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20年後 その1

さて、これで完結するつもりだったんですが、書いている途中で、


「あれ?これ一話の量多くね?長すぎじゃね?」


と、なりまして、3部編成になりました。

許してください。



 アレクが『伏魔殿パンデモニウム 』に取り込まれてから、20年。

 その間に世界のルールは大分書き換えられることになった。




 「おねーちゃん!式典が始まっちゃうよ!」

 「まだ5時間もあるだろう。焦り過ぎだよ、アルマ」

 「そんな事ないよー!なんてたって、『魔物』と『人族ヒューマン』の講和だよ!?『神々の黄昏ラグナロク』以来、一度もなされなかったビッグイベント!」


 魔力で編まれた服、ではなく『人族ヒューマン』の中でも一流の服職人が作った式典用の衣装に着替えていたカナンに、アルマが焦り気味に声を掛ける。


 「ビッグイベント・・・って、確かに大きな歴史の変換点にはなるだろうが、だからこそ、焦っても仕方ないだろう」

 「わかっていない!わかってないよ!お姉ちゃん・・・は・・・」


 服を着終わって、衣装室から出てきたカナンを見たアルマは、言葉を失ったように立ち尽くす。


 「すごい・・・綺麗だよ、お姉ちゃん」

 「花嫁衣装じゃ無いんだから、そんな事を言うな・・・まあ、褒めてくれた事は感謝する」


 カナンの姿はアルマの言う通り、綺麗だった。

 肌の露出は殆どなく、ゆったりとした印象を感じさせる白のワンピースタイプのドレス。

 腰につけられた黒いリボンがアクセントとなっており、カナンの白い髪や白い肌の美しさをより強調する。

 

 普段、こんな風にオシャレなどをする筈もないカナンがこんな事をしている理由、それは二人が話している通り、今日が記念すべき日であるからだ。


 『魔物』と『人間』、交わるはずのない二つの間の垣根を取り払う。


 これはカナンが2万年後のアレクの為に立ち上げた計画だ。

 人でありながら、魔物であるアレクが将来、生きやすい世の中にする為に。

 

 アレクの為にカナンが最初にした事は、各地に点在する魔物の集落を訪ねる事だった。

 人間達を説得する前にまずは、魔物達の意志を統一する。

 それを目的としての行動だったが、それは決して楽なものではなかった。

 人間に強い恨みを持つ者、馴れ合いを嫌う者、そもそもそういった俗世に興味が無い者。

 また、他にもカナンがそれを言うに足りる力を持っているのか試してくる者も居た。


 ドーレフの力を取り込み、一段上の段階に上り詰めたカナンだが、それでも勝てない魔物というのは両の手の指ほどはいる。

 それでも、言葉と、時に拳を交わし、魔物達とわかり合った。

 

 だが、それ以上に厄介だったのはやはり人間だ。

 まず、言語の問題があった。

 『アルコーン』でしか話した事のないカナンは、まず一から『シュルティ』を学ぶ必要があったし、そもそも魔物であるから、聞き取りは出来ても話せない。

 昔からの友人であった『森妖精エルフ』の助けを借りて、何とか意思疎通こそ出来るようにはなったが、それでもスタート地点に立っただけだ。

 人間との対話はそこからが本番だったのだ。


 訳の分からない伝統を振りかざし、人間有利である条件でしか講和はしない、奴隷としてなら講和してやろう、などと言い出す奴はまだましで、中には『12星将』まで引っ張り出し、珍しい魔物として、カナンを捕らえようとした輩も居た。


 結果的には魔物に掛けた3倍の時間を掛けて、何とか人間と魔物が対等な立場に立てる講和条件となったが、それはカナンの強い意志と一つの奇跡が無ければ、決して成り立たないものだった。


 そして、今日、人間の持つ都市の中でも最大の規模を誇る都市国家、『ジャヌアリウス』にて、講和が成立する。


 (そういえば、結局最後の手紙は読んでいなかったな)


