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魔王様は猫である!  作者: 奥沢 秀水
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第五話 底なしの強欲

今回はようやく初の戦闘シーンです。しょぼいけど······

「ん〜、このパン焼き立てでおいし〜!」


商いと人々で賑わう街。そこから少し離れた橋の下。かなりの時間(一方的)にじゃれ合ったアウラは少し遅めの朝食をこれでもかというほどの大口で頬張る。俺は財布の礼と言って焼き鳥をもらったのだが、俺の体を配慮してか調味料が何もかかっていないものを注文したため肉の味しかしない。とはいえせっかく娘に奢ってもらった朝食だ、父親として一文なしのホームレスとして残すわけにはいかない。


「どう、そっちの鳥はおいしい?」


美味いか否かで聞かれたらぶっちゃけまずいがあえて何も答えない。代わりに串から丁寧に取ってもらった鶏肉を食い続ける。すると、アウラは嬉しそうに頬をほころばせ、


「財布見つけてくれてありがと!じゃあこれで本当にバイバイだね」


そう言って俺の頭をポンポンと撫でると、立ち上がる。その直前、アウラの表情がどこか寂しそうだった。まぁ、魔族にとって息苦しい世の中になっちまったからなぁ、心を開ける仲がいなかったのかもな。


そんなことを考えながら人混みへと歩いていくアウラを見つめる。バイトを探すと言っていたから恐らくはそのためだろう。その姿がかろうじて見えるようになった頃、


「さて、行くか」


俺はアウラの後を付けた。



多くの店が並ぶ商店街、俺は屋根の上からそれを見下ろしていた。ストーカーだと言うなら勝手に言え、どうせ猫は裁判にはかけられねぇ。


アウラの居場所はちょっと目を離してもすぐにわかる。というのも、魔族の角はやはり目立つ。それと、これはあまり言いたくないのだが─。


─アウラが皆から距離を置かれていたからだ。


周囲から向けられる怪訝の目。中にはあえて目を合わせない者もいる。


これが戦争の爪痕か。敗者となった魔族が差別的な扱いを受けていることは俺も知っていた。都市部から隔離された者、経済的に破綻している者、奴隷として酷使されている者、街を歩いてりゃそんな噂をよく聞いた。そう考えればアウラに対する仕打ちはまだマシなほうなのかもしれない。


アウラが八百屋に面接を頼む。が、店主と思しき男は虫でも見るかのような目でシッシッと追い払う。


殺すか。俺がそう思い殺意を剥き出しにする一方でアウラはしょぼんと肩を落としただけで、気持ちをリセットするように両手で自分の頬を打つ。慣れっこなのだろう。


何やってんだか、娘がああして切り替えてるってのに親である俺がカッとなっちまって。 


別の仕事を探しに街中を散策するアウラ。俺はそれを追おうとして─。


─見事に俺の前足はスカッと空振りした。


前を向いていなかったのが運の尽き、そこから先に足場がない事に気が付かなかったのだ。


「のああああああああ!!」


やばいやばいやばい!本来猫は肉球をクッションにして着地するが、この体になって一週間の俺にはキツイ!


もうだめだと思い目を瞑る。しかし、俺の背中が受けたのはレンガの硬い衝撃ではなかった。


暖かさを感じる柔らかい感触。それが俺の落下ダメージを軽減したのだ。無事に着地した俺は一体何にぶつかったのか確認する。


そして、それがあまり良いものではない事に気づくのに時間は掛からなかった。


突然上から降ってきた俺を睨みつけるのは猫、猫、猫。さらにもう1匹─恐らく俺のクッションになった奴─が白目を剝いたブサイク面で気絶していた。俺もこんな顔してたのか······。


「ほう、俺の縄張りに入ってくるとは······てめえいい度胸してんじゃねぇか」


額に十字傷の入ったボスと思しき一際デカい黒猫が俺を真っ向から睨みつける。まさか縄張りなんてもんがあったとはな、あの黒猫相当お怒りのようだ。


「おお、ここお前らの城って訳か。悪ぃな、あまりに小っちぇもんだから気づかなかったぜ」


かっこ悪く落下しといて何言ってんだって気もするが、


「何スカしてんだよっ!」


下っぱの1匹である虎柄が拳を俺の顔面目掛けて放つ。こんな挑発に乗っかるとは、あの力を使わなくてもこんな連中簡単に片付けられそうだが、丁度いい試してみるか。


俺は顔面を守るように左手を軽く前に突き出す。手のひらの肉球に虎柄の拳が当たる感触、しかしそれだけ。俺は衝撃も痛みも感じない。代わりに力が左手を通じて右手へと集まっていくのを感じる。


虎柄が謎の感覚に困惑する暇も与えず、顎へとアッパーカットを繰り出す。増強されたパンチを諸にくらった虎柄は弧を描きながら吹っ飛ばされる。


これが俺の力にして強欲の魔王の異名の由来、『底なしの強欲』。対象から欲しいと思った物を物だろうが何だろうが奪える能力。その欲が強ければ強いほど、力の強さも比例する。さらにこの力、感情に左右される面を知識で補うこともできるのだ。因みにさっきの虎柄の件はパンチの力を吸収して、なおかつ俺の力もプラスにして返してやったって訳さ。


「んー、思ってたより飛ばなかったな。肉球で受け止めたのが原因か?」


「て、てめえ何しやがった!?」


もう1人の下っぱらしき灰色の猫が俺に問う。黒猫のほうも俺が只者ではないと悟ったのか、座っていた木箱から立ち上がりこちらを見据えている。


「残念だが、教えても理解できる程のおつむがお前らにあると思えねぇしなぁ」


そう言って右手の爪を一本出すと、


「知りたかったら自分で来な」


煽るようにクイッと上げた。


「ち、調子乗ってんじゃねえぞー!」


灰色が駆け出し、俺の手前で爪を立てる。爪は俺の頬に当たるがそれ以上進まない。チクッとする、ただそれだけだ。


俺はお返しと言わんばかりに渾身の膝蹴りを灰色の腹に決める。隙だらけの奴は内臓のダメージにその場にうずくまる。


後はあの黒猫だけ。次の標的に狙いを定めようとした所で、奴の姿が見えないことに気づく。


奴がどこにいるかはすぐにわかった。背後から聞こえた地面を蹴る音。反射的に振り向くと、奴の鋭い牙が眼前まで迫っていた。この牙で噛み殺す気だったのだろう。俺の右足にエネルギーが溜まっていくのを感じる。そのまま左足を軸にすると、


「ほらよっ!」


エネルギーを溜め込んだ足をこめかみにブチ込んだ。黒猫はほぼ垂直に壁に激突。俺は灰色のいる後方を振り向くと、灰色は「ひっ」と声を上げるとよろよろとした足取りで路地裏の向こうへ消えていった。それを確認すると俺はアウラの尾行を続けようと─。


「待······て」


─したところを黒猫に止められる。その声は非常に弱々しく、よほどのダメージを負ったことが伺える。


「今のは······どんなトリックを······使った」


「トリック?何言ってんだ」


俺はハッと笑い黒猫を見やると、


「ただの回し蹴りだ」


そう言って縄張りから去って行った。




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