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デプレッション&ワンダーラスト ~心に宿る病と旅への憧憬 ~  作者: 石森ライス
大樹の村と一人の少女
9/23

議論

「2人に協力してほしいことがあるの」とエメが切り出した。


今朝のやり取りを再び説明する。


説明するのは2度目だったから要点を絞ってエメは淡々と説明した。


「なるほど。おじさんがか……。もしかしたら最近よく耳にするアバタの病気かもしれない」


「アバタ?……なにそれ、聞いたことないわよ」


カシュウがピナの口にした病気の名前を聞いて頭をひねった。


「耳にするって言ったが、薬草かじってるやつじゃないといちいち覚えてらんないさ。今年の冬に西の国で流行って、今は東の国、つまりうちらの村の方にだな、伝染がひろまってるらしい。おじさんの様子についてなにか気づいたことはないか?」


「うん。最近ずっと目を押さえていて、今日なんかコップ取り落としちゃった。空を切るように何度も取っ手を掴もうとして。遠近感がなくなってるのかな。このままだと魔物との戦いで距離を測りかねてやられちゃうかもしれない」


「なるほど、ますますそれっぽいな。そうだとすると病に効く薬はかなり限られてくるが……。そういえば行商人からその薬草の名前をきいたか?」


「うん。さっき行商人のおじさんから聞いたのはアクロシェっていう草」


そう聞いてピナは目を大きくした。


カシュウもアルモドも黙って聞いていたが、ピナの顔の変わり具合を察したらしい。


「知ってるの?」


「一応な。そのアクロシェの花の部分、それも特におしべを乾燥させたものが、流行り病の数少ない特効薬として認知されている。というかその薬が目の病気に広く効く万能薬だから試しに患者に飲ませてみたら効いたってだけらしい。」


アルモドがそれを聞いて思わず席を立った


「そしたら、今村にはあるのか!? それなら」


「落ち着け、アルモド。今は村にはない。万能薬だからな、あいにく切らしちまってるはずだ。ばあちゃんの薬庫にもない。時間がないなら村の外に取りに行くしかないな。」


「外に!? 私も行きたい!」


外、という単語に反応してエメを席を立った。ピナは2人に詰め寄られるような形になった。


「エメ、念のために言っとくがお前は村の外に出るのを禁止されているんだぞ。俺たち自体は禁止されてないから3人で行く。それじゃあ駄目か?」


「それでも行きたい…。そりゃぁ、外に出られるっていう名目があるだけでも嬉しいよ。けど、お父さんのために自分の力で取ってきたい。村の外は危険なんでしょ? 私だけ安全な村の中で待って皆に危険な役目を引き受けてもらうのっておかしいじゃない」


「わからなくはないさ。けど外は本当に危険なんだぜ。何がいるかわからない。病をもらって魔物にならなくても、魔物から強烈な一撃くらって死ぬ奴だっているんだ。しかもエメは初めていくから危険度はさらに高くなる。それでも行きたいか?」


今度はアルモドから忠告を受けた。けれども、少女の決心は変わらなかった。重く頷く。


「うん、どうしても。」


「なら、しょうがないわね。私たちが責任もって連れてったあげる。こう見えても私の弓は得意なのよ?エメのそばには誰だって近づさせないわ」


エメの両肩に手を置きながら、カシュウは微笑んだ。アルモドもピナもエメの決心を見て心を固めた。


「しゃあねえ、場所は知ってる。掟を破ることになるが、連れてってやるよ」


「余所の街じゃ死ぬ奴もいるが、アトセ村の男で魔物の一撃くらうようなへまする奴はいねぇ。大丈夫さ。それよりも、どうすればエメを外へ連れ出せるのか考えてみようぜ」


そう言ったのはアルモドだった


「そうねぇ。一番まともな方法は、村の大人たちに頼み込んで正々堂々エメを正門から出してもらうことよね」


「それができたら苦労しねえんだけどな。エメは前から何度も似たようなことをだろ? その度にみんな首を振るばかりで、なんでエメだけ外に行ってはいけないのか教えてさえくれねえ」


