長男の苦悩
俺の家族は少し、というより両親がかなり愛情深い。
「ライラ、お前今日も練習サボっただろ」
「あら、お兄様こそ。今日の家庭教師をお断りしたのはどうしてかしら?」
「俺はルイの看病してたの。お前は?今度の週末に舞踏会があるだろ。デビューの日だ。ダンスの練習くらい受けろ」
「あら、ルイはどこか悪いの?」
大変っ!と両手を頬に添えてあたかも心配している風を装う。そんなのは双子のアルには通用しない
「いい加減にしろ、ライラ
別にルイの事なんて興味も無いくせに」
「あら
ちゃーんとあるわよ。私、これでも面倒見の良い姉ですから」
ふふんっと鼻を鳴らして1番末っ子の部屋へ向かうライラ
アルは小声で注意をする
「おい、起こすなよ。熱が出たんだから」
「わかりました〜」
ヒラヒラと手を振り軽やかなステップを踏みながら2階へと上がる姿を見送りアルはため息ついた。
どうして両親が不在の時に限って面倒事が起きるのか。
長男、アルバートは朝から起きた騒動を思い返しては目頭を抑えた。
今朝、両親は2人で別荘へと出かけて行った。これは毎月の事で何日いるのか、いつ行くのかは父親の気分次第。
だいたいは第2土曜からと決まっているのでアルバートは予定を把握しやすくなっている。
いま、長男であるアルバートは17歳になり領地を任せるようにと引き継ぎの期間だ。
双子の妹。ライラがデビューと同時に両親は引退。
一応、この屋敷にはいるが領地のことなど仕事は優秀な息子へと任せることにしたらしい。
無事に両親の旅立ちを見送ったアルバートは執事に今後の予定を聞きながら屋敷へと入ると第1の問題が発生した。
「お兄様〜!!!」
「どうしたんだい?シルビア」
「大変なの!私のスカーフ知らない?!」
オシャレに敏感な年頃に差し掛かってきた次女のシルビア。
「朝からそんなに興奮して。知らないよ。またライラじゃない?」
「お姉様にも聞いたわ。知らないって!
お兄様ならなんでも知ってるでしょ?」
2歳年下の彼女は今日も素敵なドレスを着ていた
「シルビアは今日も綺麗だね、俺はスカーフの在り処は知らないよ。他のものではダメなのかな?例えば…」
アルバートはポケットからひとつのリボンを取り出してシルビアの髪の毛を軽く結わえた
「どうかな?
母さんがやっぱりこのリボンはやめると言って渡してきたんだ。せっかくだから今日はシルビアのために付けてみたら?似合うよ」
「本当に?!アリス〜!アリス〜!」
シルビアは機嫌良くメイドのアリスを呼びにいった。
「ふう……」
「流石ですね。」
執事のアランドが傍で控えていて微笑む
シルビアの言っていたスカーフは先ほど父が母に丁度いいと首に巻いてしまったのだ。
母もシルビアが気に入っていてあげたのだと伝えたのだがそれでは首元が寒々しいと無理言って持って行ってしまったのだ。
なんとなく、そんな気がしていた…というより両親は別荘に行くと毎回、首筋あたりに鬱血痕を残す。
盛り上がるのはもうやめてくれ。と内心思うが言わないでおく。
兄弟が多い理由もそのせいだし。
それを今言ったところで治らない。
「リボンはアルバート様が?」
「あぁ。母さんがこれって言って」
肩を竦め笑うとアルバートはダイニングへ足を運んだ。