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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ぷち百合

作者: belgdol

 現代じゃこんな風景、実際に見るには西洋圏の古都にでもいかなきゃいけないんだろうな。

 そんな風に思わせる石造りの門扉を潜る。

 門自体は大きく、私の身長(育ってなければ百五十八センチ)の何倍も高い大きなもので、沢山の人が行き来してる。

 行き交う人は皆現実で着たらTPOを弁えないコスプレイヤーといわれそうな格好で、様々だ。

 私は視界の隅にあるマップで自分の位置を確認して、待ち合わせをしてる相手の街中での位置を確認する。

 このファンタジー風多人数参加型オンラインゲーム、フェステリアについて色々教えてくれて。

 引越しで遠く離れるね、と言った私に、それならゲームで会わない?と。

 今までちっともはじめる気なんかなかったこの感覚投入型オンラインゲームに私を誘ってくれた。

 大切な友達の茉莉、この世界ではシンシアと名乗っている彼女の元へ向かう為に。

 あ、茉莉のマーカーが動いた。

 私がこのゲームにログインしてから、指定した名前の相手に耳打ちする機能を使ったら、即座に飛んできたパーティー編成要請。

 コレを受けるないと見えないものらしいから、間違いない。

 引越し前後、色々話し合って、どたばたして、このゲームを私が始めるのも茉莉のリアルが落ち着いてからだから。

 こうして仮想とは言え顔を合わせるのは一月ぶり。

 思わず歩調が軽くなる、気づけば駆け足だったかもしれない。

 人の多いこの首都パーラントの人ごみの中ではちょっと気を使う必要があったけど、私はするすると人の間をすり抜ける。

 でもそんな私の頭の中に耳打ちが響いた。


【陽菜!私が行くから、そこで待ってて!私が陽菜を見つけるから!】


 ちょっと驚いて私はすれ違う人とぶつかりそうになったけど、なんとか避けた。

 軽く顔を顰めたそのお兄さんに軽く頭を下げてから、立ち止まっても邪魔になりそうにない道沿いの建物の傍に寄る。

 それも大通りの端でお店を開く人達の間を通り抜けられそうな所を探してだから、ちょっと大変だったけど。

 道端の民家?の石を積み立てた灰色の壁に触れて、ざらつく感触を受けて、あ、感覚投入ってほんとなんだ……と思いながら、さらにコンクリートよりも目が細かい感触の石壁をなでていると、声を掛けられた。


