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『伏魔殿』


 「ここは本来存在しない場所なんだ」

 「存在しない?」

 「ん、厳密には私達がいた世界にはというべきだが」

 「ここは違う世界だと?」

 「そうだな、ただし、外に他の生命体がいる訳でも無ければ、そもそも私達が生きていられるかも不明だが」

 


 カナンの要領を得ない説明にアレクが唸ると、カナンもまた「私もよくわからないのだ」と、愚痴気味に呟いた。



 「ここの仕組みを詳しく知っている訳では無い。ただ、私が聞いたここの大雑把な説明は、世界のどこにでもあり、世界のどこにもなく、世界の裏側を無軌道に動き続ける何か、という事だ」

 「うーん?」

 「どう説明したものか・・・そうだ、鯨を知っているか?」

 「鯨、ああ、知ってるよ。海のでかいやつだろう?」

 「ああ、ここはそれと似たようなものだ」

 「もうちょい詳しく」

 「あれだ、ここを海の中として、陸上を私達の居た世界とでもいえばいいのか・・・えーとだな、鯨は基本的に海の中にいて、陸の上で暮らす私達は奴を見る事も出来なければ、触れる事も出来ないだろう?」



 ここで、魔法などで触れられるのでは無いか?と尋ねるのは野暮であると、流石のアレクでもわかるため、「そうだな」と肯定しておく。



 「ただ、鯨は時たま息を吸いに陸上に姿を見せるだろう?で、その時は私達は触れられるし、見る事も出来る」

 「ああ、そういうことか」



 そこまで聞いて、アレクもようやく話が飲み込めてきた。


 恐らく、この遺跡はカナンの言う所のもう一つの世界に存在しており、偶にアレク達の居た世界に姿を現わすということなのだろう。


 そして、アレクは自分がここに初めて来た時から抱えていた謎にようやく合点がいった。


 それは、ここに来た時点でどうしてアレクが死んでしまわなかったのか、という事だ。


 と、いうのも、アレクが罠に嵌められたのはアステルの上層部、もし、ここがアステルの57階層より下であるならば、落ちて来た時、そのまま落下死する筈だからである。


 恐らく、アレクが落ち始めた時、丁度アレクの落下地点に遺跡が出現し、そのまま取り込まれたのだろう。


 そこまで考えて、ふとアレクは呟く。



 「だったら、出るのは簡単なんじゃないのか?カナンなら遺跡の壁をぶち抜いて、この遺跡が向こう側に出たタイミングで出れるだろう?」

 


 カナンはそれを聞くと、首を振りながら否定した。



 「当然、私も試してみたよ。だが、外壁は私が本気で蹴ってみても砕けなかった」

 「な、だったら、どうやって出るんだ?入り口や出口が?」

 「いや、ここにそんなものはない。ただ、出る方法はある・・・それは、ここを創り出した『核』となるモンスターを殺す事だ」

 「『核』?」

 「そもそも、アレクはこんな所が自然に出来ると思うか?」



 質問を質問で返され、少々面を食らってしまうものの、アレクは「いや」と呟く。


 すると、カナンも軽く頷きながら、説明を続けた。



 「ここは元々、『伏魔殿パンデモニウム』と呼ばれる遺跡の一部だったんだ」

 「一部、だと?この馬鹿でかい遺跡が?」

 「そうだ、3000年前、神代の時代に存在したと言われる原初の遺跡、その一部、それがここだ」

 「信じがたい、が。確かにそう言われれば説明はつく・・・か」

 「まあ、そうだな。私も1ヶ月前に集落の外でドーレフの奴らと喧嘩してたら取り込まれたんだが、初めてここに来た時はびっくりしたよ。私が本気で怒鳴っても崩壊しないし、私が睨んでも死なないモンスターばかりだし・・・おっと、話がずれたな」



