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代行神シエルにおまかせください!  作者: 村崎 芹夏
「はい、おまかせください!」
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はい、おまかせください! Ⅲ

 先日の事件の際、医魔師のユウナ・アルテレイの心を操り、代行神シエルをその地位から引きずり下ろために仕向けたとされる謎の男、ノウラント。精神に作用する禁忌の魔導を使う、妙に四神の事に詳しいなど様々な一際目立つ条件から、センスティア騎士団によってその身柄はすぐにでも確保することが出来ると思われていた。しかし、実際にはいくら調べても身柄はおろか、名前以外の素性すら掴むことが出来ず、いたずらに時間だけが過ぎていった。その大きな理由として挙げられたのが、ノウラントの情報を追おうとするとすぐ何かに阻まれてしまっていた事である。それは物理的手段であったり、時には精神的作用であったりもした。ノウラントという存在が、まるで何か巨大な物に守られているかのように。そういう経緯があり、ここ数日全く成果が挙げられていない状況が続いていた。


「ノウラントの正体がわかったのですか!?」


 驚きと喜びの混じった表情で騎士アネットが声をあげた。しかし、肝心のレーミアはあまり満足の表情を浮かべていない。この様子から、新たに掴んだ情報によって状況の好転が望めるわけではなさそうな事が読み取れる。


「いえ、残念ながら正体まではまだ判明していないわ」


「そう……なのですか……」


 主であるシエルの命を間接的に狙われ、ノウラントに怒りを覚えているアネットにとって彼の身柄確保は何よりも優先したい事項なのだろう。レーミアの返答を聞き、残念そうに眉を竦めた。そんなアネットの心相をレーミアも悟った様子である。ひと呼吸おいてから幼い容姿の神は妖精のような声色で話を続けた。


「エリクタスって知っているかしら?」 


 エリクタスとはセンスティアの言葉で《新しい世界》を意味する単語である。しかし、この状況でレーミアの言いたいことがもっと別にあるだろうことは容易に想像がつく。


「エリクタス……その名前には聞き覚えがあります」


 アネットは口元に手をあて、ややおぼろげな記憶を辿るようにそう呟いた。


「確か……四神(テトラ・テオス)が統治するというセンスティアの現体制をあまり良く思っていない人々が集まった反神教団だったかと」


 そこまで口にしたアネットは、記憶がすっかりと鮮明となったのか、更なる情報も付け加えた。


「しかし、ただそういう思想を持った極少数の者達が集まって愚痴を言い合う程度の非活動的な団体というふうに記憶しております」


 創世より世界を司る四人の神々が統治を続けてきたセンスティア。人々にとって四神(テトラ・テオス)は世界の象徴であり、守護者であり、敬意の対象である。様々な形で皆の心の中に好意的な存在として、そして絶対たる存在として根付いていた。しかし、センスティアに住まう人々の全てが同じような考え方を持っているわけではない。極々少数の者ではあるが、テトラ・テオスがセンスティアを統治する事に不満を持つ者も存在した。それは、『たった四人でセンスティア全土を管理しきれるわけがない』という現実的な意見から、『人が神の域に踏み込んではならない』という宗教的な考え、『神なんてクソくらえ』という特に意味のない幼稚な反発など、様々な理由からであった。そういう者達が自然と集まり、出来たのが《エリクタス》というある種の宗教じみた教団であった。しかし、四神を主軸として廻る世界において、そんな彼らがいくら声を荒らげようとも、神々を支持する者達が圧倒的に勝るセンスティアでは蟻が囁くよりも意味のない行為となっていた。

 

 彼らとて、本気で世界を変える気があるのかと問われれば、胸を張って肯定することが出来るわけではなかったし、仮に四神制度を踏破したとして、それに変わる新体制を確立出来るわけでにも無かった。要するに、反神を抱いて不満をぶつけている者達の大半は、本当に世界の変化を望んでいるわけではない。ただ、不満の捌け口が欲しかっただけなのだ。それ故に、文句は言えど、本格的に動きを見せることはなかった。


「えぇ、そうよ……そうだったのよ。だけどここ最近その反神教団(エリクタス)の活動が一気に活発化、直接的になってきたの」


 神妙そうな面持ちで会話をするアネットとレーミア。そこでシエルが何かに気づいたかのようにふと声を漏らした。


「もしかて……」


「あら、シエル、察しが良いわね。そうよ、その教団にノウラントが一枚噛んでいるかもしれないの」


「それは確かなのですか?」


「えぇ、ここ数日、神の居城(グラズヘイム)外に出たあたしの事をずっと影から見守っている者がいたの。最初は放っておいたのだけど、どうにも四六時中、熱い視線を送ってくるもんだからいい加減気になっちゃってね。"やさーしく"問い詰めてみたらエリクタスのメンバーだったってわけ」


 レーミアが"やさしく"という部分を言葉にする時に、例の如く小悪魔が獲物を見つけたときのような薄ら怖い笑みを浮かべたのをシエルは見逃さなかった。一体どのように"やさしく"聞いたのだろうかと想像するだけで身震いしてしまう。


「でも、彼もなかなか強情でね。他の情報は聞き出せなかったのだけど、ノウラントという名前を出したときだけは慌てるような反応を見せたわ。まぁ、その後すぐに逃げられちゃたのだけどね。それから察するに、エリクタスにノウラントが何らかの形で絡んでいる可能性があるというわけ」

 

「なるほど」


「現時点でわかったのはこれだけよ。少しだけ進展したとはいえ、残念ながらこれだけでは状況が一気に変わったとは言い難いわね。一応、今後は反神教団(エリクタス)の方面も調べてみるつもりよ」

 

「状況は変わってないけど……でも次への道しるべは出来たってわけね」


 レーミアの話を神妙な面持ちで聞き入っていたユウナがボソリと呟いた。アネットがノウラントに感じている怒りと同等程度に、彼女もまたその男に因縁がある。ノウラントを見つけ出したいという思いは強く募っているのだろう。

 

 ここで、ふと騎士の少女と医魔師の少女が顔を合わる。そして、事前に打ち合わせでもしていたかのように、互いにアイコンタクトという無言の合図を交換し、同じタイミングで大きく一度首を縦に振ると、珍しく声を揃えた。


「「レーミア様!」」


 凛々しさと柔らかさの二つの力強い音階が重なり合って響き、代行神の神務所内を暖かかく彩る。名前を呼ばれた張本人であるレーミアは、二人の表情と声色から、これから何を言わんとしているのか察したらしく、アネット、ユウナの言葉が続く前に、ニッコリと笑みを放ちながら一言で返答する。


「ダメよ」


「っ!?」


 レーミアの幼い容姿と相まって、まるで天使のような無邪気さを放つ表情とは裏腹に、口から出た言葉は否定であった。これには、さすがのアネット、ユウナも”まだ何も言ってないのに……”という表情で驚きを隠せない

様子である。

こんばんわ、作者の村崎 芹夏でございます。


はてさて、4月に入ったのに寒かったり暑かったりと、落ち着かない日が続いていますね>< そして梅雨に入ったのかと思うほどの雨ばかり・・・嫌になっちゃいます・・・


しかし、そんなことにもめげずに頑張りましょう! 


今回のお話は、ノウラントさんの正体にちょっとだけ近づくというもの。キャラが増えてくるのに比例して考えなければいけないことも増えてくるのでテンテコ舞いです!

代行神と新作、ちょっとずつ同時に書き進めているのですが、やっぱり同時進行は難しい! 頑張らなければっ!


ということで、今回も読んでくださった方々、ありがとうございました。


また次回投稿した際には宜しくお願いいたします。

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