99話 ガラット国王都その1
数日フォルジュに滞在することになり、それぞれが思い思いに過ごすことになった。
ソニアは調理器具一式を受け取ると、とても喜び料理に明け暮れていたようだ。
そして無事整備も終わりフォルジュを出立し、ガラット国の王都に向かう道中でのこと。
「ソニア、この中央大陸には魔獣ってやつがいるから気をつけろよ」
「はい、存じています。昔お爺様に連れられ見たこともあります」
「そっか!なら良い……けど、あの爺さん、何処まで先を見てたんだろうな…ソニアを後継にする気満々じゃねぇか」
「えぇ!?そんなはずは……」
「ないわけねぇだろ。それにお前にはその器もあると俺は思ってるぞ?まだ鍛え始めて数年だろ?あと数百年も経てば間違いなくあの爺さんより強くなるよ」
「そ、そうでしょうか……」
「まぁその自信の無さをどうにかしないとだけどな!」
そんな会話も挟みながら無事ガラット国の王都にたどり着くことが出来た。
そして流石は強国と呼ばれる国の王都。
その門から造りが違い、強固で街の人々も活気に満ちている。
この街での目的はソニアの父が贈った武具をソニアに見せることなのだが、当然この国にとって重要なものを突然訪ねてきた得体の知れない者に見せることなど有り得ない。
しかし不幸中の幸いというべきか、問題は起こしたもののこの国の姫とアクセルは顔見知りなのだ。
そして何故か好意的に思われているようでもある。
なんとかその伝手を利用出来ないかと考えてやってきたわけだが、その認識も甘かったようだ。
まず姫にまで辿り着けない。
姫との、正確にはその護衛の騎士と揉めた事件からすでに7年ほど経っているのだ。
当時を知っている者も少なく、衛兵の詰所に赴き、姫に会いたいと、当時の事情まで説明したのだが門前払いを受けてしまった。
懸命に粘ってみせたのだが、結果は変わらず思わぬところで躓いてしまった。
しかしそんな一行に懐かしき声が響き渡る。
「き、きさまー!!何故ここにいる!!!」
そう声をかけた騎士の男はアクセルを見るなりそう声を荒らげるが、当のアクセルは首を傾げている。
(えーーーーっと?………)
(マスターがかつて足をへし折ったキサマを連呼していた騎士です)
そんなアクセルにロアが答えてくれる。
(おぉ!!キサマ騎士か!)
「久しぶりだなキサマ騎士!まだキサマ、キサマ言ってるのか?もう一度足折ってやろうか?」
「き、きさま……何やら騒がしいと聞きつけ来てみれば、会って早々無礼にも程がある!」
「冗談だよ。まぁ、確かにいきなり無礼な物言いだったな、済まない。過去は過去だもんな。それで話を聞きつけたってことは姫に会わせてもらえるのか?」
「む、謝罪を受け入れよう。キサマ同様、私も同じ過ちを繰り返すほど愚かではない。そして姫様から本人だと確認出来たらお連れするようにと言付かっている」
こうしてキサマ騎士に連れられ歩き出す一行。
歩きながら改めて街を見渡してみるが、整備された街並みは歴史を感じさせながらも優雅な印象を受ける。
色々と街を回ってきたが、その活気や発展ぶりは中央大陸随一といっても過言ではない。
そんな街中を歩き、高い場所に建ち並ぶ貴族達が暮らす区画に入っていくと、建物はさらに豪華になり歩くのすら躊躇ってしまうほどだ。
そんな区画の中に造られた、これまた豪華な庭園の中にある憩いの場と呼んでも良いのだろうか。
屋外でありながら屋根があり、机と椅子が並んだ場所にメイドを連れた姫がすでに待っていた。
恐らくキサマ騎士が連絡係の者を先に行かせていたのだろう。
「マリー姫様、お連れ致しました」
「ご苦労様です。キッサマ」
(おいおい!あいつキッサマって名前なのかよ……)
そんな事を思いながらも口には出さず、ぐっと飲み込んだ。
「アクセルだ。先に言っとくが前の事を謝るつもりはないし、間違ってもいないと思ってるからそのつもりで」
「ふふ、ええ、もちろんです。あの時は名乗ることも出来ず申し訳ありません…改めまして、マリーと申します」
畏まった場ではないとマリー姫は気遣ってくれ、話し方や作法など気にすることなく自己紹介が済んだ後、本題に入った。
「早速で悪いが、この街にきた理由なんだけど、この国に伝わるドラゴンの武具を見せて欲しい」
「まぁ、それはなんとも…理由を聞いても?」
「姫様、なりません。あれは国宝であると同時に最大の戦力。おいそれと人目に晒す訳には――」
キッサマがそう口を挟んでくるが、マリー姫は視線を向けるだけで黙らせた。
そして理由を問うマリー姫にソニアが答える。
「その武具は私の父から作られた物だと耳にした。武具その物をどうこうする気はないが、1目見ておきたい」
「はっ!父だと!?……失礼」
鼻で笑うキッサマにマリーの冷たい視線が突き刺さる。
「失礼ですが、先程アクセル様も仰ったように、あの武具はドラゴン自ら素材を分け与えられ作られた物だと伝えられています。そのドラゴンが貴女の父君であると?」
それも当然の疑問である。
今のソニアはどう見ても人間の女性なのだ。
ソニアはアクセルに視線を向けると、微笑みで返事としてくれた。
「証拠を見せよう」
ソニアがそういうと巨大なドラゴンには流石にならず、腕のみをドラゴンの物にしてみせた。
そしてその腕には赤々と燃える炎が灯っている。
「………た、確かにそっくりの鱗ですね」
姫に鱗で判別など出来るはずもないが、武具を目にし、似ているくらいの感覚は持っているようだ。
「分かりました。私が責任を負い、許可致します。キッサマ、準備を」
キッサマは先に王宮に向かい、手筈を整えてくれるようだ。
そして今度は姫に連れられ王宮へと向かうことになった。
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