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代行神シエルにおまかせください!  作者: 村崎 芹夏
「助かりました!」 
44/52

助かりました! Ⅰ

 夜の帳も完全に下りきったセンスティア。地角を覗けば、仄暗い平原地帯で夜行性の小型モンスター達が活動を始めた気配を感じ、天涯を仰げば、青白く輝く見事な三日月と黄色みを帯びた鮮やかな満月が睨めっこしている情景を見ることが出来る。


 センスティアも夜間は気温が落ちるらしく、陽気な太陽のおかげでポカポカと暖かげな昼間と比べ、涼しげに感じるこの時間は一味違った過ごしやすさである。


 やや冷気を帯びた風が肌を撫でるたびに、ひんやりとした優しい感触が一層気持ちよさを引き立てる。しかし、この風はシエルらに向かって吹いているものではなく、むしろ彼女たちが風に向かって突き進んでいるといっても過言ではない。


「クゥーンクゥーン」


 漆黒の鱗で全身を覆われたドラゴンがその禍々しい見た目とは裏腹に、なんとも愛嬌のある可愛らしい声を上げて鳴いた。


「グーちゃん大丈夫? 疲れてない?」


 背中に乗るシエルが気遣って心配の言葉を投げかけると、まるで言葉を理解した上で「大丈夫!」とでも言わんばかりに元気よく双翼で空を仰いで応えた。シエルもその行動の意味を読み取ったのか、背中の一部を撫でながら「ありがとっ」と小さく呟く。


 常闇の情景よりも更に深い黒のグドーは、シエル、アネット、ユウナ、そして測量士のビブロを乗せて東へと突き進んでいた。


 ウトウトと首を前後に動かし、半目状態で眠そうなビブロは、相変わらず自分の体よりも遥かに大きなリュックサックを背負っている。そのせいもあり、普段は大きなグドーの背中がやや窮屈な状態になっていた。


 移動の最中でユウナがリュックの中身について問いかけると、ビブロは親指で眼鏡のブリッジを押し上げながら、「測量に必要な機材です」と答えた。必要な資材ならば仕方ないと納得し、誰もこの狭苦しい状況に文句を言う者はいない。重量面に関しても、さすがはドラゴン種といったようで、グドーは普段と何も変わらぬ軽快さで飛行を続けている。


 目的地の危険領域まではグドーの飛行速度をもってしても時間がかなり掛かるらく、出発から数時間たった現在でもまだ到着する気配はない。


 シエルの後ろでは、気持ちよさそうに眠るアネットとユウナの姿がある。長時間の移動ということで交代で仮眠を取ることとなっていた。いつもは凛とした強気な表情を見せているアネットも、寝顔は歳相応の女の子らしい可愛さが垣間見えるもので、普段は見ることのできない騎士少女の新たな一面を見ることが出来たシエルはやや嬉しそうな表情である。


「ビブロさん、私が起きてますのでどうぞ寝てください」


 全員で一斉に寝てしまっては何かあった時に対処が遅れるというアネットの意見と、全員が一斉に寝てしまったらグーちゃんが一人になって可哀想というシエルの意見から二人ずつ睡眠を取ることになり、現在はシエルとビブロが起きている番なのであるが、コクリコクリと無気力に首を揺らすビブロを気遣い、シエルが声を掛けた。


「あっ、いえ。依頼主の私が寝てしまうわけには……」


 シエルの呼びかけでハッと目を覚ましたビブロは顔を左右に振って眠気を吹き飛ばす。しかし、そんなちょっとした動作で消え去るほど弱々しい眠気では無かったらしく、またすぐにウトウトと首を揺らし始めた。


「無理しないでくださいね。いつでも寝て大丈夫ですので」

 

 光の届かない深海をスイスイと泳ぐかの如く、ギアナー・ナイトドラゴンは翼を羽ばたかせ続ける。


      ✽✽✽


 「シエル、起きるんだ。もうすぐ着くぞ」


 アネットに体を揺すられ、はにゃーという間の抜けた声を上げたシエルがゆっくりと瞼を上げると、飛び込んできた情景のせいで普段は寝起きの悪い彼女の脳が一瞬で覚醒を迎えて澄み渡った。


 深夜に出発したシエルら一向のすぐ上に広がる空は、星明かりが煌めいていた暗闇が過ぎ去り、ぼんやりと明るみがかった姿を見せている。遥か先、空と地の境目には新たなる始まりを告げる双陽の鱗片が覗いていた。そしてその光に当てられ、地上に現れる情景。青々と茂っていた草原はいつしか過ぎ去り、代わりに広がる岩肌がむき出しの大地。砂地の地面には多少の緑も垣間見ることができるが、フィンガロー周辺の柔質な植物とは異なった種類ばかりである。


「わぁー!」


 この景色の中でもっとも印象的な点が、視界の端から端まで、終わりが見えないほどに続いている岸壁地帯であろう。まるで迷路のように複雑に入り組んだ渓谷の深さは優に1000メートルを超えている。赤銅色の岸壁の中腹にはうっすらと広範囲に霧がかかっており、まるで空に浮かぶ雲を突き抜けて岩柱がそびえ立っているような、そんな不思議な光景である。ゴツゴツと隆起した岩肌には人工的に手を加えられた様子はなく、これが自然の織り成したものであることは一目見れば分かった。

 

 シエルから漏れた感嘆は簡素であるが、実に的確に心情を表しており、アネット、ユウナ、ビブロ、そしてグドーまでもが思わずその光景に見とれてしまう。圧巻、その一言に尽きてしまう。


