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高橋、未知との遭遇

相も変わらず三好氏宅。そのリビングにて。


ひとしきり絶叫した僕は努めて冷静になろうとした。とりあえずそれは奏功し、幾分気を落ち着かせた。氏が紅茶を淹れ直してくれて、二人揃って一服。仕切り直して会話を続ける。彼が口火を切った。


「さて、一服してクールダウンしたところで、さっきの話をもう一度整理しよう」


「ああ、そうしよう」


肯定する僕。


「君の名前は高橋隆。1985年生まれ。東信商事株式会社勤務。東京在住」


「その通りだ。」


「ふむ…ところで、君は今いくつだい?」


と、彼が問う。


「今年で30になるところだ」


「そうか、ということは君の最後の記憶では2015年だった、と」


「そうだね。ああ、一応証拠にはなるかな。はい、これ」


彼に所持品を手渡す。上着のポケットからスケジュール帳と携帯電話を取り出す。


「うん?何だいこれは?」


と、言いながらスケジュール帳をめくる彼。僕の意図がわかったらしい。


「確かにこの…スケジュール帳?は2015年のものだ。間違いはなさそうだ。そして、これは?」


「携帯電話。開いてみるといい」


言われた通り携帯電話を開く彼。僕のはガラケーで壁紙にはカレンダーが表示されている。


「ふむ、これもそうだ。しかし僕はこんなもの初めて見た」


「これだけで完全に信じろというのはむつかしいかも知れないが、少なくともひとつの状況証拠にはなるでしょう」


少なくとも彼の中では最小限の納得は出来たらしい。次なる話があった。


「とりあえず、行政官に報告して、指示を仰ごう。場合が場合だ。慎重にした方がいいだろう」


「行政官?」


何だ行政官って?さっきも出てきたが、公務員か何かの仲間か?


「行政官というのは、統一政府の職員のこと。この街における行政事務を処理してくれるのさ」


どうやら公務員で合っているようだ。すると彼はおもむろに腕時計をいじり始める。そして話し始めた。


「ああ、行政官。よかった、捕まって。先程連絡した三好です。ええ、その件で。ええ、そうです。ちょっとこちらでは難しいので。ええ、ええ。そこで本人も目を覚ましましたので、直接お話をと思いまして。ええ、ありがとうございます。お待ち下さい。今画面を切り替えますから」


言うや否や、壁に何かが表示された。これは画像…?いや、映像か。しかも写っているのは人だ。


「行政官、彼が件の身元不明人である高橋隆氏です。そして…」


突然のことに目を見開いて固まっていた僕を余所に彼は映像の中の人物に対して話しかけていたようだ。その彼の言葉を遮るようにして音声が聞こえる。


「ハランドリアーニ行政官事務所の冬木未知子です」

映像に映った人物はそう名乗った。名前からしても、見た目からしても、日本人だったので少しほっとした。


「高橋隆です」


「では高橋さん。事情の説明をお願いします」


さて、どう言ったものかな…と思案していると三好氏が口を開いた。


「行政官、それがですね…」


彼は僕に代わって行政官に説明してくれた。1985年生まれであること、2015年までの記憶しかないこと、事故のこと、東京で会社員をしていたこと、そしてそれを物語る状況証拠の品のこと。


冬木氏は三好氏の話を黙って聞いていた。時より、眉がぴくりと動くこと以外は微動だにしなかった。


三好氏が話し終えると、冬木氏が口を開いた。

「説明ありがとうございます。高橋さん、率直に申し上げて貴方の主張をそのまま事実認定することは出来ません。しかし、仮に虚偽だとしても、政府に対してこの様な主張をするメリットは皆無です。ましてや、三好氏を引き込んだところで、それは変わりません」

そこで彼女は一呼吸おいた。


「ですので、事実関係の裏付けと証拠品の鑑定を行います。そののち、対応を検討します」


「ありがとうございます」


僕は簡潔に礼を述べた。とりあえず嘘つき呼ばわりされなくてよかった。


「では高橋さん、これからそちらへ迎えを手配します。事実関係の裏付けが済むまでは、行政官事務所で身柄を預かります。これはいらぬ混乱を引き起こさないための処置です。ご理解ください」


「大丈夫です。お気になさらず」


内心複雑なものはあるが、そう言っておいた。


「三好さん、申し訳ありませんが、行政官事務所まで、高橋さんにご同行願えますか?」


「ええ、構いませんよ」


「ありがとうございます。ではこれにて」


映像が消え、元のリビングに戻った。僕も三好氏も、無言だった。しばらくすると、彼が声をかけてきた。


「さて、こうしていても仕方ない。荷物をまとめよう」


鞄や外套などを確認して、まとめたところでアラートが鳴った。


「迎えが来たようだ。さあ、出ようか」


三好氏の先導で家から出た。すると待っていたのは、なんとも近未来的なものだった。タイヤはなく、地面から少し浮いている。まるで某SF映画に出てくる車のようだ。


早速乗り込んでみた。自動車特有のニオイもしないし、乗り心地も悪くない。


三好氏が乗り込んだところで、車は滑るように走り出した。全く揺れない。そのうえ音もしない。


しばらく走ると、車はとある建物の横に止まった。車から出たところで、三好氏に声をかけた。


「いろいろとありがとう。世話になったよ」


「いや、気にしないでくれ。じゃあ、元気で」


握手をすると、ドアが閉まり、車は走り去っていった。そして僕は、目の前の建物に入っていった。

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