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メデューサという少女


 「この世の全てを記した場所・・・?」

 「そう・・・と言っても、ここは私の記憶によって作られた場所だから、何も記されてはいないけど」


 そんな問答をする二人の横、カナンは戸惑ったようにアレクに問いかける。


 「アレク?一体誰と話しているんだ?」

 「え、あそこにいる少女・・・もしかして見えてないのか?」

 「無理よ、そこの子は私たちと同じじゃないから・・・色んな意味で、ね」


 白の童女はゆらりと二人に近づき、カナンの胸元に手を当てながら呟いた。


 「だから、少しお休みなさい」


 すると、カナンは気絶したように突然倒れると、アレクにそのまま身体を倒してきた。


 「何をした?」


 カナンの身体を支えてアレクが尋ねる。


 「この子が居たら話が進まないでしょ、眠らせただけだから安心して」


 童女の言葉を聞きつつ、カナンの身体を本を読むために用意されている机の上にゆっくりと置いてから、アレクは童女に向き直った。

 童女はその見た目にそぐわぬ流麗な仕草でアレクに頭を下げると、自らの名を名乗った。


 「私はメデューサ、貴方達と敵対するつもりは無いわ」

 「・・・アレクだ」

 「つれないのね、本当に敵対の意思は無いのに」

 「信じられると思うか?」

 「まあ、いいわ。時間も無いし、手っ取り早くいきましょう。それを信じるか信じないかは、貴方に任せるわ」


 薄手のワンピースに身を包んだ彼女が、虚空に向かって手を伸ばすと、その手の中に鞘に収められた一本の刀が現れる。

 それを見たアレクが警戒すると、メデューサは直ぐにその刀をアレクの元に投げてきた。


 「これは?」


 柄も、鞘も、付け紐も、鞘に付けられた銀の装飾以外の全てが白に染められた刀を受け取りながら、アレクが尋ねる。


 「それは『ゾディアック』シリーズの精霊を宿した武器を真似て作った物、名付けるなら『擬似黄道十二門武器ゾディアック・レプリカ』と言ったところかしら」

 「ゾディアックだと?」

 「そう、とは言ってもレプリカだから、本来の武器とは違って意思を持っていないし、そもそも中に入れた精霊もゾディアックの器があるだけで、中身はすっからかんよ」

 「はあ?つまり、この刀は普通の刀と大して変わらないってことか?」

 「そうね、今のところは・・・だけど」

 「どういう事だ?」

 「これから、それの使い方を説明するわ。貴方がここから脱出したいのなら、絶対にそれを使わなければいけない時が来る」


 メデューサはそう言って、幼い顔に妖艶な笑みを浮かべた。



♢☆♢☆



 「んん・・・アレク?」

 「おう、起きたか。カナン」


 目を覚ましたカナンは自分が柔らかなベッドの上で眠っていることに違和感を覚えつつも、上半身を起こす。


 「カナン、どこまで覚えてる?」

 「ん?・・・そういえば、お前が風呂に入りたいだのなんだのと言った辺りから、記憶が曖昧だな」

 「そうか」

 「私はいつ寝てしまったんだ?」

 

 カナンが尋ねる。

 その表情は不安に揺れており、アレクの言葉を今か今かと待ちわびているようだ。


 そして、アレクは。


 「あの後、風呂入って、風呂上がりに寝たんだよ。温かいお湯に浸かって、気が抜けたんじゃないか?」


 息を吐くように、言い訳を考えていたかのように嘘を吐いた。


 カナンは淀みないその言葉を疑わず、ため息を吐く。


 「む、そうなのか。だが、まあ罠が無くて良かったよ・・・普通に風呂だったんだな。私は覚えてないが」

 「そうだな・・・折角安全も保証されたし、後でまた入ってみたらどうだ?」

 「ふふ、それもいいな。それはそれとして、この後はどうする?とりあえずは、もう少し探索してみるか?」

 「あー、その事なんだが」

 「?」

 「ちょっと付いてきてくれるか?」


 アレクがカナンを連れてきた場所は、彼女が寝かされていた場所の真下、二人が居た宿屋らしき建物の一階部分だった。


 「な、まさかこれって」

 「ああ、転移魔法陣だ」


 そこにあったのは強い輝きを放つ魔法陣だった。

 隠される訳でもなく、ただ床の上に存在している。


 「お前さんを運んでいるときに偶然見つけたんだ。だから、ここをどれだけ散策してみるかはカナン次第だな。俺はもう少しここで休んだり、外の森を回ってみてもいいと思うが」


 カナンは暫く考え込んでから、「そうだな」と呟き、


 「私もその考えに賛成だ、それに、風呂もちゃんと経験しておきたいしな」


 ウィンクしながら、楽しげにアレクの方に振り向いた。


♢☆♢☆


 

