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代行神シエルにおまかせください!  作者: 村崎 芹夏
「はい、おまかせください!」
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はい、おまかせください! Ⅱ

「そんな、お礼だなんて。大したことしてないですよ。それに私もあのおかげで大事な事を決意できました! 私こそ、ありがとうございましたです!」


「本当シエルちゃんは良い娘だね。おっと、ちゃん付けだなんて代行神様に失礼だったわね」


「あっ、いえ。今までどおりで大丈夫です。様なんて逆に慣れてなくて照れちゃいます」


 シエルは身振り手振りで大げさに照れくささを表現した。センスティアにとって四神は絶対たる最高権威者のため、神務所に訪れる人々は、例え代行神と言えども例外なく、当たり前の如く様付けでシエルに接していた。それにどうしても違和感を覚えてしまい、耐えられなかったシエルは事あるごとに「様はなしでお願いします!」と相談をしに来た客に対して逆にお願いをしてしまう程であった。相談者達は、今までそんな事を言う四神など皆無だったため、初めこそ困惑の表情を浮かべていた。しかし、元々前例のない不思議な魅力を持った者として民衆の興味を惹いたシエルのそう言った類のないユニークさは、彼女の評判に良い意味で一層拍車を掛けていた。


「ふふふ、本当にシエルちゃんは面白いわね。きっと良い(テオス)になれるわ」


「ありがとうございます。もっと皆さんの身近な存在になれればと思ってます!」


 無邪気な笑顔を浮かべるシエルを見て微笑みながらエマルダは、時間を確認するためにポケットから機巧品の懐中時計を取り出し、竜頭をノックしてカバーを開いた。 長いこと使っているのか、カバーの表面の金属は光沢が薄れて草臥(くたび)れており、所々小傷も見受けられるが、時計としての機能自体は未だ現役らしく、文字盤上の四本の針は元気よく動き続けている。機巧品は魔導機巧のそれと比べ、精密かつ繊細であるため寿命が短いというのが常識とされているが、これだけ年季の入った機巧品が完璧に近い状態で動作しているという事だけで、これを造り上げた機巧師がどれだけ腕の良い職人か想像に容易い。


「やはりその懐中時計、いつ見ても素晴らしい。確か、機巧師の御子息が作られたものだとか」


「えぇ、そうなの。騎士様に褒められて、ディーンもきっと鼻が高いわね」


「息子さん、ディーンさんって言うんですね。こんな素敵な時計を作れる職人さん、私も会ってみたいなー」


「……」


 シエルの何気ない返答に対し、エマルダは突如表情を曇らせた。哀愁漂うその顔色には何かに対して迷いがあるような様子である。


「エマルダさん?」


 そんなエマルダの表情を察し、シエルが心配そうに声を掛けた。代行神の少女からの呼びかけでエマルダはふと我に返ったように、どこかぎこちない笑顔を慌てて見せた。


「え、あぁ、ごめんなさいねぇ。 なんでもないのよ」


「あの、何か……」


 なんでもない、その言葉とは裏腹に、エマルダの表情に浮かぶ陰りがシエルの心に引っかかる。何か手助けになれることはないかという気持ちを少女が口にしようとしたが、それは神務所のドアに備えられた小さなベルの音で遮られた。新たな客人の来訪を告げる優しい音色が室内に響き渡り、神務所に居た全員の視線が一気に入口へと移された。


「あら、随分と熱烈な視線で歓迎してくれる神務所なのね」


 鈴の音よりも一層際立った妖麗な声が飛び込んでくる。ドアの先にいたのは、上質な布で縫われた気品と激しさが現れた真紅のドレスに身を包んだ小柄な少女であった。銀糸の束を思わせるような、一本一本が白銀色に輝く長い髪。映るものすべてを吸い込んでしまいそうな程深い翡翠色の瞳が覗く小さな輪郭。どっからどうみてもシエルよりいくつか歳下にしか見えないこの幼い少女こそ、センスティアの地を統治する四神(テトラ・テオス)の一角を担う神、レーミア・フィエルであった。


