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デプレッション&ワンダーラスト ~心に宿る病と旅への憧憬 ~  作者: 石森ライス
大樹の村と一人の少女
4/23

山間の村、アトセ

改稿しました2019/04/30


舗装のされていない道にはこの間までは生えていなかったタンポポや雑草が所々顔を覗かせている。タンポポの周りには綿毛を息でふうっと飛ばしたり、茎の部分を草笛にして遊ぶ子供達ががしゃがみこんでいて、エメの姿に気づくと元気一杯に挨拶してくれた。エメも微笑みで挨拶を返した。


エメが生まれ育ったのはアトセ村という辺境の村だった。東のイストの山中に位置しており、麓に降り隣町まで行くのにも片道1週間はかかる。西の国や北の国に続く街道からも外れているため、人が訪れることは滅多にない。アトセ村が載っていない地図すらあると聞く。


大きな街では魔物の群勢が襲い病に侵される者がでると聞いているが、この村はあまりにも病の被害は少ない。その理由は2つある。1つはこの山には魔物があまりいないこと。魔物には人がより多くいる場所へ集まる習性があるが、人里から離れたこの村は襲う対象として認識されにくいようだ。そして魔物に襲われないのだから被害も少なくなり、魔物の素体になる罹患者が生まれづらくなる。結果的に周囲の魔物が減っていき更に襲われづらくなる好循環を形成している。それでも毎晩何匹かは村の周りに群がってくるが、難なく撃退してしまう。それこそが2つ目の理由であり、エメが外に行くことのできない原因でもある“壁”にあった。村を覆うように“生えて”いるその壁を見回して安堵とも落胆ともつかないため息をついた。


道脇の木組みの家々を見ると窓を開けて上を見ながら欠伸をかいている人、窓縁に座ってぼーっとしていたら階下から家族に呼ばれ慌ててご飯を食べに行く人が見てとれ、エメもその人達に声をかけて行く。村は平和そのもので、とても魔物に脅かされ滅亡へと向かっている世界には見えなかった。


木漏れ日が眩しくてエメは顔を上げた。そこには鮮やか緑が広がっている。空の全てを新緑の葉が覆っているのだ。この村が魔物に襲われることがない理由、それは村を包み込むように生えている大樹の壁のお陰だった。


大の大人が5人手を繋いでも収まりきらないほどの幹の太さの大木が一部の隙もなく、村を取り囲んでいる。幹から伸びる枝葉は隣接する枝葉と複雑に絡み合い空の魔物からの目を遮断していた。さらには村の中にも同じような大木がポツポツと生えており壁の枝葉と絡まっていた。壁の付近には森のように深い影を落としているが、村の中心付近には枝葉の密度が低く薄暗い感じはしない。日差しが届くのか村の地面にもシバのような草々も隙間なく生えている。どんな種類の樹木か検討がつかないが、生える葉は多くないようだった。葉の代わりに幹をうんと高く伸ばしている。それはもう大人が10人縦にならんでも到底届かないくらいの高さで、天井――天辺に生えている葉の部分を便宜上みんなそう呼んでいた――からうける圧迫感はない。あまりにも高いので幹から延びる枝も相当太く、その上に家を建てているものもいる。枝の上に建てられた家と家同士には連絡橋がかけられ、地上に下りずとも空中を自在に行き来できる。地上へは幹に垂れ下げられている梯子を伝ったり、比較的高低差のない3階建ての家にむけて階段でつないだりしていた。そんな中でエメたちはたくましく生活していた。


この壁は行商人の噂を聞く限り、同じような造りの村はどこにもないらしい。村の大人からは200年前にこの村に住んでいた庭師が大木を育て壁を作ったとされているが、普通は木と木が密接するほど近くに苗を植えてしまうと枯れてしまうか、成長しても大きくはならない。それを庭師の妙技で壁として機能するほどに大きく成長させたと言われているが、この自然の摂理に反したような光景を作る方法までは伝えられていなかった。


この壁のおかげで村は魔物の襲撃が少ないが、エメにとっては鳥籠のように自分を外に出してくれない不満そのものだった。

補足

大樹①:村を取り囲む大樹の高さは大体50mくらい。シンガポールのスーパーツリーを想像していただければ(「ガーデンズバイザベイ スーパーツリー」で検索、検索ゥゥ…!)

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