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代行神シエルにおまかせください!  作者: 村崎 芹夏
「はい、おまかせください!」
43/52

はい、おまかせください! Ⅴ

「どうも、こんにちは」


 神務所内に飛び込む男性の声。男の割にはやや高めで細身のある、どことなく気弱そうな印象の声質である。それに相対するように、ひょろりとしたやせ型、高身長に分厚い丸レンズの眼鏡という、いかにもといった風貌の声主。


「こんにちは!」


 ティーセットを片付け終えたシエルが、男のたどたどしい声を吹き飛ばすかのような元気さで挨拶を返すと、男はそれにややびっくりしたような仕草を見せた。


 眼鏡男が身に纏う、床すれすれまである長丈の真っ白いローブは、どこか科学者などの白衣を連想させられる。


 「どっこいしょ」などと、いかにもおっさん臭い効果音を口にしながら、自分の体積の三倍はあろうかという巨大なリュックサックを床に下ろしてひと呼吸付いた男は自己紹介を始めた。


「初めまして。私、測量士のビブロと申します。この度は代行神様にお願いがあって来ました」


「ビブロさん、こんにちは。私が代行神のシエルです」


 ビブロは嬉々とした表情で微笑みかけるシエルを確認し、親指で丸メガネのブリッジを持ち上げ位置を直した。


「私、測量士としてセンスティアの地図を作る仕事をしております」


「測量士か。これまた立派な仕事をしているのだな」


 ティータイムの最後の後片付けとして、テーブル拭きを終えたアネットがエプロンを脱ぎながら、興味深そうにビブロに近づいていく。


「測量士って具体的にはどんな仕事をしているの?」


 同じく近づいてきたユウナがビブロに尋ねた。


「いえいえ、騎士様の仰るほど立派なものではありませんよ。ただ、世界各地に赴いき、その地の地形や距離、生息しているモンスターや植物などを記録し、それを地図として記していくのを繰り返すだけの地味な仕事です」


 ビブロは謙遜してる様子などなく、苦笑いを浮かべながらそう答えた。


 シエルは興味深そうに頷きながらビブロの話を聞いている。そこで、ふと自分たちが立ち話をしていることに気づき、白衣姿の男を綺麗になったばかりのテーブルに着くように促した。まるで営業先に出向いたサラリーマンのように、へこへこと申し訳なさそうに頭を何度も下げながらビブロが木質の椅子に腰を落とした事を確認すると、それに続いて神務所の面々も対面に着席する。


「このフィンガローの街で測量士としてセンスティアの地図作りを行っているのは私を含めて三人です。もう長いこと三人でひたすら地図を作り続けてきたのですが、まだまだ完成には程遠くて……」


 そう言いながらビブロは先程下ろした巨大なリュックサックをガサゴソと漁り、中から直径三十センチメートル、長さ一メートルはあろう、一本の筒を取り出した。ビブロが親指でメガネを持ち上げて位置を修正してから、筒の天板部を人差し指で軽くノックする。すると、筒が青白い閃光を一瞬だけ放ち、”カポッ”という空気の押し出る音とともに筒の天板部が消失した。開口したばかりの筒に手を入れたビブロは、そのまま中身を引き抜く。中から姿を見せたのは、一目見ただけでも一級品だとわかるほどの上質な羊皮紙が何重にも丸められたものである。


「これは?」


 シエルがいつもの好奇心旺盛な少女の眼差しで羊皮紙のロールを見つめると、ビブロが手際よくそれを広げ始めた。


「我々が今まで作ってきた地図です。そうですね、私たちの人生と言っても過言ではないでしょう。しっかりと計測して製図してますので距離感はそれなりに正しいですよ」


「わぁー、すっごい!」


「これだけの物を作るとは素晴らしい!」


「ホント、これはすごいわね」


 ふたつ折りの状態だった羊皮紙を開き、さらにロールを解いてやると、地図の大きさは想像以上のものであった。十人以上が優に囲うことが出来るサイズであるテーブルの端からダラリと羊皮紙の隅がこぼれ落ち、神務所の床にまでぺったりと伸びている。地図の表面には無数の家や城、木々、洞窟、湖などのシルエットと、その下には名称などが事細かく記されている。かなり上等な素材の羊皮紙を使用しているのか、地図上にはびっしりと書き込まれているが、インクの滲みやシミなどの汚れは一切見られない。さらに不思議なことに、ふたつ折りにされ、尚且つぐるぐると丸められていた地図であるはずなのに、折り目や丸まりの癖なども存在しなかった。


