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-005 『ただし、弁当には主食がない』

 ライムについて分かったことが一つある。


「なぁ」


「もぅ、またなの? ここは先にXを解いてYに代入、そしてそれをまた積分して……」


「ふむふむ」


 こいつ、相当賢い。数学だけじゃない、国語や英語、社会にいたるまで現在受けた四教科全て完璧にできている。どう見ても勉強なんてできそうにない雰囲気なのに。


 一限目の国語で教師に指されて困っていたときに、ライムが助け舟を出してくれたのが始まりだ。そのあと、試しに他の教科でも質問してみたらそれらも全て簡単に解くのである。


「……というわけで、答えは3になるのよ」


「そうか、助かる」


 最後列の窓際なうえ、小声なので、特には周りに声は漏れていないだろう。万が一、聞かれていたなら俺は明日から電波扱いされる可能性があるが。


「では、今日はここまで」


 そうこうしてる間にチャイムが鳴り、教師が授業終了の合図をする。それにあわせて、学食や購買へ行く生徒が教室を出て行く。


「清司、ちゃんと約束覚えてるでしょうね?」


「授業の礼もあるし、とっておきの場所に連れて行ってやるよ」


 小声でそう言うと、弁当と飲み物(実際はライム)を持って教室を出る。そして階段を上り、人気のない屋上の扉の前に俺はやってきた。鍵がかかっており、ここから先は一般生徒は立ち入り禁止となっている。


「ここがとっておき? 確かに、周りに人はいないけど……」


「いや、勿論そんなことはないさ」


 だが、訝しげにライムが言うのも無理はない。埃っぽいし、こんな場所が食事に向いてるとはお世辞にも言えない。しかし、目的地はここではないのだ。


「というわけで、ここが俺のとっておきの場所だ」


 鍵を回し、屋上への扉を開く。ちょっとした事情で俺は鍵をもっているのだ。勿論、教師に見つかれば即没収だが。


「わぁ」


 ボトルのキャップをはずすと、首を出したライムが声を上げた。辺りを一望できるこの場所は、晴れた日にはとてもいい眺めなのだ。俺も初めてきたときは同じように感動した覚えがある。


「ここなら下からは死角で見えないし、出てもいいぞ。窮屈だろ、そのなかにいるのは」


「んーっ、そうね、確かにここは気持ちいいわ」


 ボトルを地面に置いてやると、嬉しそうにライムが出てくる。頭だけだったのが、手、胸、そして足にいたるまで、明らかに内容量を超えた大きさの半透明の美少女が現れた。


 ――もちろん、裸で。


「ったく、結構肌寒いんだがな」


 目をそらしつつ、制服の上着を被せてやる。半透明と言っても、一応ライムも女だし裸でいるのは恥ずかしいだろう。十一月の寒さは少々応えるが、耐えられないほどじゃない。


「あっ、ありがと……」


「気にするな、服のこと忘れてた俺も悪い。っていうか、お前の服も何とかしないとな……」


 上着のボタンを前で留めるライムを見ながら、彼女の服が家にないことを思い出す。


 服は勿論、下着も揃えることを考えると憂鬱だ。男の俺が買うのにはとても勇気がいる。しかし、だからといってライム一人に買いに行かせるわけにもいかない。


「はぁ……」


「どうしたの?」


「いや、ちょっと先のことを考えると憂鬱でな」


 買わなかったら買わなかったで、家で気まずい思いをするわけだ。裸ワイシャツは男の夢だが、ずっとそのままで過ごさせるわけにもいかない。主に俺の理性的な意味で危険すぎる。


「先のことはほっといて、飯にするか」


 問題の先送りって素晴らしい。期待をこめて、弁当箱の包みを開く。


「ふふん、自信作よ?」


 そうライムが言うように、弁当の中身はとても美味しそうだった。


 朝食にもでてきた煮つけ、わざわざ形を作ってあるウィンナー、ふっくら柔らかそうな卵焼き、それ以外にも色とりどりのおかずが弁当箱の中に並んでいる。

しかし作り手と同じく、この弁当にも一つ大切なものが欠けていた。


「……米は?」


 どこをどう探しても、日本の主食は見つからなかった。


 ご飯のみを別に入れたパックなんかも見当たらない。勿論、焼き蕎麦なんかの麺類すら皆無。


「あっ、料理作るのと、隠れるのに夢中で忘れてた……」


「おいおい、そりゃないだろ」


「なによ、そんなこと言うなら食べなくてもいいのよ」


「いや、それは困る」


 膨れっ面で取り上げようとするライムから、なんとか弁当箱を死守する。おかずのみといっても、美味そうなことに変わりはない。


「んじゃ、頂きます」


「ちゃんと味わって、残さず食べなさいよ」


 箸をかまえる俺に、ニコリと微笑んでライムが言う。半透明ながらも、その笑顔は映画のワンシーンの様に綺麗だった。



 白米が恋しくなりながらも、俺は美味しいライムの弁当を食べ終ええう。


 しかし、まだ午後の授業が始まるまで結構時間が余っていた。


「そういえば、お前は飯いいのか?」


「そうね、清司、早く買ってきなさいよ」


 遠慮も躊躇いもなく言い放たれた。弁当の礼もあるので、とくに断りはしないが。


「ったく、仕方ないな」


 購買へ向かいミネラルウォーターを二本買う。ライムの主食は水らしい。


 ライム入りのボトルも持っているので、飲み物を計三本持っていることになる。傍目には、パシリをしているように見えることだろう。


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