プロローグ
うっそうとした森奥深く、そこには昔から人間達の間でおとぎ話とされていたエルフが肩を寄せ合い生活していた。
エクタードと呼ばれる、エルフ達が住む集落はそう呼ばれている。
辿り着くには彼らが部外者をエクタードに入れぬようにと張った結界をくぐり抜けねばならないのだが、そう容易く入れるものではなく。
今日までエクタードには人の子、一人入ることすらない。
それもこれも長であるブライドが念には念を入れているからで、代々それは受け継がれているものであった。
「お父様、外の世界とはどんなところなのでしょう?私も外の世界を」
「ならぬ!いいか、外の世界は危険ばかりだ。私利私欲に突き動かされた人間や恐ろしく危ない魔物どもがうようよとしているのだぞ。そのような場所になど……」
「お父様ってばいつもそればっかり。つまらない!私だってもう子供ではないのに」
「くそじじい」と呟いた女は勢いよく部屋の扉を開け放ち、走り去って行ってしまう。
そんな娘の姿を毎日のように困り顔で見続けているのはエクタードの長であり、娘、ソフィアの父であるブライド。
どんな言葉をかけたとていつも反抗的な彼女は父の言葉に聞く耳を持たず、我が儘ばかり。
流石の父も困るだけでなく、段々と呆れていることになどソフィアは気付いていない。
父の部屋から勢いよく飛び出てきた彼女を廊下で待っていた幼馴染みのライラは毎日のことなので驚く様子もなく「また暴言を吐かれたんですか?」と苦笑を浮かべる。
小さな頃からまるで姉妹のように育ってきた二人は家が隣同士ということもあり、毎日のように顔を会わせてはこうしてソフィアが父に抗議をしに行くと言えば二つ返事でライラがついてきていた。
分かっているなら聞くなとばかりに顔を背けるソフィアに息を吐き出し、手を握った彼女は幼馴染みに笑いかけた。
「今まであまり疑問に思わなかったんだけど、どうしてソフィアはそんなに外の世界が気になるの?」
「だって気になるじゃない?小さな頃からずっと読んでいた本には外の世界のことが色々と載っているのよ?気にならないわけないわ」
「でも、外の世界って危険なんでしょう?」
「外の世界が危険かどうかんなんて関係ないの!私は外の世界が気になるの。それにもし怖い魔物が出てきたって私には魔法があるんだから怖くなんてないのよ」
手を繋いだまま家の外に出たソフィアは隣で肩を並べるライラに軽く片目を瞑って自信満々に答えた。
エルフとは大なり小なり魔法が使える生き物として世界では知られている。
ただ親から子へと受け継がれるものであり、どんな魔法が使えるかは家庭によって異なるものであった。
しかし近年、親から教えてもらったものを友達同士で教え合い、一つだけでなく二つ、三つと使える魔法は増えてきている。ソフィアとライラも例外ではない。
幼馴染みである二人は親から教えてもらった魔法を共有し合い、今では互いの家のものが使えるようになっていた。
「私は炎魔法が得意で、ライラは風魔法が得意なのよね。あ、私一人が心配っていうならライラもくればいいのよ!そうよ!」
「え?わ、私も?」
「そうよ。だってそうしたら怖い魔物に襲われても撃退できるでしょ?それに、一人より二人って言うじゃない?」
「それは……そう、だけど」
「乗り気って感じじゃないわね。いいのよ。どうせ私は孤高の戦士なのよー」
しくしくと泣き真似してみせる姿に「こんな誘いを受けた私も泣きたい」とライラも泣き真似をしてみる。
互いに泣き真似するさまにぷっと吹き出せば可笑しくて途端にどっと笑いだした二人は目尻に涙を溜めて笑う。
いつまでもこんな日々が続けばいいと、願いながら。
初投稿させて頂きます。ほむらと言います。
至らないことばかりとは思いますが、どうぞ暖かい目で見てもらえましたらと思います。