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デプレッション&ワンダーラスト ~心に宿る病と旅への憧憬 ~  作者: 石森ライス
大樹の村と一人の少女
13/23

初めての空

アルモドとピナで切った大樹をどかした。


「ねぇ、この後はどうするの? 外には出れるけど、外にも団員が見張っているんでしょ? 見つかっ

ちゃったら意味なくない?」


「そのことなら大丈夫よ。あなたが魔法を練習している間、あたしたちでも考えてきたから」


そう言って、カシュウはピナから丸い何かを受け取った。それを己の矢じりに突き刺す


「それなに?」


「まぁ見てなさい。驚いて声は出さないでね」


「よし、上にいるやつはまだだれも気付いてないみたいだ」


「予定通りやるぞ。カシュウ、あそこの樹くらいがちょうどいいな。ねらってくれ」


「わかったわ」


カシュウは担いでいた弓を手に取り引き絞る。


照準を合わせるといわれた樹の方向へ矢を放った。


樹はエメたちのいる村の北西部よりも北側。


村の門に近いところにある。


その樹に矢が刺さった瞬間大きな破裂音と共に、瞬く間に煙が広がった。


上から「何だあれは!?」「魔物の襲来か!?」などと動揺する声が聞こえ足音が遠ざかって行った。


「あれは、煙幕?」


「その通り。薬もちょいと応用すればこんな風にも使える」


「煙が注目を浴びているうちに外に行きましょう。遠くに行けばばれないわよ」


そうして簡単に開けた穴に藁を詰め込み、魔物が入ってこれないように施す作業を素早くやると4人で一斉

にかけていく。


「空ってまだ見れないの?」


「村の周辺には樹が生えてるからなぁ。でもそろそろ。ほら」


エメは空を見たことがない。


生まれ育った村は村全体を大樹が覆っていて、顔を上に向けて見えるのは幹の茶色と、若葉の緑色、そして葉と葉の隙間から見える太陽の白さだけだった。


大樹は常緑種で冬になっても葉は枯れず、夜になれば村全体に夜の帳が落ちるばかり。


村のそとに出たことのない彼女は本の中に記述されている空の青さを想像でしか体験できなかった。


エメが初めて見た、天を覆う空の色は想像していた青色とは全然違った。


藍染の服のような暗い色をしていない。


かといってずっと昔に村に立ち寄っていた宝石商のおじさんが見せてくれたサファイアという宝石のように、原色そのものの色をしているわけでもなかった。


似ているならとエメは考えた。見たことのあるものの中で何に一番似ているだろうと。


「ネモフィラの花みたい……」


初めて見る空の色に感動を覚えるエメを3人は微笑ましく見守っていた。


「言われてみればそうね。あんまり空の色って村の中にはないものね」


ネモフィラ。


それは花の輪郭に青が、そして雌しべのあたりの花の中心部に白色をしている小さな花だった。


春先、村の一角に咲き乱れる小さな花は、遠目から見れば白と青が交わり、たしかに空の色と似たような色をしている


「俺も初めて空を見たときはびっくりしたな。外の世界はこんな綺麗な色に覆われているんだってな」


「ピナだったら酒の色に例えてそうだな」


「なぜわかった」


「本当のことだったのかよ!?」


「南の方にアッカルラって酒があってな。その酒を入れているガラスの便が青かった。もっとも、俺が初

めてそとに出たのは、夜明け前でもっと深い色をしてた」


「空の色って変わるの?」


「そりゃそうだ。夜明けには瑠璃色、昼間は水色、夕焼けには橙色にそまる」


「そうなんだ。そとに出てよかった」


「だろ、外に出ればまだまだ知らないことがたくさんある。自分の知らない世界を見るのは結構面白いな。さて、エメの念願の外出も出来たことだし、ぼちぼち薬草探しに行くか」


「エメちゃん、薬草ってどこにあるって行商人さんが言ってたんだっけ」


「森と森の境目だって言ってたよ」


「他に何か言ってなかったか?」


「村の北にある場所だったはずだ。たしかに薬草携わってるものでないと見分けがつきにくいかもしれない」


「よぉし、それじゃあ行きましょうかぁ」


「うん!」


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