「お待たせ、アンナ。私だよ」


 弾む、一ヶ月前までずっと聞きなれてた声。

 振り返るとそこにはウサギの耳を頭から生やしたバニースーツみたいな鎧を着込んだ大胆な格好なのに。

 おかっぱ頭のピンク色の前髪を目が隠れるくらいに伸ばした全体的に平たい女の子が立っていた。

 目元はよくみえないけど、声だけで充分。

 だから、私は思わず笑顔になって答えた。


「やっほ、まつ……シンシア。そんなに待ってないよ」

「そう?……一月ぶりだね」

「うん、一月と、もうちょっと振り」


 思わず向かい合って、互いの手を取る。

 手を合わせてキャッキャッとはしゃぐような事はさすがにないんだけど、仮想でも触れ合える事を確かめ合うように。

 そっとお互いの手の感触を確かめるように指先を握り合う。

 私は、感慨を込めて茉莉、シンシアにいう。


「お互い顔は全然違うけど、また一緒に居られるね、シンシア」

「……うん!アンナとまた一緒だよ!一杯、一杯話したいことあるよ!」


 手を離して、ぐっと私に抱き付こうとする茉莉……だけど、無粋なウィンドウが。

 『過度の接触を試みるプレイヤーが居ます。許可しますか? Yes/No』

 私は当然即座にYesをタップした。




 アレからしばらく、皆露店を見るのがメインになっているという露店通りから外れて、街中の随所にあるというベンチで座って話す。

 茉莉のインベントリから出されたパフェを食べながら、発声モードをパーティー限定に切り替える方法を教えてもらって、切り替えて人ごみの中でナイショ話。

 ちょっと変な感じだけど、秘密のお話はちょっと楽しい。


【えっとね、こっちに来てから一ヶ月だけど、そこそこ話してくれる友達できたよ】

【そっかー、じゃあそっちでも学校生活は大丈夫そう?】

【うん。陽菜の言ったとおり、頑張って前を向いて、ちょっとどもっちゃったらけど、自分の好きなこと言えたら友達……になれるかなって子は出来たよ】

【うんうん、茉莉は可愛いんだからそれで大丈夫】

【で、でも!女の子なのにゲーム好きとか変じゃないかなって、多分陽菜に言われなかったらいいだせなかった】

【今時、ゲーム好きな女の子なんて珍しくないと思うんだけどねー。茉莉の中の女の子らしさって結構古いよね】

【そ、そうかな……】


 私に言われた古い発言が気になるのか、パフェを付属のスプーン(インベントリ?からスプーン付きで出てきて、食べ終わると器ごと消えるらしい、すごい)でパフェをしゃくしゃく堀り始める。

 ちょっと落ち込むと、手遊びっていうのかな、指先をつき合わせたり絡めたりでいじいじし始める、茉莉の昔からの癖。

 仕方ないなぁ、と思いながら自分の分をベンチの上において、茉莉の手からスプーンをすっと取り上げて、少なめに一口分掬って、彼女の口の前に構える。


【ちょっと位古くてもいいじゃない、古風っていう言い方もあるしね。落ち込まないの。あーんして】

【ふぁ。あ、あーん】


 ちょっと慌てたようにスプーンを口に含んだ茉莉に、ちょっと顔を緩めつつ私は言った。


【茉莉は自分のことにもっと自信持つと良いよ。それはそうと、私の方も話したいこと、色々あるんだ。いいかな】

【う、うん!いいよ!私も陽菜の話、聞きたい!】


 私の方に身を乗り出してきた茉莉に、この一ヶ月でのこちらの学校の話なんかをした。

 皆も段々茉莉が居ないのになれてきたけど、時々どうしてるか私が聞かれる事。

 私はあの別れの日から、このゲームを始めようようって二人で決めた日まで待ち遠しくて、一日がずっと長く感じていた事。

 このゲームを茉莉と遊ぶ時間を作るために、バイトを変えたこと。


 その一つ一つに茉莉は大きくリアクションをしてくれて、嬉しがったり、ちょっと寂しそうだったり、申し訳なさそうだったり。

 いろんな顔を見せてくれた。


【そっか。バーガーショップのレジ打ちやめちゃったんだ】

【まーね。ゲームで遊ぶって行ったら放課後でしょ。だから新聞配達に変えたよ】

【大変じゃない?】

【私無駄に早起きだから、大丈夫】

【……じゃあ、あんまり寝不足にしたりしちゃいけないね】

【そこらへんは大丈夫じゃないかなー。お互い課題もあるし、夕飯もお風呂もだし、ちょこちょこログアウトするでしょ】

【あ、うん。そうなんだけど】

【……もしかして、このゲーム結構やりこんでる系?】

【えっとね、ちょっぴり、かな】

【あはは、いいんだよ。茉莉は自分のペースで遊べば。私は時間が取れるときに会えれば十分だからさ】

【ダメだよ!私は陽菜と遊びたいの!】

【……そういう風にいってくれるのは嬉しいけど、私に合わせてるとゲームする時間少なくなっちゃうよ?】

【ん。別にいいよ。一緒が良いの】

【……甘えたなのは一ヶ月くらいじゃ変わらないね。じゃあ、一緒に遊ぼうか】

【うん!】


 こうして私は茉莉と始めての狩り?に出かけたのだった。




 入って来た門から外……フィールドに出る。

どうやら私の入って来た門は始まりの平原に続いている。

そこはなだらかな草原で、草むらの中を漬物石大のぷるんとしてるんだかぷにっとしてるんだか解らないビニーという。

ビニール製のウサギ人形みたいなモンスターがピョンピョン跳ね回っている。


「……」

「どうしたのアンナ」

「始まりの草原ってくらいだからそれなりに人は居るんだろうなーっておもったけど、なんか煌びやかな人達がいるね?」

「あ、ここはプレイヤーの間だと臨時広場って言う風にも呼ばれてるんだ」

「りんじひろば?」

「臨時にパーティー組むのに自然と人が集まる場所、って感じ」

「ふーん……レベル差での住み分けとかしないの?なんだかごちゃってるけど」

「えっとね、パワーレベリングっていう、上のレベルの人が引率してレベル上げする文化もあるんだよ」

「あ、なるほど。だから私みたいな初心者っぽい格好の人も混じってるんだ」

「多分、セカンドアカウントかサードアカウントの人が新キャラ作るために知り合いと待ち合わせしたり、人のレベリングを手伝うのが趣味みたいな人が初心者に声掛けてるんだと思うよ」