 そんなめちゃくちゃな事をしてたのか、と呆れたようにカナンを見るが、彼女はそんなアレクを気にした様子は無い。



 「そんな事はいいんだ。問題はその原初の遺跡がなんでこんなことになってるか、なんだが・・・私にも理屈はわからん、ただ、『伏魔殿パンデモニウム』に数匹居たやばい奴が、神代の終わり、『神々の黄昏ラグナロク』と同時に何らかの魔法を使って、この世界とは別の世界にここを隠してしまったという事だけは、私達の集落に伝えられている」

 「それは知らなかったな・・・」



 アレクの知らなかった、は『伏魔殿パンデモニウム』がそのようにして姿を消したという事ではなく、そもそも『伏魔殿パンデモニウム』という存在を知らなかったという意味合いだ。


 カナンはそれの意味合いを正しく理解してくれたようで、



 「当然だろう、これは『人族ヒューマン』の間では失われた歴史の話だからな」



 と続けた。

 失われた歴史の話、聞きなれない単語にアレクは、訝しげな表情を浮かべつつも、カナンに続きを促す。



 「『人族ヒューマン』は歴史を本来の形から随分と歪めて伝えている・・・というのはわかるか?」

 「そのくらいはな・・・」



 結構有名な話だ。

 一つの国でその生涯を終えていくのであれば、わかりはしないが、いくつかの国を渡っている人間ならば、自分の伝えられた歴史に矛盾が多い事に気づく。


 とはいえ、それを取り上げて問題にするような人間はあまりいない。


 正しい歴史など誰にも分からなかったからだ。


 ただ、どこも自分の国に都合がいいように歴史を伝えているということがわかるだけ。



 「私は間違った歴史とやらを知らないから、何ともいえないが・・・まあ、『伏魔殿パンデモニウム』は確実に無かったことにされるだろうな、事によっては『神々の黄昏ラグナロク』も」

 「『神々の黄昏ラグナロク』は知っている。一度、世界が終わったとかいうやつだろ?」

 


 『神々の黄昏ラグナロク』、3度の吹雪、『フィンブルヴェート』によりほぼ全ての生物が息絶えた後に行われた神々の戦いの名だ。


 太陽と月は消え去り、星々は崩れ落ちる。

 『炎神』スルトにより焼き尽くされ、海に沈んだ9の世界。


 聞けば聞くほどに御伽噺だと思ってしまうような話だ。


 だが、カナンは驚いたような表情をすると、感心したように頷いた。



 「殆ど完璧に伝えられている・・・君の街に興味が湧いたよ」

 「これが真実だっていうのか?」

 「ああ、私も体験した訳ではないが・・・この話を私達の集落に伝えたのは歴史の番人、『森妖精エルフ』だ。嘘ではないのだろう」

 


 その名前を出されてはアレクも信じないわけにはいかなかった。


 『森妖精エルフ』、彼らは不老の存在とされており、殺されない限りは死なないという特殊な種族だ。

 また、別名『歴史の番人』とされており、神代の生存種族として、歴史を正しい形で伝える事を使命としている。


 そして、その使命との関係上、自らの都合のいいように歴史を広めようとする『人族ヒューマン』とは関係が悪い。



 「まあ、それは信じるとしてもだ。俺が聞きたいのはもう一つ、『伏魔殿パンデモニウム』の方だ。何が原因で人間はこれを伝承しなくなったんだ?」

 「『伏魔殿パンデモニウム』が、伝承されなかった理由、それは単純、『人族ヒューマン』にとって、知られてしまうと都合が悪い物だからだ」

 「それくらいはわかる。その都合を教えて欲しいんだ」

 「そう急かすな。それに、『神々の黄昏ラグナロク』とは違って、これはあくまでも私の集落に伝わる伝承、抽象的な話になってしまうが文句は言うなよ?」

 


 やたらと前置きの長いカナン、アレクは別にそれでイライラする訳ではないが、何時ものカナンらしく無いというのは感じていた。



 「別に文句は言わないが、さっさと話してくれって感じだ」

 「情緒もクソも無いな。これから話すのはある意味、人の歴史を根本から覆す物なんだが・・・まあいい、実はな『伏魔殿パンデモニウム』というのは、かつての英雄、『12星将』が創り出した物なのだ」



 


 

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