 カナンは宿泊している宿から出ようとして、二十年前の手紙を思い出す。

 手紙は常にカナンの手元にあった。

 強い魔力でコーティングされたそれは決して劣化する事なく、いつもカナンに勇気を与えてくれる。

 だから、きっとこの手紙は開けなくても良いのだ。


 これを開ける時は自分が死ぬ時にしようと心に決めて、ドアを開ける。



♢☆♢☆


 魔物との講和、これがカナンの努力による所が大きいのは確かだが、それでも彼女一人では成し得なかった。

 これが成功したのは、カナンが人間と交渉している時に起きた、一大イベントによる物も大きい。


 それが起きたのは、一種の奇跡といっても過言ではない、まるで何かがカナンの計画を後押ししたかのような完璧なタイミングだった。


 人と魔物との講和の最後の後押しとなったそれは、神々。


 かつて、『神々の黄昏ラグナロク』の後に、天界へと戻ってしまい、地上から姿を消してしまった彼らが地上に再度降り立ってくれた事こそが、講和の決め手となったのだ。


 原因はまさに神のみぞ知る、だが、それは確かに神の恵みだった。


 また、彼らが地上に降りた事は他にも大きな影響を及ぼした。

 まず一つ目が『職業』、人がモンスターと争う為に与えられた奇跡、それが消失した事だ。


 そして、失われたそれの代わりに新しく神々から人間には『加護グラシア』と呼ばれる力が授けられた。


 『加護グラシア』は、『職業』とは違い、与えられた人間の能力を一部だけではなく、全てを上昇、より強いモンスターとの戦闘すらも可能にした。

 更に『スキル』と呼ばれていた力も、より強く、より多彩になり、『加護』を授けた神の特色を強く出してくれる能力になった。


 しかし、悪い面もあった。


 それはモンスターの凶悪化だ。

 神々の強すぎる魔力や、『神威オーラ』に当てられたモンスター達は、年々凶悪になっていき、時折、神代のモンスターも見られるようになっている。


 その事に対応するため、戦力の増強をしたいという事で、魔物との講和を人間が望み始めたのは不幸中の幸いと言うべきか。




 「遂に・・・ここまで来たよ。アレク」


 アレクから頼まれたわけではない。

 これはただの自己満足だ。

 けど、それでいいと思うのだ。

 アレクが自分を切り捨ててまで、カナンを外に出してくれたのだって、カナンが頼んだ事では無い。

 それは、アレクの自己満足だ。

 だから、それに対する御礼も、カナンの自己満足で良いのだ。


 講和を結ぶ場所として選ばれたのは町の中央、女神『アテナ』への祈りの為に作られた礼拝堂だ。


 発展した都市の中でも、最もお金を掛けて造られたこの建物は、『白蒼石』と呼ばれる、魔力を非常に通しやすいだけでなく、天然物にも関わらず、白磁にも似た美しい色合いを持ち、更には加工がしやすいのに頑丈という特殊な鉱石を惜しみなく使われている。


 グラムで金貨三枚というとんでもない高級品を使っているからかどうかは知らないが、ここの雰囲気を気に入った神々の多くが、頻繁にここを訪れる為に、ここは一種の聖地として扱われているらしい。


 カナンは現在、この礼拝堂に並べられた長椅子の一つに座っていた。


 とある理由で人払いされているここは、カナン以外の存在は居ない。

 とは言え、人払いを頼んだのはカナンではない。

 また、講和の4時間も前にここに着いたのはアルマに急かされたからでもない。


 ここに来たのはある神に呼ばれて居たからだ。

 約束の時間は10分後、少しばかり早すぎる気もするが、神様を待たせるよりはいいだろうと、背もたれに体重をかけたところで、背後から声をかけられる。


 「ごめんなさい、待たせてしまったかしら」


 カナンが振り返れば、そこには緑がかった黒髪をセミロングにした女神、フレイヤが居た。

 ゆったりとした服に身を包み、胸元には信者から贈られたであろう美しいエメラルドを着けている。


 「いえ、私が早く来すぎただけですから、お気になさらず」

 「あらあら〜、それならお言葉に甘えさせて貰うわ〜」


 彼女はフワフワ、フラフラ、ユラユラと掴み所のない動きでカナンの横に座ると、カナンの方を向きながら楽しそうに微笑んだ。


 「ふふ」

 「あの・・・そんなに見つめてどうしたんですか?」

 「いえいえ〜、貴方の心の色を見ていると落ち着くの〜。駄目・・・かしら?」

 「いや、それならいいんですけど」


 フレイヤ、豊穣や愛を司る女神。

 そこに居るだけで周りの土壌どころか既に存在する草木すらも急速に成長させてしまう程の魔力を持つ神様だ。


 また、神々の中でも有数の物書きとしても知られている。


 特に恋愛物語を好んで書く彼女だが、カナンが読んだ事のある彼女の作品は、どれも名作と読んで差し支えのないものだった。


 「うんうん、強き信念の深い青、激しい情熱の紅、尊き愛の白磁・・・いつみても貴方の心は眩しいほどに輝き、虹のように多彩な面を見せてくれるわ。例えるなら、何かしら?あらあら、いい例えが無いわね」

 「そう・・・なんですか?」


 他人の心の色を見れるというフレイヤだが、そもそもからして抽象的な事しか言わないので、カナンも反応に困る。


 「そうよ〜。けど、貴方の心、泣いているわ。どの色の輝きも曇らせてしまう薄い、本当に薄い黒が残ってるの。これさえ無ければ、貴方の心はもっと美しいのに」

 「泣いている・・・ですか」

 「そうなの。だから、今日。私は貴方と会おうと思ったの」

 「?」


 ふふ、と微笑む彼女は、ゆっくりと胸元のポケットからペガサスの羽根で造られた羽ペンを取り出す。


 「私に貴方の物語を書かせて欲しいの」

 

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