失った物
突然だが、本当に突然なんだが
俺は…普通をこよなく愛している。
それは
毎日、学校に行けること
自分の足で立てること
親が生きていること
お金がある程度あること
ゲームが出来ること
息ができること
日本に戦争がないこと
まあ、上げればキリがないのだが
毎日、俺はそんなどうでもいいようなことを幸せに思っている
理由はハッキリしていた。
「だって、世の中には俺より不幸な人生を送っている人がやまほどいる。」
そう考えると、全てが幸せに思えた。
でもそんなことばかり考えていたせいか、幸せになるための努力を怠り、怠惰に耽る
そのせいか必要最低限の幸せがあればそれでいいと思うようになった。
それ以上は無理をしない
俺はそのせいか、よくそのことで親に怒られ注意されていた。
それでも、この性格、考えを捻じ曲げることは、俺自身しようとしたけどできなかった。
昔このような言葉を誰かが言ってた気がする
「性格を変えるのはとても難しい」
正しくその通りだ。
いろいろな方法を試したが等しく効果が無かった。
身を持って感じた。
でも、同時に無理とも言い切れない
もしかしたら、死ぬ気で頑張れば変えることができたのかもしれない
血反吐を吐くほど、頑張れば変えられたのかもしれない
だからなのかな
だからなんだろうか
今こうして、洞窟?遺跡?の中でうずくまっているのは…
おかしいよ…
昨日は家でベットで寝たはずなのに…
なんで俺がこんな目に…
普通に…ただ普通に幸せな人生を送っていただけの俺が、こんな薄暗い洞窟の中でうずくまってなきゃいけないんだよ
ほかにいるだろ……俺じゃなくて、頭の悪い不良とか、犯罪を起こした死刑囚とか、学校の授業を妨害する生徒とかさ
なんで俺なんだよ、運悪すぎだろ…
おかしいだろ…こんなの………おかしいよ……………
俺はちらっと右下を見た
しかも、俺の右腕、左目、右耳
どこいったんだよ
見つかんないんだけど…
泣けるわ
というか泣いたわ
それはもう大声でワンワンと耳を塞ぎたくなるほど
洞窟だから余計にうるさい
だって、これからどうやって生きていけばいいんだよ…
皆にどう言えばいいんだよ
「交通事故に会いました☆」てか
まともな生活できねーだろ
俺から普通を奪うなよ
ひとしきり泣いた俺はとりあえずこの洞窟を出ることにした。
未来のことを想像して、ここで餓死するのもいいかな、と、ほんの少し思ったが
親が俺を行方不明だと言ってくれているなら今頃、警察が俺を探していることだろう
でも、もし、見つけられなくて、ここで苦しみながら餓死するのだけは嫌だ。
餓死だけは嫌だった。
希望にすがって苦しみ死ぬぐらいなら、いっそ自害したい
まあ、洞窟なんだ、とりあえず壁沿いに進めば何かあるかもしれない
俺はそんな淡い期待を足に乗せゆっくりと歩き出した。
足元は小さな石が転がっていて、気を付けなければすぐ転びそうだ。
自分の足下を見ても薄暗くて何があるのかわからない、もし崖があるなんて思うと足が止まってしまうので、考えないようにした。
5分?8分?程して、薄暗い闇に光が指した。
きっと出口だ!
俺はその光に向かって全力で駆け出した。
足場が悪いせいで何度もつまずいた。
手をついて姿勢を直し、また駆け出した。
暗闇に指す光がだんだん大きくなる
それは俺を包む程大きくなった。
「出口だ!」
もしかしたら出口の周辺には誰かがいるかもしれない、そしたら今のこの状況を教えてくれる人がいるかも!
そう思いながら俺は洞窟を飛び出した。
木と木の間から僅かな木漏れ日が漏れている
俺はそれに照らされていた。
俺は体ごと向きを変えて辺りを見渡した。
あるのは膝まで生えている雑草、気が遠くなるほど高い木
それだけだった。
でも、まぁ、大丈夫だろ
どうせ歩いてればそのうち道路か町に出る
そんな考えが俺の頭の中を占領していた。
これが俺の悪いところ
気楽
俺は気楽な人間だ
どんなに苦しい状況でも
まあ、なんとかなるだろ
なんとかならないなら、死ぬだけだ
いつもそう考えている。
そう考えで行動していると当然、災難が降りかかった。
例えば学校の宿題
まあ、寝てからやれば、朝早く起きてから取り組めば間に合うだろ
そう考えながらゲームのコントローラーを手に取った。
鉛筆よりコントローラーの方が多く握っていた気がする
そんな、なさけない考えだった。
当然、次の日起きれなくて、宿題にまったく手をつけず、さらに学校にも遅刻した。
でも、俺はこんな情けない自分が嫌いになれなかった。
それは…気楽でいると、楽なのだ
ゲームで言うならイージーモード
後先考えない行動は苦しくなかった。
周りの人は俺のことを良くも天然キャラと言っていた。
でもそれは友達、つまりは男の感想で
女子の俺についての感想は
皆一様に礼儀正しく、仏頂面だと答えた
男だと緊張せずいられるのに女になると突然緊張してしまうのだ。
そのおかげで未だに女の子と付き合うことはおろか、手を繋いだこともない
あまりに苦しいからキスなんて都市伝説だと思い込んだ
まあ、俺のことは置いといて、今の問題は別にある
洞窟を出たあと5分くらいだろうか、
道路目指して歩いていたら突然、
「ギャア グギキ ギャア」
何かの生き物のような声がした。
「は?」
俺は間抜けな声を上げて心底驚いた。
聞いたことない鳴き声だった。
何の動物だ?