 アネット、ユウナが興味深げにビブロの地図を眺めていると、シエルが楽しげに叫んだ。


「あっ、ここがフィンガローですね!」


 丁度、地図の真中心に位置する場所に他よりもやや大きげなお城のシルエット、そしてそれを取り囲むように家々のアイコンが四つ並んでいる。どうやら城を囲う街を表しているようだ。それらの下には、走り書いた筆記体のような筆跡、センスティアの文字で”フィンガロー”と記されている。


「そうです。この地図はフィンガローを中心として作っております」


 フィンガローが大きめのシルエットと言っても親指の爪程のサイズである。この地図上ではとてもちっぽけに見える。ビブロの言うとおりこの地図の距離感が正しいのであれば、これだけ大都市であるフィンガローのアイコンを基準としてみると、センスティアという世界の広さがとてつもなく莫大であることが容易に伺えた。


「これは世界地図ですが、他にも街や遺跡、山岳や森林などの細かい地帯の詳細を記した地図も同時に作っております」


 ビブロは親指で眼鏡の位置を直しながらシエルらに説明をした。


 ”わぁー”とか”おぉー”とか”はにゃ”などと、なんとも純粋さ溢れる感嘆を漏らしながら、地図を食い入るように見つめるシエルの視線がフィンガローのアイコンから幾分離れたところで代行神の少女が不思議そうにふと訪ねた。


「あれ? ここから先は地図が何も記入されてない。それにこの《危険領域4》ってのは?」


「《危険領域》というのは、人に襲いかかったり、物を破壊したりといった凶暴なモンスターや、致死性が高かったり、禁忌レベルの呪いを振りまく危険な植物が生息する地域を差し、横にある数字はその危険度を1を最小、5を最大として5段階で表しています」


 ビブロの説明を聞きながら、シエルが地図上を見回してみれば、確かに色々な箇所で《危険領域》の文字が見受けられた。馴染みのある場所でいえば、フィンガローの南方に位置する木々のシルエット、”ロングルの森”という文字の下には《危険領域2》と表記されていた。これは、ロングルの森を住処とするモンスター、ラグトスや神経毒などを有した植物が多数生息しているからであろう。


「《危険領域》の他にも《制限領域》というものがあります。これは、超危険種……例えばそう、ドラゴンの生息が確認されていたり、超高純度の魔力を帯びた鉱石が採掘出来るといった地域を指すもので、四神(テトラ・テオス)から許可をもらった者以外の立ち入りが禁止されています」


 ビブロの指先は、《危険領域4》と書かれて白紙となっている地図のさらに先に置かれており、そこには”ギアナー山脈”《制限領域》とセンスティアの文字で確かに書かれていた。ギアナー山脈は漆黒のドラゴン種、ギアナー・ナイトドラゴンが縄張りにしている地域として有名である。


「《制限領域》とは違い、《危険領域》への進行に許可等は必要なく、極端に言えば誰でも入ることは可能です。ただ、当然危険なモンスターや植物が出現する可能性がありますので、自己責任の上で……という暗黙の了解のもとになりますが」


 危険領域はその危険性もあってか一般人が近づくことはほとんどない。だが、逆に言えば、それは手つかずのままである資源の宝庫ということにもなる。その地域でしか取れない特有の鉱石や植物は勿論、そこでしか生息していないモンスターの素材などは、商いを生業とする者達にとっては宝の山である。もっとも、商人の大半は戦闘力を持たないので、護衛としてフリーの騎士や魔道士を雇ってから訪れるのが当たり前となっている。無論、固有資源目当てであったり、戦闘スキルを高めたい冒険者がソロやパーティーで訪れることも少なくはない。