「なるほどね。でも私には関係ないかな」

「そうだね、私がしっかりアンナの事を鍛えますから」

「はーい、シンシア先生。お願いします」

「はい、良いお返事です。先生、ビシバシいきますよ」

「鞭はやだなー」

「え、え、じゃあどうしよっか……優しくして欲しい?」

「ぷりーずきりんぐみーそふとりー」

「PvPは専用の場所いかないとできないよ?」

「シンシア先生にはまだこの言い回しは早かったかな」

「な、なに!?んもーアンナ、なんだか解らないけど意地悪しないでよー」

「ごめんごめん。良い子にしますからシンシア先生、どうすればいいのか教えてくださいな」

「えっと、じゃあね……」


 今の発声式はオープン。

パーティー限定はリアルの名前を呼び合える気軽さはあるけど、今はゲームの中だもんね。

気楽になりきり気分でやりたいという私の希望でこうなった。


 それはさておき、茉莉大先生のいう事にはこのゲームはバーチャルリアリティならではの実際に動いてかわす体感ゲームならではの回避の他にも、ステータスによる自動回避率というのがあるらしい。

例えば、リアルで戦いなんかしないし、そういう人向けに低レベル帯の敵AIは温く設定されてるけど、やっぱりそこは個人差ってものがあるわけで。

どっぷり系なユーザーよりライトな人が多いこのゲーム、そこのあたりで間口を広くしてるんだって。

例えば素早さのステータスが高いと、敵の攻撃をプレイヤーの動作で避けられなくても、プレイヤーのステータスと敵に設定された命中力を比較して、一定確立で当たったように見えただけって扱いになるとか。

