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剣と魔法とスマホ-3-

遼太郎(りょうたろう)、起きて起きて! あたしのスマホ知らない?」

 俺の名は岩田遼太郎。高校2年生だ。ふとしたきっかけで、『剣と魔法』の世界にトリップしたのだった。

「ん? どうした、(じゅん)

 俺は一緒にトリップした恋人、永山純に訊く。

「昨夜、枕元に置いて寝たはずなのに、朝起きたらスマホが見つからないのよ」

「よし、一緒に探そう。試しにかけてみるね」着信音は聞こえない。

 俺たち二人は町の宿に二部屋とって泊まっている。


「まずは宿の人に訊いてみよう」「そうね」

二人は宿の主人のところを訪れる。

「すみません、こちらにスマホの落し物届いてませんか」

「は? スマホとは」

「ああ、失礼、こういう物です」と言って遼太郎は自分のスマホを見せる。

「さあ、届いていませんね。見つかったらご連絡します」

「よろしくお願いします」


 一方、町から離れた館の地下室で、魔法使いたちが話をしていた。

「ベネディクト様、うわさの『スマホ』を盗んでまいりました」

「うむ、これが呼びかけるだけで呪文の使える『スマホ』というものか。よし、この『スマホ』に『魔力逆転』の魔法をかけてやろう」

「『魔力逆転』の魔法ですか?」

「この魔法をかけておけば、魔法を使おうとした時、願っていたことと逆の現象が起きるのだ」

 スマホに魔法をかけ終わると、「よし、これを盗んだところに戻してこい」


 翌朝。純が目を覚ますと、枕元にスマホが置いてある。

「あれぇ?」

 純はキツネにつままれたような表情をする。

「遼太郎、あたしのスマホ見つかったよ」

「え?」

「今朝起きたら枕元に置いてあった」

「おかしいな。ま、とりあえず戻ってきたからよしとするか」


 そして宿屋に女魔法使いアデラがやってくる。アデラと遼太郎たちは共に戦った仲間だ。

アデラが言う。

「遼太郎、ちょっと相談にのってほしいんだけど」

「どうした?」

「町のある家で、赤ちゃんが病気にかかったのよ。普通の看病では治せなくて、魔法の力が必要なんだけど、私は治癒魔法が使えなくて」

「ああ、そうだったね。んじゃこのスマホを使って治してあげよう」

 アデラの案内で病気の赤ちゃんがいる家に行く。


「これはこれは。アデラ様から聞いておりました。なんでも『治癒魔法』が使えるとか」

と母親が言う。

「まあ、俺たちの力じゃなくて、スマホに話しかけると呪文が現われるんだけどね」

「さっそく治していただけないでしょうか」

 遼太郎、純、アデラの三人は赤ちゃんのいる部屋に向かう。


 赤ちゃんは苦しそうな顔をしてベッドに寝かされている。

「よし、純、一緒に『治癒魔法』をかけるぞ」

「うん、わかったわ」

 二人はスマホに「治癒魔法」と声をかける。

呪文が浮かび上がってくる。

 二人同時に呪文を詠唱する。


「あれ? 魔法がきかないぞ?」


「ちょっとスマホを見せてください」とアデラ。

最初に遼太郎のスマホ、次に純のスマホを見る。

「魔力感知」

アデラが呪文を唱えると、純のスマホに魔法がかけられていることがわかる。

「これは『魔力逆転』の魔法だわ。治癒魔法をかけると逆に病気を重くさせてしまう。

魔法をかけたのは『ベネディクト』という魔法使いね」


「『魔力感知』の魔法でそんなことまでわかるのか」と遼太郎。「だったら俺だけ治癒魔法をかけてみよう」

 そして遼太郎が治癒魔法をかける。赤ちゃんの表情がやわらかになる。

「どうやら治癒魔法が効いたようだな」

「ありがとうございます」と母親は言った。

「治ってよかったですね」

「あのう、お代は……」

「あ、そんなのいりませんよ。俺たちは金もうけをしているわけではないので」


