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魔王様は猫である!  作者: 奥沢 秀水
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第四話 悪魔の角と失くした財布

「─ちゃん、ネコちゃーん。大丈夫〜?」


「う、うーん?」


真上からかけられる声と胴を優しく撫でられる感覚で目が覚めた。清々しい晴天を俺から遮り見下ろす少女。屋根の隙間から漏れ出す光のおかげで今度ははっきりとわかった。


「······アウラ」


間違いない。まだ幼さを感じる童顔こそクールな美貌を持つニーナと対比しているが、母親譲りの黒髪と抜群のスタイル。そして、上位悪魔であることを示す首筋の禍々しい紋章がなによりの証拠だった。


アウラの無事と成長に俺は安堵と喜びを覚える。でっかくなったもんだなぁ、


······特にどこがとは言わないが、


俺がそんなことを思っていると、アウラも俺の無事に安心したようでホッと息をつく。


「よかった〜。君が白目剝いて涎垂らしたブサイクな顔見たときはびっくりしたよ〜」


マジか、俺そんなキモい顔で気絶してたのかよ。脳天に当たったとはいえ情けねえ······。


「いたた······。やっぱり硬い地面じゃ寝違えるか」


体を伸ばすアウラに俺はふと疑問に思った。


なんでこいつ路地裏で寝てたんだ?


こいつに俺の言葉が通じるかはわからない。だが、やってみる価値はある。うまく行けば、俺がマモンだと理解してくれるかもしれない。


「なぁ、お前なんでこんなとこで寝てたんだ?金は?家族は?」


「······?」


俺がそう言ってもアウラは頭に?マークを浮かべるように俺を見るばかりだ。


ダメか、そう思ったとき、アウラは俺に背を向け、


······近くにあった猫じゃらしをむしり取ると、満面の笑みでこう言った。


「どうぞ、召し上がれ」


「お前もかよ!!」


俺は反射的に猫じゃらしをそれを掴んだ右手ごとはたき落とした。やっちまったという気持ちもあるが、その前に一言言わせてほしい。


「なんなんだよ!?ここらの猫じゃらしは食用にでもなってんのか!?」


そう叫んでもニャンニャンとしか聞こえないのであろう。アウラは目を丸くし、弾かれた右手と俺を交互に見やる。


「あー、ごめんね。お腹減ってた訳じゃなかったのかな〜?」


申し訳なさそうに謝るアウラ。······やめろよ、衝動で動いた自分が情けなくなるじゃねえか······。


「さて、なんかバイト探さないと。ここに来た時財布落としちゃったし」


アウラはそう言って立ち上がる。なるほど、こんなとこで野宿していたのはそういうことか。しっかし、無一文なのに随分とポジティブだな。


アウラはバイバーイと手を振ると、こちらに背を向け通りへと歩いていく。俺はアウラに追いつこうとして、やめた。できることなら一緒にいたいが、あいつは今無一文だ。あまり迷惑はかけたくない。遠くから見守る程度でいいだろう。


チャリン


俺は壁を伝って高い所から様子を見ようと、手頃な足場を探し─ん、チャリン?


微かだが聞こえた金属のぶつかる音。その音のする方にはアウラがいた。まさかと思いよく見ると─。


─いったい何をどうやったらそうなったのであろうか。角の根本に財布と思しき革袋の紐が見事に引っ掛かっていた。猫の聴力を持つ俺だから聞こえたのだろう、アウラは全く気づいていないようだった。


慌ててアウラに向かって駆け出す。猫の小さい体躯、ましてや寝起きの状態ではいくら俺の跳躍力でも4倍近くあるアウラの頭までは届かない。だが、あいつ自身が気づいてくれれば!


アウラとの距離はおよそ1メートル。瞬間、俺は跳躍した。そして、背中を正面にし突っ込む。背中から僅かに感じる凹凸感─恐らく背骨だろう─。背後からの襲撃にアウラは驚いたように「わっ!」と声をあげる。お目当ての財布は角からずり落ち、チャリンと音を立てて冷たく硬い土の下に落下した。


「あーびっくりした〜。ん?今何かチャリン······ってあー!私の財布!そういえば昨日手が塞がってて引っ掛けておいたんだった!」


自分でやったのかよ、と思っていたが、よくよく思い出してみると、こいつは昔もよく自分の角にニーナのネックレスやらを引っ掛けては叱られていた記憶がある。その癖がなおってないのだろう。


しばらくの間財布との再会をただただ喜んでいたアウラだったが、突然ハッとした表情になり、ゆっくりとこちらを見ると、


「ひょっとしてこの事を私に教えようとしてくれたの?」


そう言った。


ここで素直に頷いても不思議に思われるだろう。俺はその質問を目で返した。それが伝わったのか、アウラは嬉しそうに口角を上げ両手をこちらへ伸ばすと─。


「うぉあ!」


「ありがと〜!おかげで助かったよ〜」


力強く抱きしめた。俺の背中が柔らかい胸の感触をとらえる。一瞬だけ生じる快感。そしてたとえこんな姿だからとはいえ、父親としてどうなのかという罪悪感。そんな申し訳なさから腕からの解放を試みるがなかなか力が強くて抜け出せない。


そんなこんなで俺は細い路地裏の中、実の娘と数分間にわたる格闘をしたのだった。








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