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7 上司からの呼び出しは絶対か

 

 多少の疑問はありつつももふもふと食事を続けていれば、ルールーが話題を変えてきた。


「ねえねえ、アウラは仕事場決まった? あたしは洗濯場! 力仕事が良いだろうって! ほらほら、ブローチもらったんだ!」


 自慢げに胸を張った彼女の胸元には、青い石がはまったブローチが留められている。

 その石からかすかに感じる魔力はもしや。


「それって魔結晶(まけっしょう)!?」

「そだよー。これでルールーでもお城の中を歩けるし、人型をとることができるのです」


 得意そうなルールーだったけれども、あたしの驚きは冷めない。


 魔結晶は魔道具を使うためには欠かせないものだ。

 教会ではその奇跡の力で、民間に魔結晶を供給しているけれど、それだってたくさんは手に入らない。


 そもそも教会に頼らないように手に入れようとしたら、魔力の濃い土地から採掘するか、強力な魔獣を倒すしかない。

 どの手段もとても危険で、アイツベルはもちろん、どの国でも入手に頭を悩ませている代物なのだ。

 そんな石をほいほい一介の使用人に渡すなんてどう言うつもりなのだろう。


 もしや賄賂か。懐柔のための一手か!?


「フェリはね、医務班なんだって。薬剤の調合が得意だからって!」

「あ、う、うん……」


 どこか気まずそうにうつむくフェリの胸元にも、石は緑色だが同じものがつけられていた。

 そういえば、と食堂内を見渡せば、男女も種族も問わず、胸元にブローチがある。


 たぶんそれが職場を示す印なんだろう。

 むろん、あたしにはない。


 魔結晶に驚いたのもそうだけど、すでに同期で入った彼女たちは職場が決まっているのにあたしは解雇寸前だと言うことだ。


 そうか、あたし、同期に負けたのか……。

 地味に落ち込んだ。


「ルールー、アウラさんは決まっていないみたいって、お話し、したでしょ」

「あ、そーだった! アウラすごいもんね! 一発で硝子をぜんぶ割ったり、はくだけで火をつけられたり、すごかった!」

「ルールー!?」


 フェリが驚きの声を上げる中、一切悪気なくとどめを刺してくるルールーにあたしは撃沈した。


 人間の細やかさってなんなんだろうな……。

 まともにメイドができていると思っていたあたしは何だったのだろう。


「き、きっとアウラさんにもできる仕事がありますよ」

「レブラントさんに怪我をさせちゃったから、完全に嫌われただろうし」


 フェリがなぜかなぐさめるような声をかけてくれたけれども、あたしは力なく首を横に振った。


 仕事ができない人間は、即座に解雇されるのが常識だ。

 だって、使用人はいくらでも替えが効くからそこまで面倒を見る必要はないんだもの。

 主だけでなく上司の不評を買えば簡単に首を切られる。


 けれどあたしはこの魔王城にいる必要があるわけで、そうすると、何もさせないまま飼い殺しってこともありうるのかもしれない。

 むしろ形ばかりのメイド雇用を解除して、捕虜として牢屋に入れられる可能性もあり得る。


 ごめんなさい、姫様、あたしは今更駄メイドだと気づきました。

 落ち込みつつも煮込み料理をぱくついていたのだけど。


 あたしは右手を押さえた。

 さわりとうごめくような感触。あの魔王紋とか言う入れ墨だ。

 こんなの初めてだったけど、直感的にわかった。


 やつがいる。いや、来る。


「どうしまし……っ!?」


 急に顔を上げたあたしをフェリが不思議そうにのぞき込んだとき。

 食堂内の空気が変わった。


「アウラ――!!!」


 空中に魔法陣が現れたかと思ったら、そこから出てきたのはあのへたれ魔王シリウスだ。


 空間転移なんて、アイツベルでも一人で使える魔道士は数えるほどしかいないのに平然と使いやがってこの魔王!


 シリウスはあの竜頭じゃなくて、頭に角が生えた銀色の髪の野郎顔だった。にもかかわらず、とたんに食堂内の魔力濃度が急激に上がる。


 食堂内が一気に騒然とした。


「きゅう」


 魔力に充てられたのか、騒ぐ前にルールーをはじめとする何人かがばたばた倒れていった。


「魔王様がいらしたぞー!!」

「倒れているやつを早く外に出せっ」


 魔族たちは、敬う気もちとかよりも生命の危機を覚えているようで、大慌てで避難を始めていた。

 どうやら、本当にこの魔力は強すぎるらしい。あたし全然大丈夫なんだけど。


「ま、魔王様……」


 かろうじて起きているフェリも、今にも卒倒しそうだ。

 そもそも、あたしを気安く呼ぶなって言ったつもりだったんだけど!