「では、せめて、家にある『水晶のかけら』をお持ちください。きっとお役に立てるときがくると思います」

「ありがとうございます。遠慮なくいただきます」


 家を出ると、アデラが話しかけてくる。

「さっきは言わなかったけど、もらった『水晶のかけら』、さっそく使えそうだわ」

「え? どういうこと?」と遼太郎。

「その『水晶のかけら』を使って、純さんのスマホを直すのよ」

「へえー、そんなことができるんだ」


 アデラは純からスマホを受け取り、その上に水晶のかけらを載せた。

「魔力解除」

 アデラが深呼吸をしてから、呪文を唱える。

水晶がこなごなに砕け散る。

「これで魔力の解除ができたわ。ためしにやってみて」

 純が「小さな火の玉」とスマホに声をかけると、なにもなかった空間から小さな火の玉が出現する。

「ほんとうだ、ちゃんと使えるようになったね」と純が言う。

「あとは魔法使いベネディクトをこらしめるだけね」とアデラが言う。

「そうだな」と遼太郎が応える。


「ベネディクトの館」遼太郎がスマホに話しかける。

「半径5キロ以内の『ベネディクトの館』を検索しました」とスマホが応える。


「ようし、夜になったら向かうぞ」

遼太郎と純、アデラが3人でベネディクトの館を目指す。


 そして遼太郎たちはベネディクトの館に到着する。

「強い魔力を感じるわ。気を付けて」とアデラがささやく。


 ドアを開ける。薄暗く長い廊下が続いている。しばらく歩いていくと、三つのドアが並んでいる。

 真ん中のドアだけ半開きで、他のドアは閉まっている。

 ドアの横に、なにやらわけのわからない文字が書いてあるボタンが十個付いている。


「なんだこれは」遼太郎は言って、真ん中のドアを開けて部屋に入っていった。純とアデラも後に続く。

 三人が部屋に入った瞬間、ドアがバタンと閉まる。押しても引いても開かない。

「しまった、ワナだったか」遼太郎が叫ぶ。しんと静まり返った部屋の中に、遼太郎の声だけがひびく。


 どこからかベネディクトの声が響いてくる。

「ふふふ、わざわざ来てくれるとはご苦労なことだ。こちらから殺しに行かなくて済むのだからな」

「なぜ俺たちの命を狙う?」と遼太郎。

「なんでもお前たちは『スマホ』とやらでいろいろな呪文を使えるそうじゃないか。盗賊退治をしたり、邪教集団退治をしたり。悪い芽は早く摘んでおかないとな」

「なんだと、悪い芽とは言いがかりだ。いいかげんにしろ」


 いつもは落ち着いている遼太郎だったが、さすがにこの時はあせっていた。

「ねえ」と遼太郎と純の声が重なった。

「アデラ、ここから脱出する方法ないの?」

「うーん、魔法でかぎがかかっているわけではないので、アンロックの魔法でかぎを開けることはできそうもないわ」


 あせる遼太郎に純は「何とかなるわよ」と動じない。

 純は、「ねえ、アデラ。使い魔って知ってる?」と訊く。

「ええ、知ってます。使い魔を召喚するのですか?」

「うん、あそこに鉄格子のはまった小さな窓があるでしょ。あそこを抜け出せる使い魔を

召喚したら、仲間に連絡することができるかも」


「わかりました」アデラはポケットから羊皮紙とペンを取り出す。

そして、「ベネディクトの館」に捕らわれていることを記す。


 純はスマホに向かって「使い魔召喚」の呪文を呼び出す。浮かび上がった呪文を唱えると、コウモリが現われた。

 コウモリの足に手紙をくくりつけ、アデラの仲間のところへ行くよう命じる。

 コウモリは高く飛んで行った。


「これで助けに来てくれるといいのですが」

 夜明け前、アデラの仲間の女魔法使い、エリンがベネディクトの館にやってくる。

 ベネディクトは眠っているようだ。


「アデラさん、エリンです。助けに来ました」

 アデラは扉に耳をつけて、エリンの声を聞く。

「文字が書かれているボタンがあります。これは、ルーン文字ですね」

