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ミチル【5】

 次の半月の時に、再び結びの儀を行う、というお触れが出されたのは、雨の日から一週間後だった。今度は警備もきちんと行う。普段から監視を交代で行う。という話もあったので、ミチルは母に外出禁止を命じられた。エリカとも会うなと言われてしまった。母はこれを機に、とミチルに星の加工や雲の編み方を事細かに教えた。

「――そうそう。ここで編み棒を返して。ああ、違うわ。隣の目に入れるのよ」

 雲の編み方を教える母はどこか楽しそうで、普段なら拒絶するミチルも、退屈だということも手伝って、素直に教えを受けた。

「…一日かかって、これだけかあ」

 はあっとため息をついて、手のひらよりも小さな雲を見つめる。母は笑った。

「慣れれば、あと五倍ぐらいは早くなるわよ。後は別の編み方だったら、また違うけれどね」

 ミチルは笑って、それから思う。

(一日で…手のひら五個分の雲)

 だとしたらあの雨の日の雲。あれはいったいどのぐらいの時間をかけて編まれたものなのだろう?

(…あの人なら、知ってるかな)

 彷徨う者だけを受け入れる森に棲む、あの人なら。

 長すぎる髪の毛と、優しすぎる心を持つあの人。竜のような声を持つ、ミチルの理想のひと。



「久しぶり!」

 エリカが笑顔で、ミチルに抱き着いてくる。久しぶり、とミチルもエリカを抱きしめ返した。

 結びの儀まで、あと三日。久しぶりに母の許しが出たので(ただし比較的どこからでも見える広場で、という条件付き)久しぶりにミチルはエリカを誘って遊びに出た。二人は会えなかった時間を埋めるように、ひたすらにおしゃべりをして過ごした。

「…ああ、もうお日様が沈んじゃう」

 エリカがつぶやく。ゆっくりと太陽が傾いていくのが見える。ミチルもため息をついた。

「しょうがないね。また今度。ね、手をつないで帰ろ」

 二人は手をつないで、家の方に向かって歩く。ふと、という感じでエリカがミチルに呟いた。

「…ミチルじゃないよね?」

 え、と返した言葉は、ざらり、としていて。

「――…あの時の雨雲、ミチルじゃないよね?」

 いつの間にかエリカは歩みを止めていた。繋いだ手はいつの間にか空中に漂っていて。ミチルは振り返ってエリカを見つめる。エリカの顔はどこかこわばっていて、泣きだしそうに見えた。

 どうして、とか、違う、とかそう言った言葉がミチルの口から自然と零れ落ちた。けれどそれはひどく小さな塊にしかならず、ぽてん、と足元の草に落ちただけで。エリカの耳には、たぶん、届かなくて。

 エリカも、何かを言った。小さな声で。けれどそれは先ほどと同様ミチルの耳には届かなくて。しん、とした空気が不意に揺れて、ざあ、と風が吹く。先ほど二人がこぼした言葉を、さらうように。

 ところで、とエリカは再び口を開く。

「迷いの森に、謎の人がいるみたいなのよ」

 ミチルはぴたりと足を止める。

「あたしの家の近くにいる人も、行ったことがあるんですって。そこには、異形の人がいるのだそうよ」

 異形、と繰り返すミチルにエリカは頷く。

「人なのに、男なんですって」

「…?」

「だから、人なのよ。見た目は。でも、竜みたいな声をしていて、その、竜みたいなものがついてるんですって」

 ぽかん、とミチルはエリカを見つめる。竜みたいな声。まさか、という声を出さなかったのは、無意識だったが、しかし賢明な判断だった。

「この間のあの雲は、その人が飛ばしたって噂よ」

 何も言葉を発しないミチルを見て、エリカは少し不思議そうな顔をした。もしかしたら彼女はまだ、ミチルがあの雲を飛ばしたと思っているのかもしれない。

 もうすぐ、日が沈む。怒ったような顔で迎えに来た母に連れられながら、ミチルは迷いの森のほうを見ている。

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