 本来の姿へと変わったカナンの背に乗り、赤い荒野を疾走する。


 「モンスター、やっぱ居ないな」

 「そうだな」


 ポツリと呟くカナンにアレクが答える、が、その声は何か別の事を考えているようだった。


 カナンはそれについて指摘するべきか一瞬迷って、辞めた。


 カナンとアレクは友ではあるが親友ではない。

 お互い晒していない部分は多いし、思った事を素直には伝えない。


 この距離感が嫌いなわけではない、が、もう少し詰めたいと思うのは自分だけだろうか。


 カナンがこれまで率先して戦闘を行ってきたのは、自分の方が戦闘力が高いからというのも勿論あるが、あの状況で、自分に手を貸してくれた事への感謝の気持ちも多分に含まれている。


 (もう少し、こちらから踏み込まなければな)


 カナンがそんな事を考えながら走っていると、アレクがカナンの背を叩く。


 「なんだ?」

 「森の中行ってみないか?流石に山を登る気にはならないだろう」

 「ん、そう・・・だな」


 アレクが飛び降りるのと同時にカナンは『人化ヒューマネーション』を使用する。


 「俺はいつになったらそれを使えるようになるのかね」

 「さあな、魔物になれたら、だろうとしか言いようが無い」

 「だよね」


 そんな事を喋りながら森の中に入ると、カナンは遺跡の中では久しく感じていなかった懐かしい感覚を覚えて、少しだけ嬉しくなる。


 その感覚は、どうやらアレクも覚えているようで、


 「んー、懐かしいな、森の中ってのはやっぱり落ち着くよ」


 言いながら、文字通り大きく羽を伸ばした。


 「アレクも森の中の集落などで生まれたのか?」

 「集落、というよりは母さんの趣味だったな、森の中の一軒家で暮らしてたんだ」

 「それはまた珍しい」

 

 モンスターが蔓延る世界に於いて、人里離れた場所での一人暮らし、というのは少なくともそれなりの強さが無ければ難しい。


 「そうだな、まあ、母さんめちゃくちゃ強かったからな」

 「と言いつつ、流石に今では超えただろう?」

 「いや、わからんな」

 「それほどか・・・」


 カナンが素で驚いたような声をだす。

 

 「まあ、子供だったからな。もしかしたら、実際にはそこまでかもしれないし、流石に昔過ぎて覚えてない部分も多いよ。でも、自慢の母さんだ」


 そんな風に付け足すアレク。

 

 「いい母なんだな」

 「ああ」

 「羨ましいよ・・・」


 最後の言葉はアレクに聞こえないように呟く。

 伝える必要のない事だったし、アレクにその事で同情されるつもりもない。


 家族の話はそのまま終わり、二人は暫く無言で進む。

 

 そして、二人で森の奥まで行くとそこには小さなお墓があった。

 名は刻まれておらず、小さな石を丁寧に積み上げられただけの簡素なお墓。


 その目の前にはガラスの瓶に入れられた白百合が入っており、花弁が風に揺れる。


 「墓、だよな」

 「そうだな」


 呟いてアレクは軽く手を合わせる。

 カナンもそれに続いて、頭を下げると、不思議そうにアレクに尋ねた。


 「突然どうしたんだ?知り合いの墓、というわけでもあるまい」

 「俺は結構信心深いんだよ・・・まあ、悪魔が祈る神が居るかは知らんけど」

 「そうなのか?まあ、その考えを否定するつもりはないが。私にはわからん感覚だな」

 「こういうのは人それぞれだから、いいんだよ。知らんけど」

 

 無論、アレクはそこまで敬遠な信徒ではない。

 こういうのをやってしまうのはただの性分だ。


 騒めく木々、穏やかに吹き抜けていく風、舞った青葉が二人の頭上を通り過ぎて空へと消える。


 眠っていたカナンには分からない事だが、ここは時間が進まない。

 どれほどの期間を過ごそうと頭上の日が落ちることも無いし、木が枯れることも、風に揺れる白百合が蕾を落とすことも無い。


 それがこの空間なのだ。


 メデューサと名乗った少女の記憶を抜き出して作られた空間。


 それを彼女から聞いたアレクは、その事をカナンには伝えていない。


 伝える必要はあった。


 それでも、アレクは何も話さない。

 

 話してしまえば、必然的にメデューサの事を語る必要があるし、そこまで話した以上、もう一つの事も話さなければいけなくなるから。

 

 「カナン、そろそろ戻ろう。風呂、入るんだろ?」

 「ん、そうだな。結局何も無かったしな」


 だから、アレクは何も語らない。

漸く物語も半分まで来ました。


残りの半分もこの駄文に付き合って頂けたら嬉しいです。

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