第三話 遠き日の夢
今回はちょっと短めです。理由は単純に次の話を考えてる途中だからだけど······。来週にはちゃんと考えて更新したいと思っています!
「クウォルツァは奴らの動きを止めろ!第四小隊はのクウォルツァの援護だ!ここで奴らを潰せ!」
魔王城の玉座、俺はそこに座って支持を出す。下の層から配下の断末魔が聞こえる度に感じる魔力も薄くなっていく。
とうとう勇者がこの城まで攻めて来たのだ。奴らめ後少しの所で!
『ミレイ様こちら第四小隊、現在劣勢中至急応援を─グァァァァ!!』
隊員の断末魔が通信用魔法石から聞こえる。その声に金髪を短く切り揃えた参謀のミレイは悔しそうに唇を噛んだ。
「マモン様、勇者がここまで来るのはもはや時間の問題。このままでは!」
「あぁ分かってる!」
状況は最悪だ。幹部は城に居たクウォルツァを残して全滅。勇者達は順調にこの最上階まで近づいて来ている。
「こちらミレイ、何があった!······何だと······?」
また新たに来た知らせを聞いたミレイがゆっくりとこちらを向く。その顔は先程よりも悪く、何処か絶望も見える。
「マモン······様······」
「······何だ?」
だいたいの予想は付きながらもそう聞く。
「クウォルツァ様が······勇者の致命傷を喰らい城から転落したと」
「······」
俺はグッと拳を強く握り締めた。クウォルツァは幹部の中でも一番頼れる奴だった。俺が魔王の座についたばかりの時もあいつは懸命に俺をサポートしてくれた。
「あなた、手が······」
「お父さん······」
隣にいた妻のニーナとニーナにしがみつく娘のアウラが俺を見て心配そうな顔をする。次に感じたのは少しの痛み。俺はそこで初めて握った手から血が流れているのを知った。
「悪いな、俺とした事が······」
俺はそう言って二人を見据えた。こんな状況下でアレだがニーナ、いつ見てもいい女だ。流石俺を惚れさせただけはある。アウラも子供特有のあどけなさを感じるが、ニーナに似たその容姿がその愛らしさをより一層際立たせている。
そんなことを考えていると、思わず吹き出してしまった。そして決心した。俺が初めて自分よりも大切だと思った二人だ、こいつらだけはぜってぇ守りてぇ!
「ミレイ」
「ハッ」
「ニーナとアウラを連れて逃げろ」
「······は?」
俺は玉座から腰を上げミレイに背を向けそう言った。
「マ、マモン様何を!」
「心配すんな、時間は俺が稼ぐ」
「なりません、私が囮となります!あなたさえいればまだ再起の可能性は十分に─」
「ばぁか、何言ってんだ」
俺は制止するミレイに振り返り笑った。隣ではニーナが心配そうな顔をしてこちらを見ている。
「お前じゃあいつらには勝てねぇ、きっと一時間も稼げねえだろうよ。それに誰も負け戦しに行くなんて言ってねぇだろ。俺はあいつらを倒したらお前達を追う」
「し、しかし······」
「それによぉ、『魔王が勇者にビビって妻子と逃げました』なんてかっこがつかねぇだろ。俺の名に泥塗るつもりか?」
「······わかりました」
ミレイはそれだけ言うと転送魔法の準備をする。俺はニーナとアウラの元に寄ると、二人をそっと抱きしめた。二人もそれに応えるように俺を抱きしめる。
「······待ってるからね」
ニーナがそう言った。俺はその言葉に頷く。
「お父さん、残るの?」
「······あぁ」
「やだよお父さん、一緒に行こう!」
アウラは俺からしがみついて離れない。まずいな、強い魔力(きっと勇者だろう)がどんどん近づいてくる。
「大丈夫だ、俺は勇者なんかに負けたりしない。絶対勝ってお前達に会いに行く」
「ほんと?約束だよ」
「フッ、分かってるって」
俺はそう言って頭を撫でながら微笑みかける。俺も家族を持って随分変わったのかもな、昔はこんな笑い方しなかったってのに。
「マモン様、準備が整いました」
「そうか、頼んだぞ」
「······マモン様こそ、どうかご無事で」
ミレイはそれだけ言うと、術を発動する。アウラ達の周りを赤い魔法陣が囲んでいく。
「お父さん!私も、ずっとずっと待ってるからね!」
アウラが叫んだのを最後に三人の姿は影もなく消えた。それとほぼ同じタイミングで背を向けていた扉が乱暴に破壊される。
「魔王め、遂に見つけたぞ!」
勇者が右手に持つ聖剣の切っ先を俺に向ける。俺はゆっくり振り返ると勇者どもに先程アウラに向けた笑みとは違う、蔑むような笑みを浮かべる。
「よくここまで来たなぁ、褒めてやろう。だいたいこういう時は決闘前に何か話すのがお約束らしいが、生憎俺は長話が嫌いでねぇ······」
俺は片手剣程の長さの魔剣をゆっくりと弧を描く様に上げ、
「さぁ、愉快に殺し合おうぜ!」
挑発するようにそう言った。
─そしてアウラとの約束は嘘となった。