ばあばと私 【はじまり】
私がまだ幼かったころ、私の家には「ばあば」がいた。夜眠るときにだけ現れる「ばあば」は、いつだって優しげな声で。ベッドに横たわる私の横に腰かけながら物語を紡いでくれていた。朝起きると彼女はいつも座っていた籐椅子と共に消失しており、私はある一定の歳になるまで彼女は幽霊だと本気で信じていた。甘やかで、やわらかい幽霊だと。
ある時、「ばあば」は言った。昔のことを知っているか、と。私は「ばあば」に褒められたくて、漫画やテレビやゲームの知識を吐き出す。お殿さま。戦争。紫式部。ニュートン。マンモス。五重塔。ノアの箱舟。けれど「ばあば」は少し笑っただけだった。そして、よくそんなまやかしを信じているのう、と、けれど優しい声でそう言った。
良くお聞き。彼女はゆっくりとそういって、カーテンを開けて窓の外を私に示した。――昔々。男は竜だったのじゃよ。と。
彼らは広い、林と草原の中間のような場所に住む。女は木の下で昼間に生き、竜は木の上で昼間は眠り、夜になると空に舞う。女は雲を編み、男は星を狩る。男は雲を愛し、女は星をかじる。
それが私が「ばあば」から聞いた、最後の物語たちになった。