ピナが面倒臭そうに言った


「なあ、ピナ、お前って成人はして大人の仲間入りしてるんだろ? エメを外に出してはいけない理由が村の秘密に関わるとして、大人たちは全員その理由を知ってるんだよな。普通なら成人したピナも知ってるはずなんじゃないのか」


「いや、俺は知らない。お前はエメと親しいから聞かれたらバラすだろって言われて結局知らされてない。男衆として村の大仕事には参加させられるのに理不尽この上ない」


「いや、それは単にお前が男だからだろ。この前の大樹の余計な枝の伐採、俺もやったぜ」


「え、そうなのか? 俺成人するまで手伝わされなかったぞ」


「多分それ、ピナがひょろっちかったせいだと思う。」


エメがピナを見て呆れながら言った。


思い返せば子供の時からピナは体力がなかった。4人で鬼ごっこをするときも体力に自信のあったアルモドはおろか、カシュウやエメより先にへばってしまうのだった。


「今でこそ、そういう仕事に呼ばれるようになったけど体力は人よりないのは事実なんだから、そういう意味でも薬師は天職なんじゃない? 諦めて真面目に取り組みなさいよ」


「お前ら、人をもやし人間みたいにいうんじゃねえ……。」


「さっきアルモドが村の仕事で大樹の枝の伐採するって言ってたけど、やっぱり大樹の壁には登れるんだよね?」


「ああ、そうだ。けどエメ。お前が今考えてるみたいに壁を登りきって越えるていう方法はやめといた方がいい」


「あら、そうなの? どうして? 私だってさっき登ってみたけど頑張れば上まで行けそうだったよ」


「まあ、体力面で言えば登ること自体には心配がないんだが、さっき失敗した原因はなんだった?」


「門番に見られたから?」


「そうだ。あれが偶然見つかったって持ってるのが間違いだ。村の壁に対する見張りはずっと強い。お前は門番に見られなかれば大丈夫だろうと思っていたんだろうが、実際壁を見張っているのはもっと大人数だ。村の中も外もふくめ合計で30人弱の自警団が常時壁を見張っている。何かあればその30人が一斉に問題のある場所に飛んでいくから壁を越えようとするまえに投げ縄なんかで捕まっちまうと思うぞ。」


「そんなにいるの?」


「勿論だ壁はこの村にとっての生命線だ。この村の罹患者がすくないのも、これのおかげだ。なにか異変があれば村全体の危機になる。だから壁に異常がないか朝夕毎日ぐるっと巡回してるんだぜ」


「知らなかった。そんなに厳重なのね」


やはり先ほどの壁越えは軽率な行動だったらしい。おかげで警戒は厳しくなってしまった。


「そうなると夜にこっそり壁を登るのも難しそうね」


腕を組みながらカシュウは言った。


「だろうな。むしろ警戒は夜の方が厳しい。魔物は昼間よりも夜に活動を盛んにするからな。もし仮に壁を越えたところで、その先には村の外を警戒する歩哨がある。そこには村の中よりも多く人員を配置しているから、結局つかまるだろうな。どんな方法でやるにしても昼の方がいい」


「村のどこかに抜け道とかないのかな?」


エメが独り言のように喋る


「なさそうだよなぁ……ん、待てよ」


「どうかしたの、ピナ?」


「村を東西に横切る川とかどうだ?あの川って外から曳いてるんだろ? 上部は樹と樹が重なって通れないけど川を潜れば外に出られるんじゃないか?」


「それはあたしも思ったんだけどねぇ。あそこ木の下に細かい格子が入ってて中は行き来できないのよ。魔物の中には水棲生物の形をしたやつもいるからね。村が出来てから魔物を入れないように色々な仕掛けがされてるのよ。罠とかも張ってるから迂闊には近づかない方がいいかもね」


カシュウは村の女の家事を手伝っているからか、村の中に関してはアルモドやピナよりも詳しいらしい。


「やっぱり無理かなぁ…」


「……あ、これなら……」


そういってピナはエメをじっと見てそのまま黙り込んでしまった。


「え、なに?」


「なぁ、エメ。お前魔法をぶっ放してみる気はないか?」


「え?」


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