-009 幕間 『ただし、正体はバレバレで』
暗い部屋。明かりが消されたそこは、窓などひとつも無く、すぐ前を見ることすらおぼつかない。そんな部屋の中で、たった一つか細い光が灯っている。
その光のもと――携帯電話を持った人物は、もともと笑っていた口元を更に吊り上げて、楽しそうに声を出す。
「ほぅ、それはなかなか興味深い。わざわざあのリカシツがこんなところまで来るなんて」
『連中、なにか探しているみたいですよ。それの心当たりはありますか?』
「いや、特に思い当たるものはないな。この町で起こることは大体把握しているつもりだったのだがね」
『そうですか。副室長まできているんで、かなり重要なものだとは思うんですが……』
「例えば、大事な研究対象がなくなったとか?」
『えぇ、それぐらいじゃないと説明がつきませんよ。ただのデータなら、わざわざ責任者まで来る必要はありませんし。実物そのものを失ったと考えるべきだと思います』
「だろうな。ならそれは扱いが難しい、ないし特殊な力を持っていると考えるのが妥当なところだ。確か、あそこのリカシツは生物系だったか……」
「とりあえずどうしますか? 一応、居場所は把握していますけど』
「いや、そのまま好きにさせておくといい。私達に関係がないのなら、とくにことを荒立てないほうがいいだろう」
『わかりました、じゃあまた』
「あぁ、貴重な情報ありがとう」
そう告げると同時に通話が切れた。そうかと思うと、すぐにまた震え始めた。
「ふむ、今度はメールか。ほぅ、これは……」
先ほどの相手とはまた違う相手からのメール。部屋の主は、そこに添付されたものを見て小さく声を漏らす。
「ククッ、なんてステキな偶然、いやそもそもこれは必然か? まぁどちらにせよ先ほどの言葉は撤回だ。どうやら、これは大いに関わるべきことらしい」
ゲームセンターの監視カメラの一コマ。そこにはプリクラの筐体の隙間から覗く、見知った後輩と透明な少女の姿がはっきりと映し出されている。
「嗚呼、また面白いことになりそうだ……!」
一通のメールが、否、一人の少年の存在が、静観を決めるつもりだった彼女の考えを一転させた。それが良いことか悪いことかなど、まだ誰にもわからない。
「ククッ、クククッ、クハハハハハハハッ!」
これから起こる騒動に思いをはせ、少女は楽しげに声を上げる。それを止めるものはどこにもおらず、ただ笑い声だけが反響していく。
そんなわけで更新。幕間ですが。
正体がバレバレなのは仕様です。
それでは、読んででいただき有難うございました。
次もそう遠くないうちに更新しますので、またどうかよろしくお願いいたします。