資源を採取した場合、一定時間が経つと魔物同様に再度出現する。
・魔物達は何故か上下共に、階段に踏み入らない。
「今分かってるのはこんな所か……実際、魔物も敵対視というか殺意が凄かったな……それに魔石は弱点でもあるだろうに守ろうともしなかった…」
そんなアクセルの呟きにソニアが答える。
「ですね……魔獣と少し似ていましたが、殺意は凄まじいものでした…」
「ふむ…魔物が階段に踏み入らないというのも、隔離された空間である為、「踏み入れない」が正しいのだろうな…」
そんな現実とはかけ離れた環境を知りやや気持ちが重くなる。
少しの沈黙が続いたがそれをステラが破った。
「あ、そうだ!!お野菜見つけた所の土持ってきてたんだ!ちょっと後で実験してみるね」
「ん?あぁ!たしかに…その土から野菜が出来たら野菜取り放題だもんな!」
「えへへ!うん!あとは他のお野菜もこの土で育つのかとか、ダンジョンのお野菜でまた新しいお野菜が出来るのかとか……」
「うむ、確かにそれが出来れば、この地では必要無いかもしれないが、他大陸であれば凄まじい恩恵を受けることが出来るだろうな……」
「うん!僕、頑張ってみるよ!!」
こうして粗方情報の整理は終わり、今後のことについてミラが話し始める。
「情報を纏めてみても、このダンジョンという場所は危険であることは事実……しかし我々にとって金銭を得る場としてはこれ以上ないほどの場所だ」
ミラのそんな言葉を聞き、アクセルは複雑な表情をしているが、それに気付いたミラはさらに続ける。
「君の考えも分かる…わざわざ危険を犯す必要はないと言うのだろ?たしかに、我々にとって金銭とはそれ程重要ではない。しかし全く必要無いというわけでもないだろう…我々が金銭を得る方法は冒険者として依頼を受けるしかない…私は金銭を得るという目的であるならば、ダンジョンの方が遥かに危険も少なく利益も大きいと思うのだが…」
「うーーん、まぁ、そう言われると確かになぁ…魔物が全部敵だと分かってるなら方法はいくらでもあるし、リックの言うような万が一があったとしても、準備を怠らなかったら大丈夫だとは思うし…………………そうだな…どの道、拠点も買うんだ、金が必要な時はダンジョンを利用させてもらおうか」
この地に来るまでに金を集める為、危険な依頼を多数受けてきたが、確かにミラの言うようにダンジョンに潜った方がアクセル達なら危険も少なく、利益もあるだろう。
ダンジョンに関して、これだけの情報が出揃っているのだ。
ほぼ現状が把握出来ていない状態で受ける危険な依頼より、遥かに危険は少ないように思える。
全員が同意したことを確認したところで、アクセルが突拍子もないことを言い出した。
「だったらせっかくだし、新しく買う拠点とこの場所、繋げちまうか!!」
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