 「レーミアさん! ようこそ!」


 少々意外な来客者であったが、シエルの元気な声に続いて、アネット、ユウナも声を揃えてレーミアを出迎えた。


「あら、先客がいたのね。お邪魔しちゃったかしら?」


 レーミアは手にした真っ黒い日よけ傘を畳みながら、チラリとエマルダに視線を流すと、古ぼけた床の軋み音を踏み鳴らしながらカウンターまで歩いて行き、やや申し訳なさそうにそう言った。


「あらま、レーミア様。お目にかかれて光栄です。お邪魔だなんてそんな」


 尊敬に値する絶対的な存在である四神の一人、レーミアに会えたことが嬉しいのか、エマルダの先程までの暗い表情はいつのまにか綺麗に吹き飛んでいる。


「レーミア様が神務所に出向くとは珍しいこともあるものです。どういったご要件でしょうか?」


 外出をあまり好まないのか、ただ単に忙しいだけなのか、いずれにしてもシエルがレーミアと神の居城(グラズヘイム)以外で会うのは初めてであった。アネットにしてもこの状況は珍しいのか、騎士の少女はやや冗談めかしく幼神に尋ねた。


「えぇ、先日の件でちょっと伝えたいことがあってね。でもまぁ、後でいいわ」

 

 再度、レーミアはエマルダの方を視線だけを向けた。この場にいるエマルダ以外の者はその意味する内容を瞬時に悟った。先日の件……これは数日前にシエルが狙われた事件のことで間違いないだろう。ユウナがシエルに刃を向けたあの一件は民衆に公開されることはなかった。それは他でもないシエル本人の強い要望からであった。何も知らない一般人のエマルダがいる場所で話すことが出来ない内容のため、レーミアは気を使ったのだろう。


 そんな場の雰囲気を読んでか、エマルダが口を開いた。


「それじゃ、私はそろそろお暇しようかね」


「あっ、でも……」


 先ほどのエマルダの見せた暗い表情が気にかかっているシエルは老婆を引きとめようとする。しかし、エマルダはそれを遮るかのように、ニッコリと優しい笑顔を浮かべて応えた。


「今日はこの前のお礼に立ち寄っただけだからね。また今度ゆっくりと年老りの愚痴に付き合っておくれ」


「はい、私でよければいつでも」

 

 エマルダはぺこりと小さく会釈をすると、小さく右手を振ってから神務所を後にした。


「なんか邪魔しちゃったみたいで申し訳ないわね」


 老婆がドアを出てからじっくり十数秒が経つのを待ってから、レーミアが口を開いた。いつも悪戯めいた表情を浮かべている印象の彼女にしては珍しく、申し訳なさそうな様子である。


「いえ、大丈夫です。それよりも、なにか進展があったのですか?」


「えぇ、ユウナの言っていた黒服の男、ノウラントについて少し分かったことがあってね」


お久しぶりでございます。 作者の村崎 芹夏です。


前回の更新から一ヶ月以上が空いてしまいました。いやはや、本当にお待たせしました。

新人賞応募原稿ですが、無事(と言ってもまだまだ手直ししたい点は山ほどあったのですが・・・)完成し、応募も完了しました。あとは結果を待つだけです!


改稿原稿ですが、ちょいちょい合間をみて既存の原稿と差し替えを行っていきます。(既に第一章は差し替え済み)

文体や視点など大幅に改稿しております。また、設定も多少変更している点があります。 一応、読み返さなくても続きに支障はない内容ではありますが、もしよろしければ改稿後の原稿も読んで頂ければ幸いです。


というわけで、また当面の大きな目標が一段落しましたので、またゆるーりと執筆を再開していきたいと思います。

しっかし、んー! 応募が終わって気が抜けたのか、なかなか思うように執筆が進みません><


今話ももうちょっと書きたかったのですが、空白の更新期間を埋めるため、結局この短さで投稿する羽目にorz お許しくださいまし!


こんな超絶ゆっくりなペースの代行神よりも、更にゆるいペースで新作の執筆も勧めております。というか、最近では新作の方の設定やら展開を考える方が楽しいという事態>< ある程度たまったらこちらも公開しようかと考えております。



はてさて、それでは相変わらずな作者ですが、、今回も読んでくださった方々、本当にありがとうございます。


また次回投稿した際には宜しくお願い致します!


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