「はにゃ、危ない所なんですね」


「そうなんです。そしてそれが今日お邪魔させて頂いた理由でもあるんです」


「と言うと?」


 その言葉とは裏腹に、アネットは話の流れから依頼の内容におおよその検討を付けている様子である。そんな事を知ってか知らずか、眼鏡を直しながらビブロは律儀に答えた。


「はい。フィンガロー東方にある《危険領域4》に指定されているエリアの測量を行いたいのですが、情けない話、私はモンスターに襲われたら一秒も持たずにやられてしまう自信があります……。ですので、代行神様にお供して頂ければと思いまして」


「なるほど。そういうことでしたか」


 シエルがうんうんと首を縦に振って頷く。


「いままでは用心棒を仕事にしてる人達に依頼してたのですけど、今回は珍しく全員出払っちゃてて引き受けてもらえなかったのです。用心棒が全員仕事に出ちゃってるなんて事初めてのことでして……」


 ビブロはうなだれたように眼鏡の奥の小さな瞳を落とすと、申し訳なさそうにうつむき加減になってしまう。


「私はビブロさんの依頼を引き受けたいと思うんだけど、アネット、ユウちゃんはどうかな?」


 シエルのやる気に満ちた声が神務所内に響いた。アネットは、口元に手を当てて少し考えるような仕草をするが、すぐさまそれに返答する。


「シエルが引き受けるというなら、私はそれに従うさ。安心しろ。モンスターだろうとなんだろうと、私が必ず守ってやる」


 ユウナに至っては、ほぼ即答であった。


「シエルがやるんなら勿論ウチもやるよ! 治療系なら医魔師(ヒーラー)におまかせあれ! それに、ウチも少しだけなら戦えるしね!」


 二人の友人が快諾してくれたことが嬉しくて思わずそれが顔に出てしまうシエル。


「二人ともありがと! じゃあ決まりだね。私は戦うのは出来ないけど、一生懸命ビブロさんのお手伝いをします」


「おぉ! 引き受けて下さり、本当にありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」


 心配そうに顔を伏せていたビブロの表情がパッと晴れ、今にも嬉し涙をこぼしそうな勢いで喜びを見せた。 


「はい、おまかせください!」


 再びシエルのやる気に満ち溢れた声が神務所内に響く。


「ところで、出発はいつなんですか?」


「出来れば早め……そうですね今夜あたりにでも」


 少しでも早く測量に出かけたいのか、先程までのか細い声色が嘘であるかのように、興奮した面持ちのビブロは長丈の白衣を(なび)かせながら、眼鏡の位置を親指で修正した。

おはようございます。 作者の村崎 芹夏でございます。

いやはや、GWもあっという間に終わってしまいましたね。皆さんはGWをどのようにお過ごししましたか? 私はというと・・・寝てましたorz


大した予定もなく、ただただ寝て過ごすだけだった気がします。執筆・・・やろうとはしたのです。・・・したのですが、出来ませんでした><

ナマケグセガ・・・それに加えて、最近、イラストの練習をしたくてペンタブなるものを買ってしまいまして、初めて使うイラストツールに四苦八苦しながら手探りでお勉強中です。 お絵かきが面白くて執筆が疎かになってるなんてとても言えない!(笑)


ということで、今回の更新内容はいよいよ本格的な依頼受注になっております。


新キャラを出すときは、どうやって個性を出すべきかいっつも悩んでしまいます。会話文だけでも人物区別が出来るように、喋り方に特徴を付けるのも手だと思うのですが、私はそれがどうも下手でした^^; 


結局、地味なとこで個性を出すしかorz これからもっとキャラが増えていったらどうするんだ私・・・


一応今回で「はい、おまかせ下さい!」のパートは終わりで、次回から新しいパートに入って行きますよっと!


ただ、新作の執筆もあるし、お絵かきも楽しいのでちゃんと定期更新できるか怪し(ry


いけるでしょう、きっと。いけなかったらご了承ください。


ということで、今回も読んでくださった方々、本当にありがとうございました。


また次回更新した際にはよろしくお願い致します。

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