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衝突



『ヴァンパイア』。

外見の特徴のひとつは真っ赤な目を持っていることだろう。

その瞳に魅入ると抜け出せなくなるという。

日に当たることを嫌い、人の血を好むという伝承があるが、それは事実だ。

しかし、日向さまを含む、香坂家の皆様は少し違う。

日向さまはお名前の通り、ひなたぼっこが好きだし、血を吸ったこともないという。

ペペロンチーノも好物のひとつだ。

それらは全て、『チョコレート』による恩恵といえる。


「夕食の準備は出来ていますか。」


厨房へと足を踏み入れながらそう声を掛ける。

中には料理長と、もうひとり。

ゆっくりと歩み寄る。


「司さん、これはこれは。もうあとは食後のスイーツだけですよ。今作っているところでしてね。」


こちらに気付いた料理長が柔和に笑う。

軽く会釈し、料理長が見ていた先に視線を向ける。

ケーキの上にフルーツを乗せている彼が、今朝の朝食を作った男だろう。


「…そうですか。では他のメニューの確認をさせてください。」


普段、日向さまだけの食事の場合にはそこまで確認はしない。

しかし今日はお客様がいらっしゃる。

ミスをして日向さまの、香坂家の名に泥を塗るわけにはいかない。


奥に置かれた料理を確認するため、ケーキを作る彼の後ろを通ると、同時にはっきりとした舌打ちが耳に残る。

つい振り返ると今までケーキにのみ視線を向けていた彼が私を見下ろしていた。


「…気が散る。うろうろするな。」


「……なに?」


長い前髪の奥に光る目は、確実に私を睨んでいる。

自分の方が立場が上だとまでは言わないが、お互いに自分の仕事を遂行する上でその言い草は気に入らない。

私よりも10センチほど身長は高いだろうか。

私も彼を下から睨む。


「こら、黒瀬(くろせ)!」


料理長が慌てたように間に入ってくる。

黒瀬、とはこの男のことだろう。

彼はふん、と小さく息を吐いてからケーキに向き直した。

私もゆっくりと深く呼吸をし、微かに高まった気持ちを落ち着け、改めて料理の元へ足を進める。


「すみません。腕はいいんですが…」


「……いえ、気にしていません。それでは、メニューの確認を。」


我ながら、つい舌打ちひとつでピリピリとしてしまったのはこれからいらっしゃる客人に対する緊張のせいだろうか。

ともかく、日向さまの…香坂家の名を貶めるようなことが無いように今の仕事に集中しよう。

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