第6話 妹と天龍
「お、ここでいいのか?」
ピンの刺された位置(人気の無い路地裏の自販機の前)まで来たと思うので、確認を取る。
「はい。ここで大丈夫です。そのモンスターをタップしてみてください。タップすると敵が現れますので気を付けて……!」
俺はスマホに現れているモヤモヤの何かをタップする。
すると……。
現実に、可愛いうさぎのぬいぐるみのようなモンスターが現れた。
だが、左手に持っている出刃包丁がそれとなく怖さを見せている。
「……ニヒヒヒ。俺様を倒そうっていうのかぁ?」
どうやら、見た目と言動、声のトーンは全く違うらしい。
そんな戦いまくったプロレスラーの様な声を出され、尚且つ、出刃包丁なんて持っていたら、誰しもがこうするだろう。
「ごめんなさい」
そんな当然な事をしたはずの俺にツッコミが入る。
「お兄様!? 色々とダメですよ?! 妹様も帰ってきませんよ?!」
「あ、妹が帰ってこないんだ。俺はお前を倒す!」
その言葉で戦闘態勢に入ったのか、うさぎのぬいぐるみもどきの上に緑色の線。体力ゲージと名前が現れる。
名前は『天龍※出刃の姿』らしい。
怒られんぞっ!?
俺は脳内でしっかりとツッコミを入れる。
「こいつは力が強いモンスターです。気を付けてください!」
いや、色々と強いだろ! 耐久性だってあるに違いない。
それに対して、運動もろくにしてない、ひょろひょろの妹が勝てるわけない。
終わりだ。妹はここで死ぬ。
「おい、妹死ぬんじゃないのか!? まず、勝てるわけないだろ!」
「大丈夫かと……。妹様の力なら、まず勝てます。能力は現実世界と比にならないので」
「そ、そうか? なら、いくぞ!!」
スマホに写っている妹をタップする。
すると、この前と同じコスをした妹が飛び出すように現れた。
キラン! と剣をぬいぐるみに向ける。
俺は、すぐさま『こうげき』を選択する。
すると、妹は相手に急接近し、スナップをかけるようにしているのか、剣の速さに磨きがかかる。
「速い……!」
ぬいぐるみは道路の方へ吹っ飛んだ。
こういうのって、斬れるはずが飛んでいくから面白いよなぁ。
「おまぇ、ぶっごろすぅ!!」
天龍さん、勘弁してください。
顔面崩壊しますんで。
ぬいぐるみは出刃包丁を持って激走しながら、妹の前で斧のように振り下ろす。
やばい……!
だが、妹はそれを何事も無いように盾で弾いた。
妹の頭上には2という数字だけが書かれている。
2って……。少しダメージが効いた時のメタルスライムかな?
「ほらね。妹さん。強いでしょ?」
「そうですね……?」
「それじゃあ、とどめを刺して下さい!」
俺はこうげきを選択する。
すると、妹は飛び出すように斬りかかり、天龍はぐったりするように倒れた。
「お見事ですー! スマホの画面を確認してみてください」
確認すると、そこにはゲーム内のコインと素材が落ちたという連絡がされていた。
そして、更に……。
「妹さんのレベルが上がりましたね!! 好きなところにスキルポイントを振ってください」
上から、ずらーっとスキルが表示される。
ドラクエの上位互換みたいなスキルの多さだ。ドラクエファンの皆さん。ごめんなさい。
「これって、後で振ってもいいのか? 妹とも話し合ってみたいし」
「もちろんです。スキルポイントは後でも大丈夫ですよ。落ちた素材やらは武器や防具を作るのに使用してください」
「分かった。じゃあ、妹を戻しても大丈夫だな」
「ええ。大丈夫ですよ。ここら周辺は敵もまだ少ないので一日一体敵を倒してもらえれば充分だと思います。それでは私はここで……。大事な時にだけ、また現れますね」
すると、声は途絶え妹が現実世界に戻ってきた。
「お疲れ様」
「お疲れ……? 私、あんまり感覚ないんだよねー」
「あぁ、そうらしいな。めちゃめちゃイケメンだったぞ」
「さすが私!! どんな感じだった?」
「んー、そうだな。ザシュ! バァン! キン! みたいな?」
「分かりづらいー!」
と、妹が顔を膨らませる。
そして、俺に顔を近づけジト目で睨む。
……可愛くなんてない。そうだ、そうだ。惑わされるな。こいつの性格はゴミクズだ。
「まぁ、かっこよかったってこと! これでいいか?」
「……仕方ないから許してあげる! 妹の優しさに感謝しなさい!」
「ははー。ありがとうございます。妹サマー!」
「よろしい!」
すると、妹は満足そうな顔をして家に向かった。
俺はそんな妹の背を見て、微笑んだあと急いで後を追った。