101話 冒険者の二つ名
~約一年後~
現在アクセル達は旅を中断し、アートランで活動している。
というのも、金がなかったのだ。
ステラの防具、ソニアの調理器具を揃えたことで蓄えは底をつき、アクセルの剣の整備代が足りなくなったのだ。
そして西大陸に向かうにしても、冒険者にとって夢のような大陸と言われているくらいだ。人もいて、文明がある。そこで活動するにも金は必要だろうとミラに言われたことで、まずは蓄えを増やすことにしたのだ。
金など二の次だったアクセル達にとって、金を目的に依頼を受けることは初めてだったが、依頼達成が困難だと言われる依頼を受けることで整備代はすぐに貯まった。
しかし困難と言われるだけあって、魔物討伐では上位種が出てきたり、護衛の依頼では魔物のみならず、護衛対象を狙う暗殺者が襲撃してきたりと面倒事が尽きなかった。
そんな達成が困難だといわれる依頼を受け続けていると、ステラの評価も一気に上がり、早々に★7の冒険者となったのだが、同時にちょっした事件が起きた。
それは冒険者としての二つ名に関してのことだ。
一昔前にアートランで僅か1年という短い期間で★6となり、それほど間を置かず★7の冒険者となったアクセルはそれなりに話題となっていた。
しかしすぐに音沙汰がなくなり暫くの時間が経つが、活動を再開したことで、再び注目を集めるようになった。
そして困難な依頼を受け続けるアクセルには必ず血生臭い情報も一緒に広まっていく。
そんなことが続くと、いつしかアクセルは血に飢えた為に冒険者として戻ってきたのではないと噂され始めた。
そんな噂が噂を呼び、いつしかアクセルは血に飢えた狼『餓狼』などという二つ名で呼ばれ始めていった。
なんとも不名誉な二つ名が広まる中、それに異を唱える者も現れた。
「あの方は英雄の意志を受け継いだ英雄であり、その牙は困難を打ち砕く、牙狼なんだ」と。
噂の出処は定かではないが、そんな噂を後押しするようにまた別の所からも「我が国も、かの英雄に救われた」などの声が上がり、アクセルの二つ名は英雄、牙狼、餓狼と、なんともややこしいことになっていった。
そんなことになってもアクセルは、言わせておけばいいと、我関せずを貫いていたのだが、とある魔物の大討伐作戦に参加したことで事態はさらに変化する。
アクセルが戦うことを嫌うのを知ってる者達はこの大討伐にアクセルは参加しないものと思っていたのだが、討伐対象はゴブリンだ。
このゴブリンという魔物は単体では弱いが群れを成し、人を襲う魔物だ。
しかしゴブリンも自身が生きていくために、弱い存在である人を襲うのだ。
その為、アクセル達にとっては線引きが難しいのだが、大規模な集団となったゴブリンは生きる為ではなく、快楽の為人を襲う者もいる。
そして近くの村を襲撃する兆しが見えた為、アクセルもこの作戦に参加を決めたのだ。
その作戦に参加したアクセル達はまさに一騎当千の活躍をみせ、作戦は大成功だったのだが、この作戦に参加していた他の冒険者が、金色に輝く毛皮の羽織を纏う魔装状態のアクセルを見たことで更なる噂が広がっていく。
かつての英雄が連れていた、金色に輝く狼のようだ、と。
そして再び付けられた二つ名が『金狼』
この金狼と呼ばれる由縁について目撃者も多数いたことで信憑性が増し、一気に広がっていった。
「はぁ……結局、金狼って二つ名で落ち着いたな。それに……」
同様に大討伐で活躍した★7冒険者であるステラにも二つ名が付けられていた。
「銀兎って………」
金狼にちなみ、ステラの見た目も相まって銀兎として同時に広まっていたのだ。
「ボクはマスターと似た感じがして結構好きだけどなぁ…」
こうして★7冒険者の金狼、銀兎がいる街としてアートランはかつてないほどに賑わうことになった。
▽▽▽
そんな賑わいをみせるアートランに冒険者風の女が1人と男2人がアクセル達を訪ねる為にやってきた。
アクセル宛の個人依頼や勧誘をギルドに任せ全て断っていたが、今回訪ねてきた人物の目的はそれとは異なり、すぐに会うことになった。
「よう!元気だっか?」
「アクセル様、それに皆様もお変わりないようで」
なんと訪ねてきたのはガラット国の王女、マリーと護衛のキッサマ、そしてグレンだったのだ。
話を聞くと込み入った事情があるわけでもなく、単なる休暇を楽しむ為とのことだが、同じ国内のアートランであっても王都まではそれなりに時間がかかる。
長く滞在することも出来ないと何処か悲しげなマリーは明後日には帰路につくとのことだ。
「うーん、それなら俺が送ってやろうか?帰りの時間分滞在して遊んだらいい」
その提案を大いに喜んだマリーは歳も近いこともあってか、ステラ、ソニアと特に仲も良くなり、よく一緒に遊んでいた。
そんなマリーの楽しい時間もあっという間に過ぎていき、泣く泣く別れを告げ、アクセルの時空間で王都に戻ってたのだが、すぐさま帰ろうとしていたアクセルをマリーが引き止める。
「今回のお礼という訳ではございませんが、是非アクセル様にお見せしたい物がございます」
そう言われ案内されたのは立派な造りの協会。
見せたい物はこの中にあると、中に入る。
そしてそれは一目でアクセルの興味を引いた。
「これがドラゴンの武具と並んで我が国の国宝とされる世界樹の枝から作られたピアノです」
そのピアノは生命力が溢れ、今にも葉が芽吹くのではと錯覚するほどだ。
アクセルが興味を引かれたのはピアノその物でなく、その素材となった木材だったのだ。
「凄いな…木から離れて、加工されてもこんなに生命力に満ちてるのか……それに枝って……」
「真実は定かではありませんが、世界樹はとても巨大だと言い伝えられています」
枝からピアノが作られるほどだ。本体の木はどれほど巨大なのだろう、どんな木なんだろうと、胸が高鳴るアクセル。
そして同時に、いずれあの木材を自分も手に入れたいと思ったのだった。
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