熊でも鳥でも虫でもない
そんな例えようのない鳴き声だ。
「ここ日本なのか?」
少なともこんな鳴き声を上げる生き物を日本では知らない
一体どんな生き物なんだ?
俺は好奇心に駆られ、声のした方へ音を立てないように足を進めた。
近づくに連れて何かの声が聞き取りやすく大きくなっていく
「ギャア ギャア」
「ヒギ アグガ ゲヒ」
「ゲガー ギュカ」
話し合ってるのか?
じゃあ、猿に近い生き物だな
俺はさらに近づく、ここら辺なんだけどな…何処だろう?
さらに歩みを進める、すると、奴らは声を上げるのを
「ギャア グョ」
「………」
「…………」
スっと止めた
その瞬間、心が心臓が激しく揺さぶられた。
そこから導き出せる結論は一つだけだからだ。
何かは俺に気づいたのだ
だから声を上げるのを突然やめた
臆病な生物なら声を潜めて木の陰や草の中に隠れるだろう
逆に凶暴な生物なら、ステルスもとい隠れながら俺を仕留めに来るのではないか
「チッ!」
俺は瞬時に逆方向へ走り出す。
怖かった、それに武器もない、右腕は肩からない
こんな状態では立ち向かうことは愚か、抵抗する暇もなく殺されるかもしれない
…後ろから「ザザッザザッ」
と何かが駆ける音がする
どうやら俺の感は悪い方に当たったらしい
最悪だ…
で、どうする?
どうする?どうする!
走っていて気がついた。
どうやら奴らそれほど足が速いわけではないらしい
このまま逃げ切れる!
俺は確信した、逃げ切れると
なんの疑いもなく
そう
なんの疑いもなく
何度も言うが俺は気楽なのだ。
だから気づくはずもない、俺はトラブルが起きる確率を想定していない
そう、このように
「ガッ!」
俺は足に木のツルを引っ掛けて転んだ
当然だ、生まれてこの方、ずっと都会暮らしなのだ。
森の中を走り回るという経験が一切ない、そんな奴が森を自由に駆けるられるはずがない
結構なスピードだったのと片腕しかないせいで受身も取れない
口の中に土が入り「ペっ」と地面に吐き
俺は瞬時に立ち上がる
刹那、俺の体の中で妙な事が起こった。
左脹脛から小さく、ピンポイントで、痛み?熱さのようなものが走った。
そんなの気にしている場合じゃない!
「はあ!?」
さらにその刹那、尋常ではない痛みが左脹脛に走った。
俺は前かがみに倒れこむ
思わずその痛みが走った箇所、足を見る
そこには赤い、血の色をした矢があった。
いや、正確には矢が俺の左脹脛を貫通して飛び出している。
赤いのは血の色だ。
こんな状態では走ることは…
もう逃走は無理、不可能だろう
じゃあどうすんだよ!
どうする!どうする!
どうする!どうする!いてえし、どうする!
どうしたら生き残れる、許しを請うか相手は言葉が通じないのだから無理に決まってる!
どうしたら…
どう…した……ら
体に熱が灯り始める
もう、無理じゃん…諦める…しかないかぁ
あ~あつまんない人生だなぁー
でも、でもさぁ
今、俺、楽しいなぁ、なんというか心臓がバクバクしてる
それに頭が熱い、まるで脳を火で沸かしているみたいだ。
アドレナリンが噴き出してくるのがわかる
あぁあ、悪い癖だ…つい口の端がつり上がっちまう
今から死ぬのになぁヒヒヒ
うひヒヒヒヒヒヒ
あぁ、楽しいぃ、興奮するなぁ~
今からどんな風に殺され、殺すんだろう、どうしようかぁ
そのまま嬲り殺られるのは怖いから
少しだけ…そぉ、少しだけ抵抗するかな
俺はおぼつかない足でゆらりと立ち上がった。
「そこのあなた、大丈夫ですか!」
凛としたハリのある声だった。
その声は俺の心にスッと入り込み熱を冷ました。
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