わたしが捕獲されたのは
「望月希呼!おまえに退学を命じる!」
………んーと、どゆこと?
ーーー
遡ること30分前。
放課後、さっさと帰って漫画の続きを読もうと少し早歩きで廊下を歩いていると放送の音が鳴り響いた。
「2年A組望月希呼、至急生徒会室に来なさい。もう一度言う。2年A組望月希呼、至急生徒会室に来い。」
まさか自分の名前が呼ばれるとは思わず少し眉をひそめた。
自分で言うのもなんだが、わたしは真面目で成績も悪くもなく、呼び出されるなんてことがあるとは思えない。
しかも、職員室ではなく、生徒会室に呼び出される心当たりなどない。
でも呼び出されたからには出向かないわけには行かず、下駄箱を目前にして来た道を戻る。
重い足を動かして向かう先は一番ここから遠い隅っこの生徒会室。
考えることは漫画の続き。
到着までの間に何回ついたかわからないため息を生徒会室の扉の前で再度つく。
「失礼します。2年A組の望月希呼です。先ほど、放送で呼び出しを受けたのですが、用件はなんでしょうか。」
生徒会室には初めて入ったが、部屋のつくりは校長室のようであった。
生徒会だからといってこんなに高級そうなソファーを所持していていいのだろうか。
それにしても生徒会メンバーの方々が勢ぞろいで(多分)、なぜかみんな整った顔を歪めているが、一体何を言われるのだろうか。
「用件はなんでしょうか、だと?舐めてんのか?」
赤髪のチャラそうな美形Aが言う。
「とぼけてるの?」
「無駄だよ?」
底冷えするような笑みを浮かべながら栗色のサラサラヘアの可愛らしい双子B、B' が言う。
「馬鹿だとは思ってはいたが、そんなことを言って乗り切れると思っているなんて馬鹿すぎるな。」
サラサラ黒髪眼鏡冷血男っぽい人Cが言う。
サラサラヘア率の高さは、癖毛のわたしに対する嫌味だろうか。
あ、いっけね。
ついついイライラが募ってネガティヴモードに。
自然な茶色っぽい黒髪のイケメンDが一歩前に出て息を吸う。
この前の集会で話してた人だ。
ってことはこの人が生徒会長か。
「望月希呼!おまえに退学を命じる!」
ーーー
という訳でして。
そうなる理由が全くわからないわたしは、どうしてそのような結論に至ったのかを尋ねると、部屋の気温が5度ぐらい下がったように感じた。
そういえば、ここには生徒会メンバーしかいないのだと思っていたところ、生徒会長が一歩前に出たことにより、後ろに隠れていた人物がいたことがわかった。
薄茶色のサラサラとした長い髪で目がぱっちりとした美少女Xだった。
身長も平均より低く華奢であることから、男性が守ってあげたくなる女子代表のようであった。
会長の後ろでプルプル震えている。
「沙耶、安心して?」
「僕らがちゃんと懲らしめてあげるから。」
相変わらず双子B、B' は息ぴったりだ。
「大丈夫。みんながいるもの。わたし、信じてるもの。」
儚げな鈴のような声を聞いた蛆虫共は頬を紅潮させ、口々に、かわいすぎるとか天使だとか言ってやがる。
それに対してわたし、望月希呼は地味な容姿をしていると思う。
真っ黒な黒髪は癖毛が目立たないように三つ編みにし、異国の祖母の遺伝子が色濃く出た青眼を隠すために大きめの眼鏡をかけている。
コンタクトの方がいいのだろうが、目に異物を入れるのは抵抗があるのだ。
これまた祖母の影響か、白過ぎる肌はもう青白いと言っていいほどだった。
サラサラヘアいーなーとか、健康肌いーなーとか思いながら少女を見ていると、ひっと言って会長の後ろに隠れた。
睨むなとか男共に言われたが、目つきが悪いのはしょうがないと思う。
おっと、危ない、本題を忘れるところだった。
わたしがこのように糞共に罵られているのは、どうやらこの美少女Xを虐めたかららしい。
全くもって身に覚えがないが。
まあそれもそのはず。
会長の後ろから顔を半分覗かせてニヤッと悪役面の笑みを浮かべてこっちを見ていたんだもの。
きっとわたし、この見かけ騙しの淫乱女Xに嵌められたんだわ。
ま、どうでもいいけどね。
実は、高校なんか辞めてうちの大学に来ないかっていう誘いが結構来てるしね。
まだ遊んでいたい年頃だから断ってはいたが、この期に受けてみるのもいいかもしれない。
というか、この場で自分の無実を証明するのが面倒くさい。
「身に覚えはありませんが、いいですよ。退学をお受けいたしましょう。」
さっと踵を返して素早く部屋から退出する。
馬鹿共に付き合っている暇はない。
わたしは帰って早く漫画の続きを読まなければならないのだ。
背後から、待て逃げるなだの、その態度はなんだだの、聞こえてくるが、まるっきりシカトしてやりました。
えっと、昨日何巻まで読んだんだっけなぁ?
