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魔王なんてお断り! 最強メイドは姫様の下に帰りたい  作者: 道草家守


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15 教えを乞うのも一つの手

 


 レブラントさんのお説教が終わったら夕食時だった。

 本日のご飯は鶏の唐揚げとキャベツの千切りだった。副菜も充実している。

 もちろんパンは山盛りだ。


 妙に疲れた気がしつつももっしゃもっしゃ唐揚げをほおばる。

 あたしの横ではルールーが、楽しげにしっぽを揺らめかせながら、すさまじい速度で焼けたかたまり肉をがつがつ食べていた。

 そしてあたしの前ではフェリが葉っぱをそよがせながら、草っぽい色合いをしたジュースとたらいいっぱいの野菜を上品に口に運んでいる。


 ご飯を食べるたびに必ずと言っていいほど、二人がそばに座ってくるので、結局三人で食べることが日常になっていた。

 なんであたしに寄ってくるんだろう、と思いつつ、同期のよしみはあるのでそのまんまだ。


「ほへえー、レブラントさんがかっかしてたのそういうことだったんだなー」


 あたしのことを聞きたがるので今日のことをかいつまんで話せば、ルールーは骨付き肉をまた一本骨だけにして感心していた。

 ジュースを空にしたフェリがおずおずと、けれども好奇心を隠さない風で若干身を乗り出す。


「でも、陛下にそんなことをおっしゃられるなんて、アウラさんはとても気にかけられているのですね」

「フェリ、あんたがそういう風に期待をすることなんて何にもないわよ」


 ぽうっと頬を染めて、恥じらうフェリにあたしはげんなりとする。

 もう一月前になるけど、シリウスが食堂へ乱入してきた日、あたしをさらったシリウスを見て、フェリの脳内で様々な妄想が駆け巡ったらしく。


「大丈夫、です。人間であるあなたが魔界にいらしたのは、陛下の慈悲によって助けられたからなのでしょう。あんなに焦りを帯びた表情をされるなんて、陛下はとても情熱的にアウラさんを慕っておられるのですね」

「いやそんなんじゃないからね」

「ええもちろんわかっていますとも。未だに人と魔族の間には高い壁がありますから。でもわたしは、応援していますねっ」


 そう、フェリの中ではあたしと魔王を恋仲になっている設定で固定化されていた。

 さらに言うと、あの場にいた魔族たちの何人かにも、似たような風に誤解されているらしい。


 おかげですれ違う人にひそひそと話をされたり、生ぬるいまなざしを向けられたりするのでいたたまれない。


 やっぱりあの魔王いいことしない!

 思いだしてむかむかしつつも、あたしは顔には出さず、ただ曖昧に笑うだけにした。

 こうしてきらっきらと草色の瞳を輝かせるフェリには何を言っても全く通じないだろう。


 こういう症状について、あたしはよく知っているのだ。

 熱くなっているときに言っても、すてきに都合がいい具合に脳内変換されちゃうんだ。 


「でもさー、アウラはお仕事終わったんでしょー。ならどうして働こうとするの?」


 きょとんと、ルールーに言われて、あたしはむしろよくわからなかった。


「どうしてって、そういうもんでしょ?」

「えー? ルールーお洗濯終わったらお昼寝するよ?」


 不思議そうなルールーの手元にはすでにあれだけ山盛りだったお肉が消えてなくなっていた。

 その代わりにおなかがぽっこりとしている。

 毎度見てもすさまじい食欲だ。じゃなくて。


「あーでもお昼寝以外も、遊んでくれる人を探したり、おやつをもらいに食堂に行ったりもするよー。お手伝い頼まれたらするし」

「それならもっと仕事量を増やしても」

「えーなんで。ミセスハンナも良いって言ってるのに」

「だからっ」


 仕事はいくらでもあるはずだ。あたしも必要なら何でも進んでやって来た。

 姫様も、あたしがたくさん仕事をするたびに、「ありがとう」って言ってくれたものだ。

 だから、仕事がある限り、全部片付けるべきではないのだろうか。

 なんとなく納得できなくて、あたしはおろおろとしていたフェリをむいた。


「ねえ、フェリはどうなの?」

「わたしも、お薬の調合が、終わったら、自由にしていいって言われてますし。よほど重傷の人がいない限りは必要ありませんから。中庭で、ひなたぼっこをしていますよ」


 まじめそうなフェリですらそんな調子で、あたしは呆然とした。

 あたしの常識が通じなくてくらくらする。


 そんな不真面目で良いのか、魔王城。


「今日やらなくて良い仕事は、明日にしていいんだよ。明日にはまた時間があるんだからー」

「とは言ってもね、仕事があるんならやらなきゃ」

「でも、へーかにはやすめっていわれたんでしょー」


 ルールーにこてり、と首をかしげられて、あたしは言葉に詰まった。

 確かに言われて追い出されたのだ。

 姫様の下にいずれ帰る身だとしても、きっちり仕事はするつもりでいて。


「みんながたのしーってお仕事して、できたーって喜んで、やったーって遊ぶの、楽しいよ」

「でも前の職場では」

「ここは魔王城だよ?」


 ルールーがつぶらな瞳で首をかしげるのに、あたしは何にも言えない。確かにここは魔王城だ。

 あたしはここにいる限りはここに合わせて過ごさなきゃいけない。

 けど、そう言われてもどうしたら良いかわからなかった。

 だってずっとやるべきことは誰かから教えてもらっていたから。


「そーだ。ならルールーの村に行こうよー! ルールー、アウラのことすっごく好きだから、みんなに会わせてあげたいしー!」


 だから、ルールーが提案してくれた話に、あたしはこくりと頷いてしまったのだった。






 *






 後から考えてそういえば、あたしは魔王城から出られないんだった、と気づいた。

 けれど、その夜、シリウスにほろりとこぼせば、青銀の瞳を丸くして嬉々として言われたのだ。


「良いじゃないか、行ってきなよ! 人狼族の村は一日で帰ってこれるはずだからね」

「そんなにあっさりいいの!?」


 あたしは唖然としたのだが、シリウスは何を言っているんだと言わんばかりの顔をされた。


「だって友達に外出に誘われたんだろ? 前日に魔結晶をたっぷり作っとけば大丈夫だとおもうし! 瘴気に関してはある程度こっちで引き受けるよ。俺も昔はちょろちょろ外に出てたなあ」

「あんたでも外に出ることあったんだ」


 思わず言えば、しみじみとしていたシリウスは虚を突かれたような顔をした。


「あーまあうん。あったよ。魔王紋も半分になっているからな。前のようにはならないだろう。ただ、日帰りで頼むな!」


 ほんのりと寂しそうな顔をした気がしたけど。

 旗を振って嬉々として送りだすシリウスに、あたしは戸惑いながらもその翌日。

 ルールーと一緒に魔王城を出たのだった。


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