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-014 『ただし、家に帰るまでが逃走劇』

「さて、覚悟はいいか、水峪清司?」


「えぇ、今回は、前のゲーセンみたいにはいきませんよ」


 前方には不敵に笑う部長が立っている。


 公園の中心で、俺達は対峙していた。ライムと桂木、黒服を抑えたままの戦闘員達が見守る中、睨み合う。


「まったく、なんでこんなことになってるいるんだか……」


 うんざりした表情で、神田先輩がぼやく。勝負の審判は彼が務めることになっているのだ。


 ルールは単純明快、一対一の何でもあり。相手を降参させるか、意識を失わせた方の勝ち。負けたほうは勝ったほうの要求をのむ。

たったそれだけ、それ以外にはなんの制限もない。


「清司、負けたら承知しないわよ!」


「――では、始めっ!」


 ライムの声援が聞こえると同時、神田先輩の掛け声が響き決闘が始まる。


「クククッ、武器の使用は禁止なんて言ってないだろう。水峪清司よ、卑怯とは言うまい?」


「んなっ!?」


 どんな手を使ってくるかと警戒した矢先、いきなり懐から何かを取り出す部長。


 銃口のあるべき場所に丸い玉が取り付けられた、よく言えば未来的な、悪く言えばおもちゃのような銃。とても普通の弾が出るとは思えない形状。


 ありえないと思いつつも、嫌な想像が頭に浮かぶ。


「まさか、光線銃!?」


「クハッ、よく分かったな! だが、もう遅い! これで私の勝ちだ!」


 焦る俺に向け、部長は躊躇いなく引き金を引いた。勝利宣言をする高笑いとともに、眩いほどの閃光が放たれる。


「ちょ、うわっ!?」


 ――バシィッ! 


 大きな音を立ててビームが俺に命中した。薄暗い公園の中に、まるで雷でも落ちたかのような光が炸裂する。


 そして、飛び道具について考えなかった自分の迂闊さを呪い、俺は気を失な――、


「ってあれ?」


 なんともない。服も焦げてもないし、試してみれば身体も普通に動く。微妙に痺れるようにも感じるが、気になるようなことでもない。


「む? 出力を抑えすぎたか? では、今度は最高威力で」


 予想外だったのは部長も同じようで、出力を上げもう一度撃ってくる。


 バシィィィッツ! と、先ほどよりも更に強力な音と光を撒き散らし、ビームは俺に命中する。が、軽い痺れを感じただけで先ほどと同じようになんともない。


「…………?」


「故障か? いやしかし、ちゃんと出てはいるし……」


 全く効いていない俺の様子に、首をかしげて部長はなにか呟き始める。なんだかまた変なことになってきた。


 そもそも、あれはなんなのだろうか?


 状況も忘れて、つい疑問を声に出してしまう。


「えーと、部長、それってなんですか?」


「あぁ、これは対象に電撃による強烈な痛みを与えて、気絶させるショックガンだ。しかしどうやら調子がおかしいようでな」


 ――バシィィィッツ! バシィィィッツ! バシィィィッツ!


 言いながら三発連続で打たれたビームが命中するが、やはりなんともない。部長は不思議そうに俺を見て、また光線銃を調べ始める。


「なるほど」


 だが、その説明で俺には全てが理解できた。勝負そっちのけで戸惑う部長に近づき、ひょいと光線銃を取り上げる。


「あっ!」


 固まる彼女に、出力を最低にして銃口を向ける。


 そして一言、とても単純な答えをとともに、引き金を引く。


「俺、無痛症なんです」


「ぴぃぃぃぃぃぃぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 ビームを食らい、悲鳴をあげて倒れる部長。


 こうして、拍子抜けするほどにあっけなく決闘は幕を閉じたのだった。



「よくやったわ、清司!」


「うおっ」


 駆け寄ってきたライムが、嬉しそうに飛びついてきた。コートの裾が捲れて色々と危ないものが見えそうになる。


 だが、今はそれよりも重要なことがあった。


「俺の勝ちでいいですね?」


「むっ? ああ、そうだな」


 しばし固まっていた審判に確認をしておく。


 どうみても気絶しているが、あの部長なら万が一のことがあるかもしれない。気を失ったふりとか平気でやりかねないし。


「しかし、よく耐えたな。一応命の危険は無いようになってるが、最高出力だと一日寝込む威力のはずだが……」


「あー、ちょっと痛みに鈍感でして」


 正しくは、鈍いどころではなく全く感じないのだが。


 中学時代に遭った交通事故の後遺症で、俺の身体は痛みを感じなくなったのだ。


 医者が言うには精神的なものらしく、痛み以外の感覚は全て正常に動いている。そのおかげで、日常生活をするぶんには特に問題はない。怪我に気づきにくいのは少々困るところだが。


「はぁー、そんなの全く気がつかなかったわよ……」


 まぁわざわざ教えるようなことでもないし、知られると面倒になりそうなので隠してきたのだから仕方ない。


 これは担当した医師と家族以外は知らない、俺自身にとって唯一の秘密なのだ。今回の件でここにいる面子にはバレてしまったが。


 しかし、今はそんなことを話してる場合じゃない。


「神田先輩、俺達に危害を加えないと約束してください」


 万一のために、光線銃を握る手に意識を集中させる。だが、返ってきたのは本日何回目になるか分からない予想外のものだった。



「そもそも、僕達は君達をどうにかするつもりは無いんだが」



「え? あの、どういうことですか?」


「わざわざ決闘までしてもらって申し訳ないが、僕達は君達を助けるためにここに来ただけだ。危害を加えるつもりなんて初めからない」


 いつもの無表情を少し申し訳なさそうにして、神田先輩が説明する。その周りで頷いてる戦闘員達が、それが事実であることを裏付けていた。


「……はぁ?」


 なんだか一気に力が抜けていき、全身に徒労感が押し寄せてくる。


 一体、俺は何のためにあんなに頑張ったのだろうか?


