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代行神シエルにおまかせください!  作者: 村崎 芹夏
「助かりました!」 
48/52

助かりました! Ⅴ

「……」


 この場でただひとり、ポカーンとしている一人の少女。皆の視線が一斉に自分に集まっていることに疑問を感じているのか、首をかしげる。そしてそのおよそ三秒後その意味を理解したのか、やっと反応を示した。


「――はにゃ、私!?」


 あっけらかんとしていたシエルが困惑の表情を浮かべる中、彼女を見つめる三者は一様に肯定を示すために頷いてみせた。


「私はなんにもしてないよ! そもそもそんな魔法みたいなこと出来ないって」


 ここはセンスティア。魔法みたいなこと……というよりも魔法そのものが存在する世界である。しかし、シエル/下川 恵理はこちらの世界へ来たばかりの人間で当然魔法など使うことができない。それは本人はおろか、アネット、ユウナも十分に理解していることであった。


 ではなぜシエルが解魔現象の根源だと判断したのか……それは簡単なことである。彼女には本来あるべき力がまだない。代行とはいえ、神として銘を受けた彼女にはその対価とでも言うべき神力が与えられるはずなのである。


 神力とは、神聖の加護を受けた四神(テトラ・テオス)のみが行使することが出来る魔力を超越した力であり、そのあり方は人それぞれ異なる。そして、テトラテオスが一人、レーミア・フィエルによれば、神力の内容はその人物の人間性に左右されることが多いという。だが、いずれにしても魔力とは比べ物にならない程の力である。そう、例えば最高位の魔導師でも解除に時間のかかる強力な魔法を一瞬で打ち消してしまうことも可能であろう。


 代行神という異例の存在であるシエルは、神力に関してどの程度の力が、どのタイミングで、どうやって使用できるようになるのか、といった危惧は当初から存在した。それは前代未聞の不確定要素であるからだ。案の定、いままでシエルには神力の欠片も無かった。しかしそれは逆に言えばいつ神力を行使できるようになってもおかしくはないと言い換えることが出来る。


 そうなるとシエルの神力が発揮されたと考えるのが妥当……というよりも、そうとしか考えられなかったのである。

 

 唯一、この場でビブロだけはシエルが異世界からやってきた者だとは知らないのだが、彼の認識は”シエル=神の代行者=魔法を超越する力の所持者”となっているため、彼の中ではシエルが既に強力な神力を有していることが前提なのである。そしてそれは、アネットやユウナと経過は違えど、たどり着く結論が同じになるということだ。


「然るべき時が来れば自ずと神力が使えるようになると言ったが、それが今であった可能性が高い」


 シエルの事情を知らないビブロに聞かれないように小声で話すアネット。ビブロはというとやや不思議そうな顔をしているものの、どうやら話の内容までは聞こえていない様子である。


「そういえばそんなことを聞いたようにゃ。じゃあ私もすっごい力が使えうようになったってことにゃ?」


「断定はできないがおそらく。いずれにしても、もう一度試してみればわかるだろう」


「シエル、私にアネットと同じことをしてみてみゃ」


 瞳をきらきらと輝かせながら顔を迫らせるユウナに向けて小さくコクりと頷いたシエルは、アネットに行った直前の動作を思い起こす。しかしながら、いくら記憶を探れどめぼしい行動と言えばアネットの耳や尻尾を興味の赴くままに触り散らしたくらいであった。果たしてこの行動にそれほどの意味があったのかと言われれば疑問が残るところではあるが、羨望と期待の眼差しで迫りつつあるユウナの表情を見てしまうとそんなことを言えるはずもなく、とりあえず同じ行動を試してみることにした。


 より集中し十数分程前の自分の行動を記憶から丁寧に呼び起こし、なるべくそれを真似てユウナの耳や尻尾を撫で回すシエル。ユウナの綺麗なブロンドの髪に完璧にマッチしている金色の三角耳とふさふさの尻尾を丁寧に優しく触ってやるとそれがよほど気持ち良いのか、ユウナはトロンとした熱っぽい表情を浮かべながら、背中に生えた小さい羽根をパタパタと動かし始めた。


「ユウちゃん大丈夫にゃ?」


「だい……じょ……ぶ……続け……て……みゃ」


 まるで我慢度を表すかのように、ユウナの背中から伸びる双翼のバタつく速度が上がっていく。しかし、いくら経てどもユウナの体には一向に変化が現れない。


「んー、本当にこれでいいのかにゃ?」


 どこからどう見ても、ただペットを可愛がっているだけにしか見えない画面である。これには流石のシエルも不安になり、目配せでアネットに助けを求めた。


「ダメなのか?」


 それに気づいたアネットの問いにコクりと頷いて答えるシエル。つい先ほどの記憶をなるべく鮮明に思い出し、できるだけ忠実に再現してみたはずだが成果は得られなかった。その後も関係ないだろうとしか思えない記憶の中の行動をいくつも試してみたが、当然の如く求める結果は出なかった。


