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代行神シエルにおまかせください!  作者: 村崎 芹夏
「はい、おまかせください!」
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はい、おまかせください! Ⅰ

 センスティアには雨や曇りといったものが存在しないのだろうかと思えてしまう程に、ここ数日の間は真っ青な空が一面を埋め尽くす快晴が続いており、今日もまた例外ではない。


 相も変わらずセンスティアの上空の大海原に鎮座する双子の太陽はスッキリと気持ちの良い陽気を全土に降り注ぐ。とは言え、決して嫌になるような暑さではなく、むしろ心地の良い春先のような暖かさである。 


 純粋な思いと意図せぬ笑いで観衆の心をグッと掴んだ代行神シエルの挨拶から既に三日が経過しており、街ぐるみの騒がしかった祭りの余韻もすっかり消えはて、フィンガローはいつもの景観を取り戻していた。


 シエルはというと、あの日の翌日から目が回るほどの忙しさに追われている。そんな中、代行神として人々に受け入れられたシエルはレーミアからささやかなプレゼントを受けっていた。

 

 現在シエルが間借りさせてもらっている赤い外壁の小洒落た家は、以前までゲンロウが神務所(しんむしょ)兼、住まいとして使用していたものである。神務所とはそのテオスの仕事の拠点となる施設であり、四神として活動を行う上で重要な場所となる。


 レーミアは「シエルにも神務所を用意しなきゃね」などと不適な笑みを浮かべると、ゲンロウの神務所の入口に備えられた雰囲気のある木製の扉に掛けられた"神務所"とだけセンスティアの文字で書かれたライムグリーンに発行する簡素な看板の上を右手の人差し指で忙しそうになぞり始める。


 納得の行く仕上がりになったのか、宙を走らせていた指先を止め、満足気な顔でシエルを見つめたレーミアの先にはもともとあった"神務所"という文字の横に"シエルの"という文字と、それを縁どるようにいくつかの花のイラストが書き加えられた看板が新たに出来上がっていた。

 

 レーミアは悪戯っぽい笑みを浮かべながらゲンロウの家の看板を勝手に"シエルの神務所"に書き換えてしまったのだ。それを見たシエルは嬉しくなかったといえば嘘になってしまうが、やはり他人の物を勝手に触るという後ろめたさから、素直に喜んでいいのか困っていた。そんな最中、タイミングが良いのか、悪いのかどこからともなくアネットがいつもどおりの銀鎧(ぎんかい)姿で現れ、たった今出来上がったレーミアの自信作であろう看板に気付いた。


 元々アネットはゲンロウの仕騎(しき)であり、現在は彼女がこの家を管理している。そんなアネットがこのレーミアの暴虐無人な悪戯をみたらどんなに怒るだろうか、そう想像して思わずシエルはしどろもどろしながら視線を泳がせてしまったのだが、当の本人から出た言葉は意外なものであった。


「看板を変えられたのですね。シエルらしさが出てとても良いと思います」


「でしょ! あたしのセンスに間違いはないわ」


「はにゃ!? いいんですか?」


 てっきり怒るとばかり思っていたアネットからの思わぬ反応に驚くシエル。


「いいってのはどういうことだ?」


「だ、だって、ここはゲンロウさんのお家なんだよね? その……勝手に看板変えちゃっていいのかなって。そりゃ、私は嬉しいんだけど……」

 

 その問いに対して、アネットは一瞬だけ眼をキョトンとさせた後、ハッハハっと可笑しそうに笑い出す。今度はシエルが眼をキョトンとさせ、一体何がどういうことなのかという表情を浮かべており、それについてはレーミアが応えた。


「いいのいいの。勝手にいなくなったあいつが悪いのよ。それにこんなこと気にするような人じゃないわ。いっそ四神(テトラ・テオス)の権限でこの家ごとシエルのものにしてやろうかしら。そうすれば流石にあいつもびっくりするわね」


 レーミアが良からぬ事を思いついたときにいつも浮かべる表情になっているところをみると、冗談に聞こえないのが怖いところである。アネットも「良いですね」などと悪ノリをするものだから、シエルが必死に首を横に振って収集を付けるのが大変であった。 


 神務所の一階はフロアが丸々ひとつの部屋となっており、入口の観音扉の対面の角にはL字型のカウンターが設置され、その後方には数多くの書類や小物などを収納することができる大きな棚が据えられている。


部屋の中央には十人以上は優に囲む事ができる木質の丸テーブルと椅子が置かれ、カウンターとは逆の角には二階へと続く階段が見える。ゲンロウはこの部屋を神務所として使ってたという。設備があらかた揃っているということ、アネットが欠かさず掃除や手入れを行っていたため、部屋の状態が完璧に近いことから、この部屋をそのままシエルも相談の窓口として使用することにした。もっとも、フィンガローの街中で買った良くわからない芸術品や花を飾るという独自のアレンジを加えたのだが。


