第9話 兄貴と援交現場
「……こ、今回の敵はあいつか?」
月曜日の夜。
学校終わりで疲れている中。嫌でも外へ行かなくてはならなかった。
「結城さん! 今日は敵を倒さないんですか?」
突然、スマホから声が聞こえる。
あぁ。学校終わりで疲れてるから面倒だな……。
それが本音だった。まぁ、妹のコスは確かに萌え……いや、かっこいいけど。
「……今日も倒さなきゃダメか?」
「えぇ、一応。早めに倒さないと人に寄生してしまうかもしれないので」
「……絶対?」
「できれば……」
「あぁ、分かったよ! 行くってば!」
てなわけで、俺は妹とレーダーの反応がある家から数分の町外れの公園。
『上北公園』へと向かっていた。
「ふぁー、夜だから暗いな」
「だねー」
街灯はピカンピカンと点灯を繰り返していた。
危ねぇなぁ……。何やってるんだ、うちの市長は。
そんな不満を抱える。
しばらくすると、公園へと到着した。
「よしっ。ここ辺りだな」
「ん、兄貴どこら辺?」
「まぁ、待てって」
俺はレーダーの反応を確認する。
……どこだ?
反応の方に近付いていき、場所を特定した。
……どばーっと脇の辺りから汗が出る。
場所は分かる。うん。だけどさ、俺が妹に「ここだぜーっ!」なんて言ったら「キモ! うわ!」って言われそうなんだよなー。
そう、反応のあった場所は北上公園男子トイレだったのだ。
……ったく、いい迷惑だぜ!
「兄貴、なんで立ち止まってんの?」
「いや、反応があるのはここの男子トイレなんだ」
「キーーーーーモッ! うわぁ!!」
「予想以上の反応を!?」
「何言ってんだ、こいつ」
「あっ、すみません」
「で、何? 私を男子トイレに引きずりこむの?」
「言い方! そうだけれど!!」
「ていうか、兄貴だけが入っていけばいいんじゃないの?」
「あっ! そうか!」
「絶対、セクハラしたかっただけじゃん……」
「ちーがーうから! じゃあ、行ってくるぞ!」
あれ……敵が近くなったら妹はスマホ内に行くはずなんだけどな? いつもとは違うことに少しだけ不安を覚えたが、あまり気にしないでおくことにした。
俺は一人暗い男子トイレに入る。
そして、モヤモヤのようなものをタップする。すると……。
トイレの奥の扉から『しくしく』と泣く女性のような声がした。
怖っ……! よくあるやつやん……。
俺は恐る恐る扉に手をかける。
「兄貴ー! ま……」
「ぎゃあああ!」
俺は妹による後ろからの声に過激反応してしまう。
仕方ないだろ! 大体なんだよ、これ!
「ぷっ。兄貴だっさ!」
「女性の泣き声みたいなのが……」
と、説明しようと思ったがまぁいい。そんなことよりモヤモヤだ。俺はドアノブを一気に引く。
すると、俺もヒートアップする。
何故かって? そこにいたのはモンスターでも何でもない。
それは『女性』だったからだ。
女性だけだったら俺はこんなに驚かない。いや、男子トイレにいたら驚くけど。
なんと、その女性は全裸だったのだ……! しかも、女性器を強調させるようにして待機している。
こんなおかしい文章があってたまるか。いやいやいや! なにこれ? 援交現場!? 肉便器?! なに? じゃあ、なんでモヤモヤしてたの?!
援交現場って、女性は全裸で待ってるもんなの?! そうなの!? ねぇ!!
もう色々と訳が分からず頭が痛くなってくる。
「兄貴ー! どんな感じ? もしかして私の意識が無いだけで、もう終わっちゃってる?!」
「……」
俺は目の前にいる全裸の彼女を見て呆然としていた。
黒く、とても綺麗な長髪が発展途中という言葉が似合いそうな胸へとかかっている。
そして、綺麗なマンゴー。俺はこれにぶち込めば童貞を卒業出来る。
もう、自分でも訳の分からない思考と尋常じゃない程の勃起をしていた。
「兄貴ー!」
「……っ!」
そうだ……。可愛い妹が近くにいる前で卒業なんて出来るわけないだろ……!!
「ど、ど、どうしたんだー? 妹よ」
「こっちのセリフだよ! 何、なんなの? 焦らしてんの? 敵いるならさっさとしてよー」
これは、変に隠さず妹にさっさと言った方がいいのではないか? でも、全裸の女だぞ?