「そうね。それを順番に押すと、扉のカギが開くはずよ」

「ちょっと待ってください。魔法で開錠の手順を調べます」

「わかったわ」


「なんとかなりそうなのか」遼太郎が訊く。

「ええ、うまく行きそうよ」とアデラが応える。

 遼太郎は少し安心する。しかしこれからベネディクトと戦わなければならないと思うと、

身が引き締まるのを感じた。


「ボタンを押す順番がわかりました」エリンが言う。

「じゃあ、そのとおり押してみて」とアデラ。

「はい」エリンがボタンを押すと、ドアのロックが解除された。

「よかった。助かった」遼太郎は安堵する。


 そして朝を迎える。ベネディクトが起きてくる。

「なんと、どうやって部屋から出たのだ」

 遼太郎は「おまえらの好きなようにはさせないぞ」と言う。


 ベネディクトの部下たちも続々と起きる。

「生きてこの館を出ることはないと思え」とベネディクトが脅す。


 遼太郎、純、アデラ、エリンが背中を合わせ、四方から攻撃してくる敵を迎え撃つ。


 アデラが「光の矢」を放つ。敵に命中し、倒れていく。

 遼太郎もスマホに「光の矢」と声をかけ、呪文を呼び出す。そして敵に放つ。

 ベネディクトの部下たちは次々とやられていく。


 ベネディクトは、「なかなかやるな。しかし私には効かないぞ」と泰然としている。

 純が「魔力増強」の呪文を遼太郎にかけて、遼太郎は「光の矢」をベネディクトに向かって放つ。

「魔力の楯」ベネディクトが使った魔法で、光の矢は跳ね返される。


 アデラは「魔法攻撃は効きません。私が『粉砕』の呪文を唱えますので、みなさんは『物理防御』の呪文を使って身を守ってください」と言う。

 エリンが、「アデラさん、『粉砕』の呪文を使ったら、あなたの命は亡くなりますよ」と応える。

「なんだって。そんな強力な呪文なのか」と遼太郎が訊く。

「いまのベネディクトを倒すにはこの呪文を使うしかありません」とアデラ。

「アデラ、死なないでくれ」

「私の役目は、遼太郎さんたちを守ること。そのためなら喜んで命を差し出します」アデラの決意は固い。


 その間にもベネディクトの放つ「炎の矢」が遼太郎たちを襲う。純は「水の壁」の魔法を使い、炎の矢を防ぐ。


「このままでは消耗するだけです。いいですか、あなたたちは必ず生き残るのですよ」と

アデラが「粉砕」の呪文の詠唱を始める。


「アデラーっ! 死なないでくれ!」遼太郎が叫ぶ。

エリンが「物理防御」の呪文を唱え、三人は目に見えない壁で包まれる。


「ぐわあっ」すさまじい轟音がして、屋敷ごとベネディクトは飛ばされる。


「こ、これが『粉砕』の呪文……」と遼太郎。「物理防御」の呪文のおかげで、致命傷にはならなかったが、遼太郎たちも怪我をする。

「あたしたち、助かったんだね」とススだらけの顔で純が言う。

 エリンはショックのあまり気を失っている。


 純が「回復魔法」を唱えると、遼太郎たちの怪我が治り、エリンも息を吹き返す。

「アデラさん、あの魔法を使ったのですね……」とエリンが力なくつぶやく。「『粉砕』の呪文は、自分自身をこなごなにしてしまいますので、蘇生の魔法でも生き返らせる

ことはできません」

「それほどまでして俺たちを守ってくれたのか」遼太郎は屋敷の跡で立ちつくしていた。


 そして町の寺院へ三人は向かう。アデラのために墓をつくる。

「アデラ、きみのことは一生忘れないよ」と遼太郎は言う。「助けてくれてありがとう」

 朝のまぶしい光がアデラの墓を照らしていた。


お読みいただき、ありがとうございました。


「剣と魔法とスマホ」シリーズも、3作目となりました。


ひとまずこのシリーズは終えて、次からは新しい作品に手をつけたいと思っております。


一言で結構ですので、感想をいただけると幸いです。

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