ーーー
「ということで君は現在ここにいると。」
「そういうことになりますねぇー。」
手に持っていたカップをソーサーにおいて間延びした返事を返した。
因みに、大学の先輩と向き合って紅茶飲んでるなうです。
そっかーと目の前の先輩は言いながらにこっ微笑んだ。
それはそれは女性が確実に頬を染めるような笑顔だった。
わたしもそういう感情が薄いとはいえ、不覚ながら、きゅんとしてしまいました。
「じゃ、僕はその子らに感謝しないといけないわけだ。」
「は?今の話の流れでどうやったらそのような結論になりますかね?」
「まあ、そうだね。本気で感謝してるわけじゃないよ?逆にそんな馬鹿みたいな行動をとる彼らにも、気色が悪い考えを持っている彼女にも、嫌悪感しか抱かないね。」
益々、この人が何を言ってるのかがわからない。
だから、身体中から意味わかんないよオーラを出してみた。
すると、ふわふわのキャラメル色の髪をくしゃっとして視線を外して儚げに微笑んだ。
なんかいちいち狙ってんのかっていう行動にジト目になってしまうのは仕方がない。
「だってさ、希呼と出会えたのはそいつらのおかげだよ?僕は本当にラッキーだったと思うよ。」
怖いくらいの満面の笑みを浮かべながら、先輩の細長い指がわたしの三つ編みをほどく。
その手はするりとわたしの頬を撫で上げ、眼鏡を取り上げた。
なんか、これヤバめの雰囲気じゃね?と冷や汗をかきながら冷静に言う。
「ちょっと、無礼じゃありません?東条先輩?」
「湊。ねっ?」
いや、ねっ、じゃありませんよ。
言いませんとも。
はぁっとため息をついた先輩は諦めたのか、ソファーから立ち上がった。
かわいそうって思わそう作戦かもしれないが、それを無視して残っていた紅茶を全て飲み干す。
「希呼、湊って呼んでよ。」
まさにカップソーサーに置こうとしていたところだったので、不覚にも動揺したわたしはカチャと音を立ててしまった。
耳が弱いわたしに、甘い声を背後から耳元で囁くなんて反則だと思う。
カップを見ていたから先輩が近ずいて来ていることに気づかなかったことに後悔している。
わたしの反応にふっと笑った先輩は、きっとわたしが耳が弱いことに気づいたのだろう。
「ねぇ、呼んでくれないの?」
「よ、呼ばない。」
「なんで?こんなに耳真っ赤にしてさ、照れてないで言ってみなよ。もしかして僕の声好きだから、もっと聞きたいから言ってくれないの?」
わたしが黙ってるからって調子に乗りやがって。
「そんなことない。言える。」
「じゃあ言って?」
あ、くそ、嵌められた!
でも、言ったからにはもう言うしかない。
「み、湊…?」
ガバッ
後ろから抱き着かれた。
なんだよ、どうしたよ、わたしの心臓止める気か?
「好きだよ。ねえ、好きって言って?」
「す、好き。」
「僕も。君以上に君が好きだよ。」
もう、わたしは彼に逆らえなくなっているようで。
もう、彼の言いなりで。
なのに、彼のことを嫌いにはなれなかった。
美少女Xは、容疑者X的な。笑
すみません、あほらしくて。
あと、何気に双子B、B' 気に入ってます。
希呼の男達に対する呼び方の変わりようもね。
で、次回は担任の先生視点から書こうかなと考えているのですが、逆ハー要員の誰か視点にしようかな。
皆様のご意見を承っております。