 あたしは憤然と立ち上がると、食堂の通路に降り立ったシリウスへ文句を言おうとした。


「ちょっとあんたね……」

「アウラ会いたかったよ。ごめん、今すぐ君が必要なんだっ」

「はあっ!?」


 シリウスの必死な表情に虚を突かれていれば、訳がわからないまま、抱き込まれた。

 背後できゃあっ、と言う声が聞こえた気がしたが、あたしは反射的に腕をとってぶん投げかける。


 だけどその前に魔法が編まれる独特の気配がして、転移の光に飲み込まれたのだった。






 *






「うぐへっ!!!」


 魔王が床に叩き付けられた声が響いた後で、あたしは周囲を素早く確認した。


 そこは食堂ではなく、どこか静謐さと雑多さが同居した部屋だった。

 あたしたち以外に人の気配はなく、壁一面には本棚が作り付けられ、びっしりと本が並んでいた。

 それが吹き抜けになっている天井近くまで続き、壁には回廊が取り付けられている。


 中央には様々な形の長いすやいすが大量のクッションとともに置かれ、そのそばには開きっぱなしの本が積み上げられていた。


 さらに床には遊びさしと思われるゲーム盤が転がり、端に置かれた机にはのみさしと思われるカップや大量の紙やペンが転がっているというとっちらかりぷりだった。


 ただ、白い敷布が敷かれた部分だけはきれいに片付いているのが不思議だけど。


「あああ頭に響くうううぅぅ……」


 そんな中でシリウスは痛みをこらえて床にごろごろ転がっていた。


 ついやってしまったけど、いきなり暴力を振るうような不良メイドだと思われては困る。

 一応は雇い主なんだし。


「申し訳ありません、いきなり距離を詰められたので、反射的に迎撃してしまいました」

「君の反射が怖いよ!?」


 起き上がったシリウスの顔が恐怖に引きつっているのは何でだろう、と思ったら、あたしは手にかんざし型の暗器を構えていた。


 無意識のうちに止め用の武器を抜いていたらしい。

 愛称で呼ばれたのがかなりむかついていたのかもしれない。


 まあ、あたしを攻略して姫様に近づこうとするクズも多かったものだから習慣になっていたんだ。

 殺気が滲んだら気づかれて抵抗されてしまう。気をつけなければ。


「なんかあさっての方向に決意されている気がするんだが……」


 シリウスはなぜかひどく疲れた様子だったけれど。まあいい。

 あたしはすっと背筋を伸ばすと、スカートをつまんで頭を下げた。


「お久しぶりです、シリウス様。こちらはシリウス様の居室でしょうか」


 我ながら見事なお辞儀だったと思うのだが、妙な間があっておやっと思った。


「アウローラ……その。最初が最初だけに君にかしこまった態度をとられると気色悪いんだが」


 ぴきっとあたしの顔が引きつったのも当然だと思うのだ。

 せっかく表面的には敬ってあげようという心遣いにもかかわらず、仮にもうら若き乙女に気色悪いだと!


「だから敬語はやめて普通にしてくれると」

「ならなんで急に拉致したのよ」

「……よっぽど腹に据えかねていたんだな君は」


 さっきの言葉を許可ととらえたあたしがお願い通りに顔を上げて敬語をとったというのに、なぜか残念なものを見る目で見られた。げせぬ。


 まあ腹に据えかねていたというか、なんてことをしてくれやがったんだわれ。というのはある。


 フェリやルールーの口ぶりからして魔王は雲上の人なのだ。

 そんな人にあたしが直接声をかけられたなんてあったらすごい注目されるに決まっている。


 ただでさえあたしは人間として注目を浴びているのに、いらぬ軋轢ができるかもしれないじゃないか。

 あ、でもこれは上司の覚えがめでたいという方向に持って行った方が安泰か?


 まあそれはおいといて、確かシリウスはあたしに助けてくれ、と言っていたはず。

 臣下でもないなんでたかが人間のあたしに助けを求めるのだろうか。


「こっそり物陰で呼び出してくれればいいじゃない」

「俺だって普段はそうするさ。そもそも滅多にこの部屋から出ないぞ。城内の子を倒れさせる訳にはいかないしな。この部屋で衣食住は足りてるから、ましてや食堂になんて深夜にこっそりとしか忍び込まない!」

「あんた本当に城の主?」


 上司が部下に気を遣いすぎている状況ってどうなの。


「それを言われると大変弱いが、一応魔王だ……」


 本音が半分漏れてしまったらしく、シリウスがすんごく情けない顔になったが気を取り直したらしい。

 まじめに顔を引き締めたシリウスがあたしを見下ろしてくる。


「じゃなくて、魔王紋が半分になった影響が見つかったんだ。しかもかなり大変な方向で。すぐにでも君に知らせた方がいいと思って、久しぶりに転移術を使ったらああなったんだよ」

「はあ」

「俺が瘴気を処理できなくなっている」

 

 シリウスの焦りと真剣みを帯びた顔と声に、あたしは困惑したのだった。


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