 そんなこんなでフィンガローの遊覧街(サブストリート)の外れで正式に《シエルの神務所》がオープンされたのが就任式の祭りの翌日の事である。


 こんな広い街でも噂が街中に広まる速度は驚くべき速さらしく、オープンされて数時間後には神務所の人だかりは、遊園地の超人気アトラクションのように凄いものとなっていた。


 それからこの三日間は、新米テオスのシエルにとって怒号の日々が続いていた。 ペットの"ハッサク"という名前の猫が逃げ出したので探して欲しい、隣人との喧嘩の仲裁をして欲しい、家の外壁の塗替えを手伝って欲しいなどなど、どれも他愛もない相談であったが、シエルはどんな内容でも全力で真摯に対応していた。


 一日に何件も訪れる依頼が大変じゃないと言えば嘘であった。しかし、それ以上にシエルは自分が頼られるということが嬉しかったし、依頼を無事終えた時に依頼主から言われる「ありがとう」の一言を聞けば、疲れや苦労など一瞬で吹き飛んでしまうのだった。


 今までの歴代四神(テトラ・テオス)には類のないユニークさを持ってデビューした代行神の少女は最初から人々の興味の対象であったが、その仕事っぷりが評判となり、噂の広がる速度に更に拍車がかかって忙しい日々がまだまだ続きそうである。


 そして今日もまた"カララン"という神務所の入口の扉に添えられたベルの音が新たなる客人の来訪を告げる。


「こんにちは! シエルの神務所へようこそ!」


神務所一階のカウンター内で資料の整理を行っていたシエルは、持ち前の笑顔でそれを迎えた。 そして、シエルの手伝いをしていたプラチナブロンドの長髪が特徴的な少女、ユウナ・アルテレイと鎧の上から赤いエプロンを付けるというなんともユニークな格好で部屋の掃除をしていたアネットも同様に「ようこそ」と本日何人目かの客人を歓迎した。


 先日の一件でシエル、アネットと友達になる刑を言い渡されたユウナであったが、本人はまんざらでもない様子で、ここ数日はほぼ毎日神務所に通ってシエルの手伝いを自主的に行っていた。本職の医療所の仕事はシフトを減らして、空いた時間にこなしている。それを聞いたシエルは当然、神務所を手伝ってくれるのは有難いけど、本職を優先するようにという旨を伝えたのだが、ユウナの強い要望により、両立という形になった。  そのため、《シエルの神務所》は代行神シエル、紅の騎士アネット、医魔師ユウナの三人体制なのが常となっている。


「すみません、ちょっとお尋ねしたいのだけども、ここが代行神様の神務所で間違いないかい?」

 

 そう言いながら、神務所の扉を鈴を鳴らしたのは白髪混じりの老婆である。 年齢の割には足腰がしっかりとしており、元気そうな印象を受ける。 そしてシエルとアネットはこの人物に覚えがあった。


「あっ! エマルダさん! こんにちは」


「あぁ、ここは代行神シエルの神務所で間違いない」


「シエルちゃん、騎士のアネットさん、お邪魔するよ」


 老婆はそう言うとゆっくりとカウンター越しにシエルの元へと向かう。彼女の名はエマルダ。シエルがセンスティアに来た日にフィンガローのルオン広場で出会い、エマルダの無くした懐中時計を探すのを日が暮れるまで手伝った。 そしてその出来事がきっかけでシエルは代行神を引き受ける事を決心したのである。


「今日はね、改めて先日の件のお礼をしに来たのよ。本当にありがとう」


  あの時、探した懐中時計は機巧師の息子が作ってくれた唯一無二の大事な物でエマルダは強い思い入れを抱いていた。一時は見つけることを諦めかけたが、それを見つける事が出来て本当に感謝している様子なのが伝わってくる。

こんにちは、作者の村崎 芹夏と申します。 今年二発目の更新! 前回から少し間が空いてしまったのは活動報告でも書きましたが、新人賞に応募するため、代行神の大幅改稿を行っていたためです><  いやはや、しかしあまり捗っていないのが現状でして・・・修正が多すぎるのです! 昔の私に文句を言いたいぐらいです(笑)  なんとか締切までには間に合わせねば! ということで来月末までは更新の間が少しマチマチになっていまいそうです。 (いつもどおりと言えばいつもどおりなのですが・・・!)



さて、false ravin編が今回から本格始動!  この章が終わるまでにどれだけ時間がかかるのか、自分ですら想像がついておりませんが、気長に構えて頂ければ幸いです。 


読んでくださる方の暇つぶしぐらいにはなるように頑張って行きたいと思います!


ちなみに、今話の区切りが微妙に歯切れが悪いのは。丁度いい区切りポイントが見つからず、苦肉の策でぶつ切りにしたからです>< 読み手としてすっきりとしないのは承知の上ですが、どうかご容赦をorz


”村崎芹夏”という名前でツイッターもやっており、近況報告やらどうても良い事などとつぶやいておりますの、良ければフォローしてやってくださいませ。


ではでは、今回も読んでくださった方々、ありがとうございます。


また次回更新した際には宜しくお願い致します!

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