助けて、ドラえもん!! と今にも泣きそうな時。俺の脳内に直接語りかけるようにAIの声が聞こえる。
『まったく……。さんは変態ですね』
くっ……。
反論出来ねぇ。だけど、どうすればいんだよ!
『私が来たってことは……分かりますよね?』
「ん??」
『はぁ……。つまり、そこの目の前にいる女の子。彼女が取り憑かれてるってことです』
「……つまり、これは援交現場じゃないってことだな」
『そうなりますね』
俺はその言葉を聞いた瞬間、声を上げる。
「さぁ、妹よ! 敵はいない! トイレに入ってくるがいい! ふははははは!!」
「えっ……。あ、うん!?!? きもっ!!」
やべっ。やらかした!
やばいやばいやばい! 仕方ないだろ!? 援交現場じゃない! って、思ったらなんだか気分がスッキリしたんだよ!! いやいや! それもおかしいけれど!
『はぁ……。まったく、私は援交現場じゃない。と、話しただけでこの人が人間じゃないなんて一言も言ってませんよ??』
「てことは……人なの!?」
『まぁ、そうなんですけど……。この人の意思ではないっていうか、なんというか……。あの、話しましたよね、モンスターが人に取り付くことがあるって。えーっと、それです』
「取り付いてんの!? 驚くことがいっぱいなんだけど、これはどうやって倒せばいいんだ?!」
『これがですね、かなり面倒で。まず、話をして心からモンスターを見事に出さないといけないんですよ』
「なんだ、それ。ペルソナみたいだな」
『ペルソナ……? まぁ、いいですけど。とりあえず、その人と話してモンスターを出せってことです!』
「お、おう」
トントン
俺は裸の彼女の肩を叩く。
「あのー……。何でこんなことしてるんですか?」
「遂にっ……! 来たァ!! 援交? 援交ですか!?」
すると、彼女は俺にアピールするように胸を強調する。残念ながら……それほど大きくはないが。
「いや、違う。こんなことやってるって知られたら大変だぞー……って、こんなのでいいのかな?」
「脅迫?! 脅迫ですか? くぅっ……!! 興奮っする! 薬をキメられるんですね? 違法なことを!? ふふ!!」
「何故そうなった!? 馬鹿か、お前は!!」
「馬鹿……馬鹿……馬鹿って……どいつもこいつも!! 死にやがれ!!!!」
すると彼女のエッチな体は急変。局部付近から、獣のような毛か徐々に生え始める。
「おいおいおい……。これ、やばくないか!?」
俺はその場に尻もちをつく。くっそ……汚ぇ。
『汚いとかそんなこと考えている場合じゃないです!! 早く倒さないと、このサイズのモンスターは町中で暴れ出しますよ!?』
「やべぇじゃん! なら、この覚醒前に倒さねぇと!!」
『そうですよ! 早く妹様を』
「おい、でも、だったら何故妹はスマホに入ってねぇんだよ!」
『まだ、このシステムが敵と認知してないからです! この状態の時は妹様にスマホをかざさないといけません!!』
あれは敵と認知した時に起きていたんだな……。
「妹ぉ!! トイレに入って来い!!」
「きっも!! さっきから私を置いて誰かとブツブツブツブツブツ話してると思ったら! 今度は何!? トイレ? そんなのエロ同人みたいにズボズボされるに決まってんじゃん! ゴミ兄貴!! 死ね!」
こいつの想像力やば過ぎない!?
ていうか、俺が昨日読んだエロ同人みたいな展開やめろ!! あれ……? 昨日見たよな!?
『エロ同人? とかいうのはどうでもいいですから! 早くしないと色々やばいです!』
「なら、お前が説得しろよ!」
『ごめんなさい……女の子と2人でコミュニケーションを取るというのは……』
「陰キャか!」
『あなたに言われ……いいから、早くお願いします!!』
「妹! しっかりと聞け! 今お前が来て覚醒中に倒さないと獣が暴れ始める!」
「何言ってんの?! 変態?! 死ね!」
「獣は男で覚醒はそういう意味じゃねぇよ! 早く来い!!」
そんなやり取りを俺らがわんわんやっていると……。
ビキバキッ
と、服が入らなくなっていかにもはち切れそうになっている感じの音が聞こえる。
「私を置いて何イチャイチャしてんだぁぁああ!!」
次の瞬間、トイレの天井は壊され推定8mサイズの二足歩行の狼のような化け物が俺の前に現れた。