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高橋、目覚める

ぼんやりとした感覚が身体を支配している。眠っているような、起きているような、微睡みの中に僕はいるのかもしれない。


それにしても。僕は何故微睡んでいるのだろうか。全くクリアにならない思考を、結局はループさせながら時間だけが過ぎていく。


どれ程の時が流れただろうか。右も左もない僕の感覚に、「何か」が響く…響く?何が?

…よくわからずに響くに任せていると、おぼろ気に輪郭が形作られる。音?…いや、これは声か?


何かを話している。というか、叫んでいる?何だ?何をそんなに叫ぶ?


「人が跳ねられたぞ!」

「き、救急車を!」

「バカ、消防車が先だ!突っ込んだ店の奥から火が出たぞ!」


…事故か?そうか、事故か。とんだ災難もあったものだ。僕も手伝わないと。あれ、身体の感覚がないな。うんともすんとも言わないや。


そう言えば、僕は何故こんなところにいるんだろうな。全くわからない。


一番最後の記憶は…ああ、確か課長に怒鳴られて集金に行ったんだったな。それから…それから…ああ、大川紙業へは…着いた記憶かないな。確か手前の信号で。信号?待っていたら…トラックが、トラック?僕の目の前に。目の前?


信号、トラック、事故、何だこの違和感。何だ?なん、だ?あぁぁぁ!


「あぁぁぁぁ!事故だ事故!トラックが!トラックが!」




慌てて上体を起こす僕。上体を起こす?


ふと我に返って周りを見渡す。どこだここ?


僕はベッドの上に横たわっていたようだ。しかも僕の部屋のベッドより大きくてふかふかだ。ベッドシーツや掛け布団も手入れが行き届いているのか清潔感がある。


部屋は十畳くらいか。木目調のインテリアに囲まれた、落ち着いた雰囲気の部屋た。机にテーブル、椅子が三脚、箪笥にベッド脇のサイドテーブル。サイドテーブルにはコップと水の入ったガラス容器がひとつずつ。


とりあえず僕はコップに水を注いで一気に飲み干す。うん、普通の水だ。


と、ちょうどそこで部屋のドアらしきものが開いた。音源に目をやると、ひとりの青年が立っていた。


「やあ、気が付いたかい?気分はどうだい?」


彼はそう言いながら部屋へ入ってきた。テーブルの付属品と思われる椅子に座り、さらに問いかけてくる。


「あ、もしかして言葉が通じないかい?」


「あ、いや、通じてるよ。大丈夫。」


慌てて僕は言葉を捻り出す。そしてさらに続ける。


「えっと、一体僕はどうしたのかな?ここは、君の家かな?」


「ああ、そうだよ。ここは僕の家だ。安心してくれ。」


「ああ、そうなんだ。」


ちょっと安心する僕。すると彼は続ける。


「さて、君も不安に思っているだろうし、経緯を少し説明しないと。こちらも事情を聞かなきゃだし。いいかな?」


「あ、ありがとう。お願いするよ。」

同意する僕。


「じゃあその前に自己紹介をしないとね。僕は三好康隆。ここハランドリアーニの大学に通う学生さ。」


「僕は高橋隆。しがない会社員をしている。まずは助けてくれたみたいでありがとう。…ところでひとつ聞いていい?」


と、問う僕。


「僕に答えられることなら。」


と、返す彼。


「ハランドリアーニってどこ?僕は東京から出たことないんだけど。」


「え?」


突然固まる彼。一秒、二秒、三秒。若干の空白。そして、彼は衝撃的な言葉を発する。


「東京だって?東京といえば地球の都市じゃないか!遥か彼方の、高速航行船でも一年はかかるよ。そんなところから来て、なんで我が家の側で倒れていたというんだい?」


彼は驚愕を隠しきれない様子で、今までの落ち着いた雰囲気を少し崩した話しぶりだ。


「うん?僕には直近の記憶がないし、話がよくわからないんだけど…それに東京は地球の都市って、そもそも人類は地球にしかいないのだから。それとも君は、映画みたいに人類が宇宙に進出したとでもいいたいのかい?」


と僕は返す。すると彼からは更なる追撃の言葉が発せられる。


「…君は一体何を言っているんだい?人類が宇宙空間にあまねく進出しているのは周知の事実だ。それにここはデルタ54星系群第23恒星系第2惑星デモステネスだ。」


今度は僕が沈黙する番だった。キャパシティオーバーな僕の頭は「理解不能」と告げていた。


「…」


「……」


「………」


「…………」


先に復活したのは彼の方だった。


「オーケイ。ひとまずお互い冷静になってから、知識と思考のズレを明確にしよう。それから何故君が僕の家の側で倒れていたのか考えることにするのはどうだろう?」


ふむ。もっともな意見だ。僕は首肯する。


「わかった。そうしよう。僕の頭はとうにキャパシティオーバーだからありがたい。」


「じゃあ居間で一服しよう。コーヒーかお茶でもどうかな?」


「おお、それはいい。出来れば紅茶にしてくれると嬉しいな。」


彼の提案に、僕は同意する。頭を切り替えるにはちょうどいいだろう。


「では付いてきてくれ。案内する。」


彼は立ち上がり、ドアから出ていく。僕もベッドから降りて並べてあった僕の靴を履く。うん、立ちくらみやその他不調はないようだ。大丈夫。


そして彼こと三好康隆の案内で、僕は居間へ向かった。

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