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96話 美味すぎる魚

とても長くなりました

「お疲れ様!途中からは、やはりという内容ではあったな」


「あぁ、こいつもクロノスに備えようとしてたんだろうな」


「うむ、そして研究の成否は定かではないが、私はある憶測が浮かんだ」


「おぉ!気になるな」


「…まず、この日記の人物とアイツと呼ばれた者は同僚と考えてまず間違いない。そんな人物が大陸を、海を渡るほど離れる必要はあったのだろうか?そして日記内でも中央大陸でも見られた魚や樹木、固有の食料に関する記述もあった。このことから私は、この大陸は元々1つの大陸だったのではないかという考えに至った」


「……うーん」


「クロノスにより大陸が割れたか、海面が上昇し、大陸が分けられたか、陸が海に沈んだ可能性もあるが、あながち間違いではないと思う」


少ない情報から色々と照らし合わせ、ミラが1つの憶測をたてる。


そんな中、ソニアが何かを思いつき、声を上げた。


「そうだ!お爺様に聞いてみてはどうですか?お爺様は約2000年程生きていると聞いています。何か知っていると思われますが!」


名案だとばかりにソニアは興奮しているが、ミラにそっと頭を撫でられ宥められる。


「ありがとう。しかし私はそれを望まない」


「だな!俺もだ」


アクセルとミラにそう言われ困惑するソニア。


「何故ですか?お爺様なら必ず―――」


「そうじゃない。確かにそれほど長命なら知っているかもしれないが、すぐに答えに辿り着きたいわけではないのだ。旅をして色々なことを知り、それを辿ることでたどり着く答え。途中で答えを聞いたとしても、それが真実であったとしても、それは私が求めるものではない。私は私自身で答えに辿り着き、その過程を楽しみたいのだ」


この世界において何かを知る手段は、結局のところ誰かが残した情報からしか得られない。


それが真実である保証もない。


そんな中でもその情報を参考とし、自分の足で探し、目で見て答えに辿り着く。


そんな一見無駄な行動をミラは楽しんでいるのだ。


「自分で様々な道筋を探し出し、それが正しいと分かった瞬間、とても気分が高揚するのだ。もちろん全ての事柄をそんな風に学ぶ必要はないが、歴史などは私の旅の目的でもあるからな…長く楽しみたいじゃないか」