プレイヤーの器用さのステータスが高いと空振りしても攻撃判定?っていうのがある範囲内に敵を入れておけば適当に武器を振っても一定確立で当たるとか。

そんな感じ。

 プレイヤー側は見た目当たってれば必中扱いというのがこのゲームの敷居を下げてるらしい。


「これ、このナイフで叩けば良いの?」

「うん。アンナの装備してる初心者用ナイフは当たり判定大きいから、本当に適当で当たるからねー」

「ふぅん。こんな感じかな」


 標的のビニーの動きは率直に言えば鈍い。

一応一般人の範疇に居るゲーム初心者の私から見ても鈍い。

例えるなら、うーん、ビーチボールをゆるーく打ち上げたくらいの速度。

なんだかほわんとしてるんだよねぇ。


 そんなビニーちゃんを斜め後ろからぐさり、とやる。

ナイフは狙った位置に突き立って、ポーンと跳ねる様に与えたダメージが表示される。

私は茉莉が戦士だっていうから、回復とか補助をやるために賢さに振ってるから、ダメージは一桁。

実は私僧侶やるーっていうのは茉莉が引越しする前に二人で決めたんだけど。

ステータスは一人で決めちゃったんだよね。

どうせ前で戦わないならいっかーと思って全部賢さにふっちゃったんだよね。

比率にして並べると力1・素早さ1・器用さ1・賢さ5・頑健さ2って感じ。

なのであんまり茉莉のいうようにてきとーに振って攻撃範囲に頼るわけにはいかないのだ。


「わっ。アンナ上手いね」

「そう?これだけ鈍ければ普通に狙えるでしょ」

「わ、私の時はもっと躊躇ったもん。ビニーって結構可愛いし……」

「ゲームだしなぁ……本当に生きてるなら躊躇うけど、ね」


 懸命に向かってくるビニール人形みたいなモンスターにさくさくっとナイフを突き入れる。

充分飛んでくる方向の横に廻りこめるし、ふわぁっと飛び上がるからナイフを突き刺すのもらくらく。

何度かそんな事を繰り返して茉莉の方をみると、ため息ついてた。


「はぁー、アンナには支援職になってもらうって言ったけど、普通に前衛の方がよかったかもね」

「いいんじゃない?それにいつまでもこの調子が続くとは限らないし」

「あ、うん。そうだよね。じゃあバンバン!ビニーを倒してレベルをあげよー!」

「オッケー、シンシア先生。私がんばるよー」


 その後も草原をふわふわ飛び跳ねるビニーをサクサク倒した。

どのくらいサクサクかっていうと……。


「そういえばさ」

「なに?」


 私がビニーを叩く傍ら、シンシアに視線を飛ばすと。

あの子は何、というように首を傾げる。


「なんでバニースーツ?鎧なんだろうけど。露出度高くない」

「う……」

「気にしてるんだ」

「いや、あの、だってこれはセット装備で」

「ふーん。どんなセットなの?」


 慌てるシンシアの姿を目の端に捕らえながらビニーにもう一発。

あ、弾けた。


「えっとね、まずはバニーアーマー自体が軽戦士用の結構優秀な装備でね。バニーイヤーとバニーレッグもそこそこなの。で、肝心のセット効果が素早さ一.二倍なの」

「一.二倍って凄いの?」

「それが結構凄いんだよ。ステータス決める時、十ポイントを振り分けたでしょ」

「うん」


 話しながらもう一匹どーん。

よそ見してても余裕あるね。


「あれが見た目は十ポイントだけど、内部的には百倍の値、千ポイントで細かくなってるみたいで」

「ふむふむ?」

「十の一.二倍だと効果なさそうだけど、千の一.二倍だと凄い差でしょ」

「……あー。二百違うもんね」

「そうなの。だから一.二倍っていう倍率の効果自体が少なくて……やりこんでる人だとこの効果目当てにアバターを女の子にしてる人がいるくらいらしいよ」

「あ、女性専用なんだ」

「うん。男性専用だとバッファロースーツとかベアースーツとかがあるかな。それぞれ体力一.二倍と腕力一.二倍なんだけど」

「ふーん。そんな高性能な装備だと結構お高かったり?」

「まぁ、結構」

「ほーん。ふーん。はーん」

「な、なに?陽……アンナ」

「いやー。こんなエッチな格好をまつ……シンシアがするなんてねー」

「ひゃ!」


 ビニーを倒して手が空いた私は陽菜の胸元に手を伸ばして……胸のカップの部分を引っ張ろうとしてすり抜けた。


「ありゃ?」

「ふ、ふふーん。このゲームは全年齢向けだからえっちぃことはできないようになってるんでーす。衣装をめくろうとしたりすると接触判定が透過されるの」

「あー、そうなんだ」

「絶対!無敵!完璧!」

「はいはい……じゃあもしかしてスカート型の装備って覗こうとすると中が見えなかったりするの?」

「噂だと外から見る分には翻ったりするらしいけど、中を見ようとしたり中が見えそうな動きをすると中身はホワイトアウトしてるらしいよ」

「ふーん。そういう仕組み。じゃあゲーム内では下着ないんだ」

「ないねー。水着はあるけど下着はないねー。あるとしたら装備全部外した時のスパッツみたいなのとスポブラみたいなのだけだねー」

「そこらへん、ちょっと手抜き?」

「全年齢向けだからねー。下着に凝っても魅せる相手が居ないじゃない?」

「そう?私はシンシアに見せたいけどなぁ」

「あ、アンナ?」

「リアルで二人ファッションショー遊びとか出来ない分ゲームでしたかったよ……」

「……そうだね」


 ちょっとブルーな感じにしちゃったな。

ちょっと空気を変えよう!


「ま!その分は色んな装備でファッションショーすればいっか!可愛いシンシア先生の事、一杯見せてね!」

「アンナったら。うん。アンナも、一杯見せてね」

「うん!そのためには……まずはレベリング、ですかね?先生」

「そうだねー。レベルを上げて、倒せる敵増やして、レアを拾って……。まぁ、レアじゃなくて需要の多い消耗品の素材を集めて売るっていう手段もあるけど。とにかく金策だね」

「よーし、頑張るぞー」

「じゃ、ビニーは楽勝っぽいし。ちょっと上の狩場行こうか?」

「そだね。手ごたえ無くて眠くなりそう」

「じゃあ次はー……」


 私の空気を変えようとするちょっとわざとらしい言葉に、シンシアも乗ってくれた。

二人連れだって、狩場を移動する。

一緒に居られなかったシンシアの引っ越しからの一か月の事とか、まだまだ話したいことは一杯あるけど……。

それはひとまずおいておいて。

これからも一緒だね、陽菜。

できれば、これからもずっと、ね。


 こうして私のゲームライフは幕を開け……。

日常になっていくのでした。



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