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07話 奪われたモノ

過激な表現があります。注意してください。

あれから数日、まだアクセルは療養と反省を込めて自宅待機を言い渡されている。


動ける様にはなったものの、まだ魔力は回復していない。


ここ数日は朝の日課である訓練も鍛えるというより身体をほぐす体操のように行なっている。


訓練を終え、三人で朝食を食べたあとネーラとグレイを見送る。


「今日はみんな忙しいだろうから遅くなるぞ」


「あなたはしっかり休んでなさい」


「…もう動けるのに…」


寒期がそろそろ過ぎ去るため、暖期に向けて住人達は動き出していた。

ネーラとグレイも手伝いや、周囲の見回りに向かうのだ。


一人家に残ったアクセルは物思いにふけっていた。


(…二人に何かしてあげたいけど、何が良いかなぁ…)


先日含め、何度も命をネーラとグレイに救ってもらった。そして育ててもらった。

何か恩返しをしてあげたいのだ。


(……ッ!夜のご飯を作ってあげよう!)


どうしても今この気持ちを形にしたい。そしてちゃんとお礼が言いたいのだ。


(…鹿肉の香草焼きしか出来ないけど、ないよりは良いよな…)


材料は全てある。肉を切り分け、香草で肉を包み、窯で蒸し焼きにするだけだ。

早速準備を、と思ったが、まだ朝といっても良い時間だ。


流石にまだ早いと思い、家の掃除や洗濯を始める。





▽▽▽▽▽▽▽▽



もう日は完全に落ち、しばらく経つが二人はまだ戻らない。

すでに料理も完成し二人が帰るのを待つだけだ。


(…………おそいなぁ……様子を見に行くくらい良いよな)


外に出て集落に向かう。


おかしい……………静かすぎる。


集落だけでなく、周囲も異様に静かなのだ。


そして異変に気付く。

集落の方から煙が立ち昇っていたのだ。それを確認した直後走り出すアクセル。


集落に着き、真っ先に目に入ったのは焼け崩れた家だった。

あそこには老夫婦が住んでいたはずだ。


(…くそ…なんで…)


突如身体中に嫌な汗が吹き出る。

焼けた家に向かう途中、何かに躓いて転びそうになるがなんとか踏みとどまり、振り返って足元を確認する。


「う、うわああああああ」


いつも作物のお世話をしていたおじさんが、胴から引きちぎられ、横たわっていたのだ。


思わず尻餅をつき後ずさりしてしまう。


(な、なんで…)


取り乱しながらも、何とか立ち上がり、家の近くにたどり着く。


そこでアクセルが目にしたのは惨劇だった。


崩れた建物の中には真っ黒な人影が、そして周囲にはセリアの両親だろう者たちの頭が潰され倒れている。

そしていつも釣りをしていたおじさんは、手足それぞれがあらぬ方向を向き、頭を潰されている。


その場で膝をつくアクセル。


(…なんで…こんな…………ッ!師匠と、先生は……)


グレイとネーラがこの事態に気づいていないはずはない。


震える脚を叩きつけ立ち上がり、二人を探す。


アクセルの産まれた村へ続く森の入り口でネーラを発見した。

片方の足首が握り潰したかのように陥没し、身体は縦半分に引き裂かれていた。


それを見たアクセルはたまらずその場で嘔吐してしまう。


「はぁ、はぁ、なんで…こんなことに…………ッ!」


混乱を極めるアクセルだったが、その耳にセリアが自分を呼ぶ微かな声が聞こえた。

声の方へ訳も分からないまま、また走り出す。


そしてすぐに見つけた。


グレイとセリア、そして魔物もいる。


グレイは手足が周囲に散乱し、頭には自らの剣が突き刺さって倒れている。


セリアは魔物に頭を鷲掴みにされ、魔物の腕を掴みながらバタバタと踠き、アクセルの名を消え入りそうな声で呼んでいる。


セリアを掴んでいる魔物はハイエナの様な顔に鋭く長い角を生やし、背中から尻尾にかけて棘のようなヒレみたいなものがある。

そしてクマをゆうに超える巨体で、腕は丸太の様に太く逞しく、強靭な爪も備えている。


「アクセル!」


「セリアッ」


お互いの名を呼び合った直後、魔物がセリアを掴んだ腕をゆっくりとアクセルに向けて持ち上げた。

同時にセリアもアクセルに手を伸ばす。


「…ッ!やめろぉぉぉぉぉぉ」


そう叫びセリアの伸ばした手を取ろうと走り出す。

セリアと一瞬目が合う。そして何かを言う前に魔物によってセリアの小さな頭は無残にも握り潰された。

辺りに鮮血を撒き散らし、セリアの身体は崩れ落ちたあともわずかに波打っていたが、すぐに静かになる。


「うああああああああ」


悲痛な叫びが周囲に響く。視界が真っ黒に染まり、その場に膝をつき手をついた。

今まで押さえつけていたドス黒いモノが身体を侵食していき、身体から溢れ出たと思った瞬間。


アクセルは意識を失い倒れ込んでしまった。


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