ep1〜サクラサクキセツ〜
この作品に興味を持って頂きありがとうございます!期待を裏切らないように頑張りたいと思いますので、応援よろしくお願い致します!m(__)m
―風が吹いた
暖かく、心地よい風が首元を抜けてゆく。まるで春に首元をくすぐられてるみたいだ。
この町『桜華町』(おうかちょう)にもようやく春が訪れたようだ。今は四月の中頃、入学式はとっくに終わってしまった。
でも、今更になってこの桜華川の土手には数えきれないぐらいの桜が誇らしげに咲きみだれている。
皆、遅い春の訪れを楽しむように所々で花見を楽しんでいた。
俺は神名遼。
親の転勤で最近桜華町に越してきた。
と言っても、ガキの頃にじいちゃんの家がこっちにあった関係でこの辺にはだいぶ詳しい。こっちに知り合いもいっぱいいるから学校にはすぐ慣れた。
今日はそのメンバーと俺の引越し祝いを兼ねた花見の日だ。みんなでご飯を食べるのは久しぶりだ。
俺は指定された場所に向かって歩き出した。
「あ、遼ちゃ〜ん!こっちこっち〜!」
この大声張り上げてるのが俺の母さんだ。名前は麗子と言う。
20の時に親父と結婚して俺を産んだせいか、他の知り合いの親よりもだいぶ若い。ちなみに親父は史郎って名前で、もうすぐ40になる。まぁ世間で言うとこの年の差夫婦だ。
「母さん…ちゃん付けはやめろって言ったろ?」
「あら、そうだったかしら?最近物忘れが…」
「まだそんな年じゃないだろ…」
「細かい事はい〜の!そんなんだと女の子に嫌われちゃうわよ〜…?」
「はいはい…」母さんとはいつもこんな調子だ。でもだからそれなりに上手くいってるのかもしれない。ウチはちまたでよく言われる家庭崩壊とは無縁だ。
母さんに案内されたのは、一本の大きな桜の木だった。まわりには花見客が大勢いる。
そこに敷かれた俺らのシートには、もうみんな集まっていた。
「おせぇぞ神名!未来の絶品料理が冷めちまうじゃねぇか!…なぁ未来?」
「もぉ…慎吾ちゃんたら…誉めすぎだよぉ…」
「そうか?…まだ誉め足りないぐらいだぜ…?」
「…バカぁ…」
…と、ここでノロケまくってんのが俺の悪友風間慎吾と恋人の前原未来ちゃんだ。
何で悪友かってのは…まぁおいおいわかるから深くは語らないことにする…
「はいはい、お前らがラブラブなのはよ〜くわかったからな…ほら、冷めちまうんだろ?」
「冷てぇな〜神名は…もしかして妬いてんのか?」
「んなワケねぇだろ…バカな事言ってねぇで大人しく食え」
「ちぇっ…冗談が通じねぇ野郎だなぁお前は相変わらず…」
「ほっとけ…」
「ふ、二人共…喧嘩は止めようよ…」
こいつは柊空。じいちゃんの隣の家の娘で、ガキの時からよく遊んでる。まぁ…幼なじみ…かな…?
「そうだよ慎吾ちゃん。今日は神名君が主役なんだからね」
「へいへい…」
「―さ、みんな♪どんどん食べてね♪おばさんと未来ちゃんが腕によりをかけて作った特製よ〜♪」
「…おぃ母さ―」
「へぇ〜い!いただきま〜す!!」
「あ、慎吾ちゃん!それアタシの唐揚げ〜!!」
「ふふふ…未来よ、この世には弱肉強食って言う言葉がだな―」
「はぁ…」
こうして、俺のお祝いの為の花見は俺を完全においてきぼりにして始まったのであった…