「そうみたい……にゃ」


 苦笑いと困った顔を同時に浮かべるシエルの言葉を聞いてユウナは落胆……と思いきや、よほどシエルに撫でられたのが心地よかったのか、いまだに幸せそうな表情を浮かべているのが不幸中の幸いである。


 しかし、いずれにしてもシエルの神力らしき力が働かなかった事は事実である。その原因が何らかの条件を満たしていないからなのか、能力の上限を超える事柄からなのか、はたまた、そもそもアネットの姿を元に戻したのは神力のせいではないのか、現状では不明である。

 

 各々が他に何か可能性はないかと考えに(ふけ)っている時である。


 『――ガッガゥ、ガッガゥ』


 日中を過ぎて日が傾き始めると、背の高い岸壁に覆われたファルス・リビン内は陽光の差し込み量が減り薄暗さがより際立つ。時刻にすればまだ夕方には早いのだが、ヴェルスタッチ自体が有する魔力で発光するだけの光量では少々物寂しくなり、ぼちぼちと照明が欲しくなってくる程度には陰りだした迷宮内に響き渡る咆哮。シエルらがまだ探索していない先の方向から聞こえるそれは、獣の雄叫びにしては低く短い。そしてなにより、獣を遥かに凌駕する獰猛さを隠す気のない荒々しいものである。


 この場にいた全員が確かにそれを耳にし、互いに顔を見合わせて何事かと確認し合う。しかし、誰ひとりとしてその答えが分かるものはいなかった。


 『――ガッガゥ、ガッガゥ』


 再び響く咆哮。今度は先ほどよりも大きな音で、より凶暴さを増したものである。野獣、怪獣、化物といった類の単語が連想される獰猛な咆哮は明らかに友好的な存在ではないという事は誰しもが直感的に理解していた。


 一同は必死に耳を澄まして情報を得ようとする。しかし、ファルス・リビン内は複雑に入り組んでおり、分岐の数も半端なく多い。そのうえ、そそり立った岸壁のせいで音が反響してしまうため、音源までの距離や方角がほとんど掴めない。


 周囲の薄暗さも相まって不気味さは一層増すばかりである。


「――ちょ、ちょっと次から次へとなんなのみゃ!?」


「分からない……だが、とりあえずこの場は離れた方がいいだろう。今回の調査はここまでということで異存はないか?」


 アネットは咆哮が飛び込んできた先の暗闇を鋭く睨みつけたままビブロに問いかけた。この声の主と遭遇してはいけない、その場の全員が本能的にそれを感じている。


「は、はい。とりあえず十分なデータは取れましたし、問題ありません」


 ビブロは背負っていた大きなリュックサックに機材を詰め込み、撤収の準備を行いながらそう答えた。それに倣ってユウナ、シエルも慌てて撤収の準備を進める。そんな最中でも謎の咆哮は段々とその大きさを増しながら聞こえ続けている。それどことか、先程まで感じられなかった地鳴りまで聞こえ始めた。


 小さい地震で地面が揺れているような感覚、それが一定の感覚でリズミカルにおこり、咆哮が大きくなるのに比例してこちらもどんどん増大していく。間違いなくこの咆哮主の足音である。相変わらずに暗がりのせいでその姿は確認出来ないが、足音のリズムから察するに、それなりに速いペースでこちらへと向かって来ているらしい。


「皆、急ぐんだ」


 焦りのみえるアネットの険しい声色に急かされるように、大方の撤収準備を終えた一同は元来た道を引き返し始める。その足取りは自然と速くなっている。


 分岐に次ぐ分岐、周囲を見渡せない岸壁、方向感覚を狂わせる似たような景色。まるで超難易度の迷路のように複雑に入り組んだ虚像の山峡(ファルス・リビン)内でシエルらが唯一帰還の頼りにすることが出来るのは、ビブロが山峡の入口から発動させている祝福の導き(レイズ・リターン)のみである。


 彼から伸びた光線の先にあるスタート地点へ向かって四人分の足音が響く。そしてそれらの後方からもう一つの荒々しい足音が轟いている。

こんばんわ、作者の村崎 芹夏です。


はてさて、いよいよ年の瀬ですね。ホントイチネンハハヤイナー


更新・・・2ヶ月かかっちゃいましたorz


ちょろっと言い訳をさせてください! PCが・・・PCの調子がとんでもなく悪かったんです><


10月入ったあたりから起動⇒ブルースクリーン⇒強制終了がものすごい頻度で発生し、まともに使えなかったのです。

色々と試して現在はやっとブルースクリーンは落ち着いたのですが、それでもまだイマイチ調子が良くないのです。

もうそろそろ買い替えも考えないとですね・・・



そんなこんなでしばらく執筆どころではありませんでしたorz


っとまぁそんな話は置いておいて、今回でようやくファルスリビン編の本題にちょこっと脚を突っ込み始めたシエルさんたち。


さて今後どうなっていくのでしょう!?(自問


年内中にあと一回更新できるかな・・・かな!? 新しい趣味を始めた上に、新しいゲームが届いてしまったので執筆できるか分からなくもなくもないかもしれないです。



ではでは今回も読んでくださった方々、ありがとうございました。


また次回更新した際にはよろしくお願いします。

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