「ここが目的地なんですね!」


「はい、ここが《危険領域4》に指定されている今回の調査地、通称”虚像の山峡(ファルス・リビン)”です」


 ビブロが限界を迎えて眠りに落ちてから程なくして、アネット、ユウナが起床。それによりシエルも睡眠をとっていた。それからたっぷり数時間の後、一行はついに目的地に到着したのであった。


「こんなに綺麗なのに危ない所なんですね」


「えぇ、正確にはあの山峡の迷路からが危険区域に指定されている場所になっていて、危険なモンスターや植物が生息していることが既に報告されています。そのおかげで人の手がほとんど入らずに、あの光景が残されているというのもありますが」


「はにゃ、ダンジョンって感じですね!」


「そうですね、命の危険がなければ探検といった雰囲気で楽しめるかもしれないですね」


 シエルのどこか能天気な発言に、白衣姿の男は眼鏡の奥で瞳を垂らしながら微笑を浮かべた。


「今回はあの岩で出来た迷路の中を調査すればいいってわけね」


 ユウナの補足にビブロが頷いて答える。


 調査に関しては、危険区域に長時間留まるのはモンスターに襲われるリスクが高まるとのことで、朝日が昇ってから夕日が沈むまでというリミットを設け、日帰りの依頼ということで話がまとまっていた。これを提案したのは他でもないビブロ本人である。もともと測量というのは一日二日で終わるものではなく、その地に何度も脚を運び、地道に少しずつ積み重ねていくものだという。今回はその足掛かりであるため、あまり大掛かりな測量は行なわず、無理のない範囲で調査するということらしい。


「今回は立ち寄りませんが、虚像の山峡(ファルス・リビン)の付近には小さな村もあります」


「危ない場所なのに近くに村があるんですか!?」 

 

「危険領域と言っても調査が進んでいないというだけでまったく未開の地というわけではありません。それに……危険領域というのは我々が勝手に呼称しているだけであって、この土地に住まう人々にとっては大事な故郷なのです」


 恐らくビブロは、仕事柄現地の人々と接する機会が多いのであろう。彼の解釈にシエルは思わず納得してしまう。


 そうこうしているうちに、グドーはみるみる虚像の山峡(ファルス・リビン)へと近づいていた。


「ドラゴンさん、あの山峡の入口付近に着陸してもらえますか?」


 グドーにもやたら丁寧な口調でお願いをするビブロ。しかし、グドーからの反応は返ってこない。そこで銀鎧(ぎんかい)を鳴らしたアネットが苦笑いを浮かべながら漆黒のドラゴンへと手短に話しかける。


「グドー、頼むぞ」


 すると今度はクゥーンという鳴き声でグドーが応え、すぐさま降下の体制に移った。いくらグドーが人に危害を加えないように育てられたとはいえ、誇り高きギアナー・ナイトドラゴンであることに変わりはない。ビブロを無視したのは、心を許した相手以外のいうことは聞かないという高いプライドの表れなのかもしれない。


 グドーの緩やかに高度を落としていく様は、背中に乗った者たちに対する配慮であろう。ゆっくりと着実に近づいてくる地面。そしてシエルらが着陸の衝撃で振り落とされぬように、グドーの脚が優しく大地を捉えた。長い長い空の旅を終え、久しぶりの地面の感覚を楽しむ黒鱗に覆われたドラゴンの背中から乗客が次々と砂と岩が入り混じった地面を踏む。


「近くでみると一層すごいね!」


 シエルの眼前には虚像の山峡(ファルス・リビン)の壮大な岸壁が聳えていた。地上から見上げるこの山峡は、空から見下ろした時よりも遥かに圧倒的な存在感である。


 危険区域に指定されているこのエリアに今から足を踏み込む……普通ならば恐怖や怯えなどの感情が湧き上がるものであるが、好奇心旺盛な代行神の少女が抱いているのは、多少の緊張感と、壮大なワクワク感であった。


「さぁ、行ってみよっ!」


「はい、お願いします」


「そうだな」


「ちゃちゃっと済ませちゃいましょ」


 シエルの号令に各々の言葉で返した一向は虚像の山峡(ファルス・リビン)に向けて歩き出した。


こんにちは、村崎 芹夏です。


いやはや、執筆がまったく進まず更新が遅れてしまい申し訳ありません。 とはいえ、私が遅筆なのは大して珍しくもない・・・というよりも通常運転の証拠です!(笑)


去年の夏もそうだったのですが、今年もぼちぼちと忙しくなりはじめ、執筆できる時間が圧倒的に減ってきております。なるべく空いた時間を見つけてはちょいちょい執筆するようにしていますが、当面の間は更新がだいぶゆっくりになりそうな。

すみませんですorz


さてさて、今話から新しい章に入ります。サブタイは現段階では割と適当に付けてるので、もしかしたら途中で変更するかも・・・


私が異世界の情景を書くにあたって、大抵は参考にしている地域というか場所があります。今回のファルス・リビンも実は某所を参考に(行ったことはないので写真をみながら)書いております。どこかわかりますかな?


こういうふうに、裏設定?を考えながら読んでいただくのも、もしかしたら楽しみ方にあるかもしれませんね。


新作の方の執筆もゆっくりながら進んでおります。代行神はストックを溜めず、書けたら即更新スタイルでやているのですが、新作の方はある程度ストックを貯めてから更新というやり方でいきたいと考えており、今はそのストック期間中です。


7月までには投稿開始出来ればいいのだけどなぁ・・・



というわけで、今回も読んでくださった方々、ありがとうございました。


また次回投稿した際にはよろしくお願い致します。

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