「考えることを楽しんでいる…という事ですか?」


「まぁ、そういうことだ」


どことなく納得したような雰囲気のソニア。


そしてアクセルが2冊目の本に目を通し始めたことで、会話は止み、アクセルに視線が集まる。


「ダメだ!書いてる内容が理解出来ん……」


「まぁ、そちらに関しては先延ばしにしても問題ないだろう。あとは……」


「あぁ、飯だな!」


日記に地底湖でとれる魚は格別に美味いと書いてあったのだ。


そして時間的にも丁度良いと食事にすることになった。


「じゃあ、ちょっととってくる!」


服を抜ぎ、身体を清めた後、アクセルはそう言うと湖に飛び込んでいく。


そしてしばらく時間が経つがアクセルは浮いてこない。


酸素を生み出す葉を持っている為、溺れるような心配はしていないが、さすがに陸に残った3人は心配になってくる。


そんな時、魔装状態のアクセルが勢い良く飛び出してきた。


「ふぅーー、なかなか手強いヤツだった…」


襲われたのかと駆け寄るが、話を聞くと、とてつもなく素早い魚を見付け、捕らえるのに苦労したようだ。


アクセルがとってきた魚は3匹。


その中に小さいながらも明らかに存在感の違う魚がいた。


その魚は眩しいと感じるほどの光を自ら放ち、ピチピチと跳ねている。


早速その光輝く魚を捌いていくアクセル。


「出来たぞ!」


「な、生で食べるの?」


「おう!ソニアは知らないだろうけど、シンってやつに聞いたんだ!新鮮なやつは生で食べるのが1番らしいぞ。まぁ内蔵とかも食うらしいんだけど、今回はさすがに身だけだ」


全員で手を合わせた後、その薄い桜色の身を1切れ口に運ぶ。


「「「うまーーーー!!!!」」」


「たしかにこれは美味いな…」


特に調味料などは付けずにそのままだが、魚とは思えないほど濃厚な味わいがある。が、全くしつこくなく魚特有のサラサラした油だ。


味を確かめるように食べるアクセルとミラだが、ステラとソニアは取り合いするほど夢中になっている。


「あぁー!ソニア取りすぎ!!!」


瞬く間に完食したソニアは頬いっぱいに詰め込み、ステラの言葉も届いてなさそうだ。


「マスター!さっきの魚のお代わりを所望します!!」


「バカヤロウ!まだ他のがあるんだ。我慢しろ」


しょんぼりするソニアだが、次の生魚の薄切りが出てくると我先にと口に放り込んだ。


そしてそれに負けじとステラも続く。


「うあぁーー、美味しくない………」


「ホントだ……美味しく……ない」


今までアクセルが出してくれた料理で美味しくない物などなかっただけに、落ち込む2人。


「はは、まぁそういう事もあるな…………あれ?ホントだ。美味しくない……いや、美味しいけど、美味しくない」


「何を訳の分からないことを言っている……」


ミラも1切れ口にするが、アクセルの言ったことの意味がなんとなく理解出来た。


「うーむ、美味しいが、頭が無理やり美味しくないと感じているような…変な感覚だな……」


自身が口にした言葉に、はっとしたミラは慌てて皆に食事を辞めるように促す。


そしてあの光輝く魚を何切れ食べたか全員に問う。


「ソニア、ソニアはしばらく食事は禁止だ。ステラも少しの間は禁止だ」


そ、そんな…などと言いガックリと崩れ落ちるソニア。ステラもどこか落ち込んでいるようだ。


「どういうことだ?」


アクセルに問われ、ミラが昔読んだ本に記されていた、とある魚の話を始めた。


それは富、名声、全て手に入れた一国の王が気まぐれに散歩をしていた最中、流れ着いた光り輝く魚を見付け、初めて見た魚だと、食したそうだ。


その魚はとてつもなく美味く、その魚以外の物では満足出来なくなり、全てを捨ててその魚を探しに出た後、命を落としたというものだ。


「つまり、さっきの光る魚がその本に出てくる魚だと?」


「勿論確証はない。だが他の物を食べても不味いと感じることが問題だ。その本の男も、他の物を食べ、光る魚への渇望を紛らわそうとしたらしいが、紛らわすどころか余計に渇きと不味さを感じるようになり、最後には食べ物を口にすることすら出来なくなり、命を落としたそうだ」


「つまりこの光る魚は、とてつもなく美味いけど、同時に他の物を不味く感じさせる。それでも他の物を食べたら不味いのに耐えられなくなって食べ物自体食べれなくなるってことか………」


「そういうことだ。私とマスターは1切れしか食べてないからな。無理やり不味いと感じるその違和感に気づけたが、ステラとソニアはそれなりに食べただろ?ソニアは食事をせずとも死にはしないだろうが、ステラはしばらくの間、水を飲むことすら気を付けないといけないぞ?」


「あうぅ、欲張った代償が大きすぎるよ……」


その後、残った魚はすぐに味覚が戻ったアクセルとミラがとても美味しく頂き、アクセルの時空間で地上へと戻った。


そしてソニアの食への飢えを紛らわせるため、街や拠点に戻ることは避け、極力旅を続けた。


そして3日ぶりに水を飲んだステラも味覚が戻っているのが分かり、一先ずは安心といったところだが、光る魚の大半を食べたソニアは、自身がしばらく食を絶つと言っていた事もあり、まだしばらく飲まず食わずの期間が続く。


そして約ひと月の間、ソニアは食を絶っていたが、アクセルから分けてもらった肉を恐る恐る口にすると、その余りの美味さのあまり泣き出すという事態になったが、無事味覚が戻ったのだった。

読んで頂きありがとうございます

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