第2話 妹とデータ
俺は夢でも見ていたのだろうか。何か嫌な物を見てしまったのだろうか。
「何だ……? ……今のは?」
「ん、分かんないけど、楽しそうじゃん!!」
「何、呑気なこと言ってんだ? もし、今のが夢やら嘘やらじゃないんなら、何か分からないことに巻き込まれてんだぞ?」
「分かんないけど、楽しそうだからいーじゃん! さ、早く買いに行こう!」
と、手首を掴まれ引っ張られていく。
こいつ、何でこんなに呑気でいられるんだよ。
ドッキリとかにしては、スケールが大きすぎる。って思わないのか?
俺はずっと考え事をしていると、気が付けばコンビニに到着していた。
そこで、iTunesを購入した後は妹のゲーム話を聞かされ家へ帰った。
家へ到着した後、二人でソファーに寄りかかる。
「ガーチャ! ガーチャ!」
「……おいおい。さっきの事は気にしてないのか??」
「ん? 二人で悪い夢を見ただけでしょー!」
「は? 何言ってんだ、お前」
「つまんない話はいいから、早く回そうよー!」
「……はぁ」
俺はiTunesに示されたバーコードを読み込み、アプリを開く。
「……あれ?」
普段はゲームのホーム画面が出るのだが、カメラアプリのようなものが開かれる。
「はよ、ゲーム開け!」
「いや……。開いたはずなんだが……」
俺はホームに戻り、もう一度アプリを開くが先程と同じカメラアプリが開かれる。
怖いな……。あんな出来事もあったからな。と、俺は冷静に考える。
そんな俺を冷たい目で妹は見つめたかと思えば……。
「からかってんの?」
と、ふざけたことを抜かしやがった。
そんなことする意味無いわ。
「違うから!」
すると、妹は突然何かを思いついたのか「にひひ」と笑い出す。
「な、何だよ。気持ち悪っ……」
「いや、兄ちゃんは馬鹿だから開き方も分からないのかなーって!」
と、得意気な顔でスマホを見せつける妹。
我の妹ながら、恥ずかしい。その程度の事で得意気になり、しかも、単純なことでドヤってくる。
「分かるか……」
と、俺が否定しようとした瞬間。俺に悲劇が訪れた。
「びぎゃぁぁぁあぁあぁあぁ!!!!」
突然の妹の悲鳴。
耳がとてつもなく痛い。鼓膜が破れたようだった。
モンスターハンターのモンスターが隣で吠えたら、こんな感じなのだろうか。
『イモウトブロス』。新種のモンスターで出てきそうだ。
それはそうと、妹は何故叫び出したのだろうか。
「ど、どうしたんだ? 佐藤 美優君。いきなり大声出して」
「セーブデータ消えたら、ゲーマー生活終わりナリ……って、変なノリをさせるな!! しかも、中途半端だし!! クソ兄貴! データ消しやがっただろ!!」
「はぁ!?!? 知らねぇよ! お前のデータなんて!!」
「何か、初期画面になってるんですけど!! ぶぎゃぁあ!!」
言葉にならないような言葉で吠え始める妹。
こめかみを抑える俺。
そこへ間を指すように、突然、どこからか声が聞こえ始めた。
「ナマエヲニュウリョクシテクダサイ」
それはゲームを始めるため、名前入力をする際の声。
「くそがぁ!!!! 煽ってんの?!」
「お、落ち着け!」
「クソガァ!!!! アオッテンノ?! デ、ヨロシイデスカ?」
あれ……? このゲームに音声認識なんてあったか?
いや、無いはずだ。自分だって、このゲームをしているから分かる。
「ムカつくっ!! ふざけんな! 運営死ね!」
「ムカツクッ!! フザケンナ! ウンエイシネ! デ、ヨロシイデスカ?」
「はぁ?? 舐めてんのか、糞運営がぁ!!」
「ハァ?? ナメテンノカ、クソウンエイガァ!! デ、ヨロシイデスカ?」
すると、今度は謎の言語を涙ながらに叫び出す妹。
ダメだ。埒が明かない。こんな意味の分からない状況を説明して貰うには、まず、名前入力をさっさと終わらせた方が良いだろう。
名前ねぇ……。
やけに落ち着いていた俺は真剣に名前を考え始める。
今、このゲームをしている時のユーザー名もかなり考えたものだ。
まぁ、結局、何も思いつかなかったから夕飯の『エビフライ』にしたんだけれども。
……だったら、考える必要も無いか。早く妹を落ち着かせたいしな。早くしないと、マジで『イモウトブロス』の吠えるで死ぬ。
そして、俺は机の上に置いてあった『たまごボーロ』に目を付ける。
「ドゥルルルル! キエエエェ!! デ、ヨロシイデスカ?」
更に叫び出す妹の声を遮り、俺は言葉を発する。
「いいえ、違います。たまごボーロでお願いします」
「ナマエニュウリョクガカンリョウシマシタ。たまごボーロサン。セカイノキキヲスクッテクダサイ……!」
そんな声が聞こえたかと思えば、家の床がだんだんと黒く染まっていった。