「じゃあなんでわざわざあんなことを……」



「それは勿論、面白そうだからに決まっているだろう!」



 振り返ると、復活した部長が立っていた。腕を組み、堂々と笑みを浮かべている。


 ……あぁ、こういう人だったな、そういえば。


「というわけで、ライムといったか? とりあえずこれにサインを書いてもらおう」


「えっ、なによこれ?」


 いきなり二枚の紙とペンを渡され、きょとんとするライム。そのうち片方には俺も見覚えがある、入学式の日に書かされた文芸部の入部届けだ。


「あぁ、水峪清司もこれに名前を書け」


「一体なんですか?」


 渡された紙には『悪の秘密結社WR入団願い』と記されていた。


 これを書けと?


「言いたいことは分かるが、便利だから書いておけ。入ってくれれば今後何処かに狙われたとしても、助けてやることができる」


 神田先輩にも入団を勧められる。


 確かに言われた限りだと入ったほうがいいように思えるが、どうしても躊躇ってしまう。よく分からないまま入学式に文芸部に入ってしまった身としては。


「ライムや桂木葵はもう書いた。さぁ、後はお前だけだぞ、水峪清司?」


「あぁもう分かりましたよ、俺も入ります、入ればいいんでしょ!」


 もう自棄になってきた。必要事項を埋めて部長に紙を渡す。


 いつかはこうなる運命だったのかもしれない、文芸部に入部した時点で。

しかし、悪の秘密結社に入団することになるなんて、一体だれが予想できるというのだ。


「それでは、撤収だ!」


 部長が声を上げると、戦闘員達が黒服を大きな車へ詰めていく。戦闘員達が俺と部長の観戦にまわってたせいで、ずっと縛られて秋の寒い地面に放置されていたのだ。少々黒服達に同情する。


 そんな光景を見ながら、長かった逃走劇もようやく終わりかと安堵したとき。



 ――パァンッ!



 なにかが破裂したような音が響く。


 戦闘員に連れられていた副室長が、手に拳銃を握っていた。


 油断していた部長を狙った銃口は、とっさに気づいた戦闘員が取り押さえたおかげで逸れていた。しかし何の因果か、その逸れた銃口が俺のほうに向いていたのだ。


 周りの皆が俺の胸の辺りを注目している。


「えっ?」


 痛みを感じない身体は撃たれたとしても気づかない。恐る恐る自分の胸部に視線を向け、俺は目を丸くした。


「くっ、確保しろ!」


 部長の怒声が響き、両手をしっかりと拘束され今度こそ副室長が車へ運ばれていく。


 それを横目に、隣に立つライムの肩に手を置いて礼を言う。


「ありがとな、ライム」


 結論から言うと俺は無傷だった、彼女のお陰で。


 俺の命を救ったのは、透明の薄い膜。ライムから伸びたそれが、ギリギリのところで弾丸を食い止めていたのだ。


「はぁぁぁ、無事でよかったわ……」


「そんな風に速く、しかも硬く、身体を変形させたりできるなんてな」


 以前見たときとは比べ物にならない速さだ。弾丸が撃たれてから、俺に届くまでの間にここまで身体を変形させて防ぐなんて。


「気がついたらああなってて、自分でもよく分からないのよ。それに、あんただってあたしのために色々やってくれたんだからおあいこよ」


「そっか。けど、やっぱりありがとな」


 今こうやって話せているのも彼女のお陰だ。痛みはなくても、死ぬのは怖い。


「で、いつまでじゃれあってるつもりだ?」


 少し呆れた様子の部長の声。見ると、いつの間にか車は去っており、この場に残っているのは、部長と俺とライムの三人だけだった。


「とりあえず、今日はもう解散としておく。月曜の放課後、改めて説明を行うので二人とも忘れずに部室に来るように」


「あ、はい」


「うむ、それではな」


 満足げな表情でパチリと指を鳴らすと、どこからか黒いリムジンに現れた。それに乗り込み、部長もいずこかへ消えていく。


 今度こそ本当に、長かった逃走劇が終わりを遂げる。


「ていうか、帰り道ってどこ?」


「……あ」


 そして、家に帰るまでの道探しが始まるのだった。


そんなわけで、ひと段落。

いや、完結では無いんですが。


色々正体とかありはする、するのですが、前半戦はこれにて終了と言った一区切りな感じです。


……まぁ後半の出来が微妙すぎる、という問題もあるんですが。

修正したいけど、流石に色々時間がなさ過ぎる悲しさ。orz


それでは、今回も読んでいただきありがとうございました。

次回更新は……、まぁあまり納得できない感じのある後半戦となりますが、一応下半身と同タイミングで更新予定です。

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