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さらなる『進化』


 襲ってきた21のモンスターを30秒程で皆殺しにしたカナンは落ちている足などを拾って、少し齧ると、アレクの方にそれを投げ渡してきた。



 「直ぐに消えるからな、食える分だけ食っといた方がいい」

 「ソウダネ・・・」



 綺麗な女性の食べた物だが、それがオークの足だったり、骨の覗くウルフ・メレフの足だったりすると、全く嬉しくない。


 幸いにして、リッチとか言う萎びた人間の様なモンスターは食べる前に消失してくれたが、それでもアレクは気が進まなかった。



 (ウルフ・メレフって、辿るとカナンの祖先なんだよなぁ・・・)



 そもそも魔物の起源は共食いである為、それがどうということは無いのだが、人の姿をしているカナンがそれをしているとなると、少しショッキングだ。


 アレクは14匹程度のモンスターのカケラを齧って飲み込むと、身体の中から何かが湧き上がってくるのを感じた。



 「くっ・・・これは・・・」



 それは以前にも感じたことのある『進化』の感覚。


 本来、一匹目で感じる筈のそれが遅れたのは一気に取り込んだ為か。


 一瞬、余計な思考が頭の中に湧くが、それもすぐに『進化』時の激痛に飲まれていく。



 「ほう、これが『進化』か」



 興味深そうに呟くカナン、その間にもアレクの変容は続いていく。


 そしてーー



 「これが・・・俺の新しい姿か・・・」



 肩で息をし、荒い息を吐き出すアレクの身体は先程までよりも一回り大きい。


 先程は親子の様な身長差があったカナンとアレクだったが、今ではアレクの方が若干大きい程だ。


 全体的にかなり引き締まっており、厚い胸板、太い腕、見る限り、少年らしさというものは無くなった。

 尻尾はこれまでより少し長く、太くなった程度だが、背中に生えた翼は蝙蝠のような弱々しい物からドラゴンのような逞しいものになり、白磁よりもなお白い肌には黒い紋様が刺青のように広がっている。


 この姿、《メモリア》で確認を取るまでも無い。


 御伽噺や、英雄譚、吟遊詩人の歌、そのどれもで主人公と戦う定番のモンスター。

 悪魔系統モンスターの上位、『上位悪魔ディアボロス』だ。


 その姿を見たカナンは「ほお」と呟きながら近づいてくると、羽を触ったり、胸筋を突いたり、アレクの身体の至る部分を触ってから、顎に手を当てて、唸る。



 「うーん?」

 「どうかしたのか?」

 「いや、凄い強くなったのはわかる・・・んだが、もしかしなくても、これはまだ魔物じゃないよな?」

 「まあ、そうだな」



 そう、魔物というのは通常モンスターの変異種、この『上位悪魔ディアボロス』という種族は存在する数が少ない他、物語でも話している姿を書かれることが多いため勘違いされやすいが、魔物ではない。

 

 強さ的に見てしまえば、恐らく並大抵の魔物よりは強い『上位悪魔ディアボロス』だが、アレクにとって魔物になるということは、強さ以上に重要な目的がある。


 というのも、魔物になれば《人化ヒューマネーション》、人に擬態する『スキル』が使えるようになるからだ。


 最初は復讐ばかりに意識が向きすぎてあまり考えていなかったが、カナンと話しているうちにアレクは、復讐を終えた後、どうするのかを思い始めるようになった。


 アレクは人に戻るのが最善、だとは思わない。


 冒険者なんて荒事をやっている以上、より強さを持つのは大事な事だからだ。


 とはいえ、モンスターのままでは『アイプリル』に戻っても即座に討伐対象になる。

 

 じゃあ、世捨て人か。などとアレクが呟いていると、カナンから伝えられたのが《人化ヒューマネーション》だ。


 カナン曰く、魔物でこの『スキル』を持っていない者は居ないらしく、その精度はカナンの姿を見ても明らか。


 という事で、アレクの当面の目標は魔物になる事になったのである。



 「魔物への『進化』、何か特別な条件があるのか?」



 ポツリと呟くアレク。

 『進化』の定義も魔物への変貌も、人間達の間では、よくわからない、というのが定説になっている。


 現状、魔物への道が強さの果てにあるとは思えない。


 となると、特殊な条件を満たした時なのだが、カナンは産まれた時から魔物だったというし、アレクは言わずもがな、何もわからないのだ。



 「まあ、それでも今はもっと強くなっていくしかない。少なくとも魔物とは『進化』の形の一つなのだから」

 「そう・・・だな」



 結局そこに落ち着くのだ。

 それに、強さの果てと言ったって、悪魔系統の『進化』上、『上位悪魔ディアボロス』はまだ、上から7番目だ。

 実際、『上位悪魔ディアボロス』がここのモンスターよりも強いか?と聞かれたら、返答はかなり迷う。


 『中位悪魔デーモン』だった時に、ミノタウロスを倒せたのは、アレクに知性があり、なおかつ『斥候レンジャー』による敏捷補正があったためだ。


 素でやれば、弱点も付けず、そもそも敏捷が並ぶ程度のスペックしか持たない『中位悪魔デーモン』では、ダメージを通すことすら叶わないだろう。


 とはいえ、人間の基準では『中位悪魔デーモン』ですら、かなり強いモンスターに分類されるが。



 「じゃあ、次なる『進化』を目指して、頑張ろう」

 「ああ・・・とはいえ、まずは階層を変えないとな」

 「え?」



 張り切るカナンにアレクがそう呟くと、彼女は心底不思議そうな顔で振り返った。


 やはり、知らなかったのか、と嘆息しつつ、アレクは呆れ気味に口を開く。



 「あんな一斉に殺したんだ。殆どモンスターは残って居ない。それともここの階層のモンスターが湧き直すまで待つのか?」



 遺跡内に、モンスターはわんさかいるという訳ではない。

 階層の『主』は24時間に1回、通常のモンスターは4時間に1回のペースで湧くが、『主』は1匹、通常モンスターはその階層の広さに応じて、というように最大数というものが決まっている。


 そして、21匹というのはかなり広い遺跡でもそうそう見られる数じゃない。


 アレクが歩き回ってみた感じ、この階層はこれまでアレクが見てきた中だと2番目に広いが、1番広い場所だって24匹しか居なかったのだ。

 恐らく、ここのモンスターを殆ど皆殺しにしてしまったとみて間違いない。


 

 「しょうがない・・・階層を変えようか」



 実を言うとまだ『主』を倒していないのだが、この広い空間をたった1匹のために歩き回るのは苦痛でしかない。



 「そうだな」



 そのため、アレクはカナンの提案を肯定した。



♢☆♢☆



 実はこの階層において、アレクは既に転移用の魔法陣の位置を知っている。

 カナンと出会う前、遺跡内を散策しているうちに見つけたのだ。


 だが、魔法陣というのはあまり使用したいものではない。


 そのため、アレクは魔法陣を見つけたという事を伝えた上で階段を探さないか?


 と、提案してみたのだが・・・



 「いや、それは無駄足だろう」



 カナンはバッサリとその案を切り捨てた。

 野蛮な一面を見せつけられたとはいえ、これまでの付き合いでカナンが、なんの考えも無しに人の案を却下するような魔物ではないと、理解していたアレクは念のため、理由を尋ねる。



 「何か知ってるのか?」

 「ああ、そういえばアレクにこの遺跡について何も教えていなかったな・・・ちょうどいい機会だし、ここがどういった場所なのか教えるとしようか」

 

 


 

 

 


 


 

 

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