第3話 妹とコスプレ
「な、何だ!? 気持ち悪っ!!」
俺は黒く染まった床を見て思ったことを口にする。
妹も同じ事を思っているのか、俺の後ろで鳴り響いていた悲鳴がまるっきり無くなる。
そして、俺のスマホに通知音が鳴り響く。
あぁ!! もう、こんな時に何なんだよ!
スマホをチラッと確認すると、先程開かれたカメラの謎アプリが開かれていた。
「ソレデテキヲカクニンデキルハズデス」
「は、はぁ?! 意味分からん事言うなよ!!」
「イイカラハヤク」
「いや、酷いな!! マジクソゲーだ! なぁ、妹!!」
と、同意を得ようとするが妹の声は一切聞こえてこない。
「妹? おい、妹?!」
「イモウトナンテイイカラ、ハヤクタタカエ。カメラデテキヲニンチシロ」
「ふざけんな!! 妹は俺の大事な家族なんだぞ?! シスコンとは言われたくないが、あれで結構可愛かったりするんだぞ?! ふざけんな!!!!」
すると、Siriのような機械音は突然厳つい男性のような声を出す。
「早くかざせ! お前の妹はどこにも行ったりしていない!」
俺は反論したかったが、したところで埒が明かないので大人しくスマホで周囲を確認する。
「クソ野郎がァ!!」
すると、そこからは小人のようなやつ。このゲームのゴブリンと呼ばれているモンスターが剣をキラリと輝かせて、こちらを睨んでいた。
妖怪ウォッチか! とツッコミたかったがそれどころではなかった。
次の瞬間。剣を構えたゴブリンは俺の方へ斬りかかってきていたのだ。
俺はその攻撃を死にものぐるいで避ける。
すると、LEDに反射しキラリと光っていた剣は佐藤家の床に突き刺さる。
何これ?!?! ヤバない!?!? 精神科!? はぁ!! え?!?!
色々と頭が追い付かなくなる。俺もゲーム中毒になって幻覚が見えてきたのかな……。と、心底怖くなる。
「トリアエズオチツケ」
「お、お、お、おう?」
「モウイチド、スマホヲミテミロ」
俺がスマホの画面を見ると、そのゲームの対戦画面が映っていた。
それは、いたってシンプルなRPGのゲームなのだが……。
「は? は?」
「ほら、いつも通りタップしてみろ」
「いや、待てよ。これって……」
「オマエノイモウトダ……。ソレガドウシタ」
「どうしたじゃねぇよ!! ふざけんな! スマホの画面に閉じ込めやがったのか?!」
「いいから早く押せ!」
すると、ゴブリンが後ろでニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
「ぁぁあ! もう。何なんだよ!」
俺はスマホ中央のキャラクター(妹)をタップする。
すると……。
俺の妹が目の前にワープしたかのように現れた。
安易に作られたプラスチックのような剣を持っている。
黒く、ボサボサっとした髪が後ろで結ばれていてポニーテールになっている。
衣装は大事なところは隠しつつも、オヘソが出たりしていて可愛い。
さっきのだらーんとは大違いの明るい女子! 理想の女子! みたいな感じだった。
だが、それよりも妹が戻ってきたことが嬉しかった。
「妹ぉ!! 大丈夫だったかぁ!?」
俺は妹へ飛び付くように抱きつく。
すると、妹は顔を真っ赤にし、俺の顔面を本気ストレートでぶん殴った。
俺の体は宙を浮き、床に叩きつけられる。
「グハッ!! いってぇなあ!! 何すんだ!!」
「気持ち悪いんだよ! シスコン! ……ってか、この格好何!? キモ! 寝てる間にコスプレさせるとかドン引きなんだけど!!」
この喧嘩へ間に入るようにAIが大声を出す。
「早くしないと死にますよ!?」
「「るせぇ! てめぇが巻き込んだんだろ!」」
「初期装備のコスプレは嬉しいけど……」
「てめぇは嬉しそうにしてんじゃねぇよ!!」
「いいから早く! ……って、あれ? あのー……男性さん? スマホの画面を確認してもらってもいいですか?」
「あ、えぇ、おう?」
その画面見ると、敵の頭上に『魅了』と書かれていた。
妹が魅了させたってことか?
「魅了になってるぞ」
「そうでしたか。よく見れば相手のゴブリンの目がハートになってますもんね」
「マジ!? 私って、やっばり可愛い?! きゃは! 見たか、兄貴!!」
「はいはい。可愛いよ」
「嫉妬しちゃってー! 兄貴はイケメンじゃないもんねー!」
「るせ! 関係ねーだろ!!」
すると、そこへ間に入るような怒鳴り声をAIが出す。
「今のうちに、さっさと敵を倒せ!!」
「えっ、あっ……はい?」
こいつなんなんだ? 二重人格か何かか? いや三重? 怖いんだけど!
「あっ、ごめんなさい。男性さん。いつも通り、そのゲームをするように敵を倒してください」
「……」
妹が傷ついてしまうのではないのかと不安になり、どうするか悩むも、考えたところで意味が無いので操作を進める。
「『攻撃』『スラッシュ』」
すると、妹は突然動き出しゴブリンに斬りかかった。
その一撃はゴブリンにクリーンヒット、膝を付きその場に倒れ込み、黒く染まった床と同化するように消えてしまった。
妹の力強っ!
「オツカレサマデス」
そう言うと、妹のコスは普段のだらしない格好に戻され、部屋の床の黒さも綺麗になくなる。
ただ、床に刺された傷跡だけは残っていた。
「……何、私がたおしたの?! 強っ!!」
妹が倒したことに気づいていない……? ま、まぁいいか。
「力凄いな……」
「もう一発入れてやろうか」
「やめてください」
俺達がそんな話をしているとAIがコホンと咳払いをする。
『キミタチニヤッテホシイコトガアルンダ』