カサネ【3】
ワコウが女を集めてから数日後。女たちのさざめきは最高潮に達していた。腹の形の尖りがわずかに上向きだと異形だという人がおり、竜を三人連続で産んだ後は異形の子が産まれるという人がいた。
ミノリもそれにおぼれるようにしながら、腹を抱えて泣いていた。
「どうしよう――…カサネちゃん、私、もし、この子が――」
異形の子だったら。
カサネも腹をなでながら、うん、とうなづく。もしもこの子が、異形の子だったら。既に、この子は生きている。ぽこん、というその感覚が何なのかはわからないけれど、動いている。足で蹴っているのか。尾で叩いているのかはわからないけれど、間違いなく、動いている。
「あたしは、育てたいの」
ミノリの言葉は、ぽとんぽとんと、彼女の腹に落ちる。雨のように。
「育てたいけど――…でも、もしも女の子だったら…。あたしより、たぶん、長生きをするし」
うん、と――同意のつもりではなく、話をきちんと聞いている、という意思表示のために――頷いたつもりだったけれど、カサネの言葉は舌先から落ちてはいかなかった。ミノリはそれに構わず口を開く。
「それに――もし、男の子で、あたしのほうが長生きをしたとしても――水柿よりは、長生きをするわ」
水柿というのが、彼女の夫の名前だった。無口だが優しい竜だと、以前に彼女が笑んでいた。誰かがそれを「のろけ」という言葉で表していたと記憶している。
「水柿を失って…次の竜が、その子を受け入れて愛してくれなかったら…」
ミノリはぎゅうと腹を抱きしめる。そんなに締め付けたら、出てきてしまうのではないかと思うぐらいに。
「少し、お腹の形がやっぱり変な気がするの。水柿は違うといったけれど…私はやっぱり――」
「…変じゃ、ないと思うよ。大丈夫。まん丸だよ」
先ほどの相槌はうまく言葉にならなかったのに、彼女を勇気づける言葉はするりと出てきた。ミノリはカサネを見て、それから顔を不意にゆがませた。
「――あたしは…何のために泣いているのか、それがわからないの」
ミノリのまん丸いお腹に、涙は落ちる。
「異形の子を産んだ後、途方に暮れるあたしのために泣いているのか、それとも産まれてすぐに…死ぬか、もしくはものすごくつらい思いをして生きていく子のために、泣いているのか」
それがわからないの、と言って彼女は泣いた。
ミノリが、水柿とどんな話をしたのかはわからない。水柿はどんな思いで「違う」という言葉を口にしたのだろう。本音か。あるいは慰めか。
そして、カサネはまだ、自分の夫へ今回の件は口にしていない。
ミノリが健やかな――何の問題もない女子を産んだのは、それからひと月もしない日だった。
産後で動けないミノリの代わりに、彼女の近所に住処を構える別の女がカサネに教えてくれた。
大丈夫だったみたいよ、とほほ笑む彼女の背には小さな竜の赤ん坊が眠っていた。
もしも会ったらおめでとうと伝えて、とカサネは言って、そして自分の腹に手を当てた。少しだけ上向きに尖ったように見える、その腹に。